第39話 告白
一方イナクのフェリア、カイル陣営。
フェリアが叫ぶ。
「カイル! 雪が激しくなってきた! イナクの男性第一陣は集まって来てるの?」
「ああ、センターパークだ」
「パークにメンブレンルーフ*を設置しましょう」 (*雪よけ屋根)
「わかった。ガイアに依頼する」
「融雪ファイバーも付けてね」
「了解」
「スタッフのアレンジは終わった?」
ピコが答える。
「問題無いですよ。カイルもフェリアも一息ついてください」
イナク側の作業は急ピッチで進んでいた。
「ふーっ、そうだな。一息つくか。もうすぐザックも戻って来るって連絡があったし……」
僕は一息を入れようとフェリアに声を掛けた。
「フェリア、ちょっと休もう。アンダーパスはアナ達のおかげで順調に開通した。こっちの準備も後はスタッフにまかせれば大丈夫だ」
フェリアはスライダーで颯爽とやってきた。ブルースノーは彼女が近づくと避けているように見える。オーラが強いのか……?
「そうね。まあ順調よね」
沢山の男性が移動しているのを遠くに眺めながら、フェリアと二人で都市を見渡せる建物のバルコニーでベンチに座った。ガイアのターミナルコンソールがある。
「フェリア、お疲れ様」
「あなたもね」
エメラルド色の瞳が呟く。僕にはフェリアが少しずつ変わってきているのが分る。
「色々……思い出してきてるだろう」
「……ええ。と言う事はあなたもでしょ?」
「まあね」
「カイルのアクセス可能な記憶情報は、この2時間で400PPM増大しました。500年前以外の情報も増えています」
「ピコ、余計な事言うなよ」
割り込む左腕のデバイス(ピコ)を指で弾く。
「痛っ」
何も感じないはずのピコがサービスリアクションをする。それを聞いたフェリアがくすっと笑う。
「ねえ、どうして私達って生まれたんだろう?」
フェリアは僕らがフェリーナに創り出された生命体だということを知っていて、知っていながら疑問を投げかける。
「どうしてって、地球に必要だからだろ」
「フェリーナはある意味私達の母ではあるけれど……」
僕の答えを無視してフェリアは少し遠くを見る。
「地球の人類を守るのが私達の仕事ではあるけれど……」
フェリアはさらに知的レベルが上がったか?
「その為だけに生まれた訳じゃない――」
そう言って、フェリアが僕を見る。
「そう。私はそう思うの」
「何だろう? 生まれた目的って?」
「たぶんね、自分が生きる世界を見つける為じゃないかなって思う」
僕はイナク、ニューアイラしか思い浮かばない。地底世界の事か?
「違う。そう言う意味の世界じゃないよ」
しまった。フェリアとはしゃべらくても意思が伝わるんだった。
「じゃあ、何? その世界って?」
「自分が感じる世界よ。温かい世界か、静かな世界か、楽しい世界か、誰と一緒にどのように過ごすか……」
「ふーん」
「カイルはどんな世界で生きたい?」
突然訊かれてもそれは難しい質問だ。500年前の生活か、さらに過去の23世紀の記憶の世界か。
「あなたは経験した過去ばかりね……」
そうか、まだ知らない世界でもいい訳だ。というか心を読むなよ。
「フェリアはどうなんだ?」
「……」
フェリアの顔が少し赤くなる。
僕もなぜか少し照れた。
「カイルとアナと三人で知らないところに行きたい……」
フェリアがぼそりと呟いた。
これはかなり恥ずかしい。
照れ隠しのため、それは『生れた目的』にはならないだろう、と突っ込もうと一瞬思ったが、生まれた目的なんて、そんなもの実際には無い。どう生きたいかが大事なんだと思い直した。フェリアが言っていることはとても大切な感覚なのだと悟り、僕は黙って聞き流すことにした。
なぜかフェリアが少し幼く見えた。
「地底に行ったら……」 僕が代わりの話をした。
「そこは当然、僕らにとって新しい世界で、新しい仲間が待っている」
「新しい仲間?」
「そう、少なくともヴィンスやアイラという僕らと同じ能力を持ったやつらがいる」
「ヴィンス……アイラ……」
「そうだ。地底だが、僕らの世界が広がる。何ならそこから宇宙にもつながっているらしい」
「どんな世界なんだろう?」
フェリアの視線が空中を彷徨う。
「まずは第七層『ペルシダー』を自分の目で見よう、まさに新しい世界だ」
「一緒に?」
「ああ、一緒にだ」
一拍置いて僕は続ける。
「最初に会った場所、あれはハワイだ。今はわかる」
「ハワイ……」
「ハワイで君は僕から最初逃げようとした」
「だって……気味がわ……」
「言うなー」
僕は笑ってフェリアの言葉を遮った。
「僕らは同じ設計の兄妹みたいなものかも知れない、でも生物学的には別の親から生まれた赤の他人だ」
「何が言いたいの?」
「一緒になれるチャンスがあるんだ」
「そんな……」
僕の唐突過ぎる言葉にフェリアは動揺した。
「僕は生まれてからずっと本当の女性を探してたんだ」
「女性なら誰でも良かったんでしょ……」
「違う、フェリアを探してたんだ」
白い羽が飛んでくるのが見えた。ザックのフェーダーヴァイサーだ。
幸せを呼ぶ鳥に見えた。
「それは本当? 私を知らなかったのに?」
「今はわかる。記憶を取り戻した僕の体の細胞の全てが叫んでいる」
あまりに恥ずかしすぎる告白だが、照れは無かった。
フェーダーヴァイサーが到着した。僕は心の中で呟いた。
(ザックには渡さない……)
話は終わりにせざるを得なかった。僕はザックに声を掛けた。
「お帰り、お疲れ様!」
「よう、カイル、フェリア。余裕だな? 準備は終わったのか?」
「大体ね。あとはスタッフに任せている。そっちもうまく行ったようだな」
「ああ、最初はちと肉体労働をしたけど、賢いアナちゃんのおかげで後はすいすいよ」
「これでアンダーパスでシャトルが行き来できる」
「ああ、女が大量に来るぞー」
ザックが嬉しそうに叫んだ。
「ザック、お前……」
僕は目を手でふさいだ。
「ザック、本当にあなたって何なの!」
フェリアのザックへの労いの第一声は罵声だった。
でも僕は気がついている。
ザックはいい意味で本当に女性が大好きなんだ。
決して悪い奴じゃない――
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