第38話 シールドゲートの開放

 トンネル内に何重も設置されているゲート、というか遮蔽壁。かつて男女の世界を隔離していた名残りは、この非常用大型地下通路にもしっかりと設置されている。


 隔離プログラムが終了した後、ガイアは自らが管理している範囲のゲートを五百年ぶりに開けた。これでマザーセンターからランス山脈地下の東のエリア七十パーセントまでは通行が可能になった。


 問題は残り三十パーセントのエリアにある、管理区域外のシールドをどうやって開けるかだ。


 トンネル内をフェーダーヴァイサーで進むアナとザック。やがて、管理区域外のシールドゲートが見えてきた。


 ガイアとカイルの説明によると管理区域外のシールドはランス山脈の両側に3か所ずつ。アナとザックはニューアイル側の三ヶ所をまず解放させ、次にイナク側の三つを片付ける予定だ。


 見えてきたのはニューアイル側の一番内側のゲートである。


「さて、着いた。壁だね~ それにしても苔とか土埃がびっしり。年季が入っていてひどい有様ね」


 ザックがアナに聞く。


「そもそもどういう風に開閉させるんだ?」

「横にスライドだけど、崩れていて無理だわ」


 確かに横にゲートが移動する空間があった形跡はあるが、今は見る影もない。


「ぶち抜くか?」

「うーん、いいやり方ではないわね。瓦礫が通路上に散乱する」

「いや手っ取り早い、ちょっとやらせろ」

「……」


 そう言うとザックが中央に仁王立ちとなり、右手を壁の方にゆっくりと向けた。左手で右腕の手首を支える。目を瞑って右手に神経を集中する。


 右手に青白い光が生じて、それが徐々に強く大きくなる。


(フェリーナと同じ、手から出す『聖なる光』ね、後が大変だと思うけどな……)


 アナが山脈越えの時のフェリーナを思い出す。


 ザックの右手の光が眩いほどのレベルに達した後、『聖なる光』が放たれた。


 光は精密にトンネル中央を進み壁に当たり、吹き飛んだ。確かにあっという間にトンネルは開通した。


「はっはー、どうだ! 一発だろ!」


 アナが仕方ない拍手を送る。

 そしてやれやれ、と言う感じで促した。


「先を見てよ、あの瓦礫どうすんの?」


 ザックが見ると、吹き飛んだ壁の瓦礫が先1キロ以上に渡り散乱している。あれを片付けないとシャトルは通行できない……


「うっ」ザックが唸る。


「瓦礫を片付けて頂戴。私は先に行くからね」

「待て、俺を置いていくのか? 片付けた後どうやって行けばいいんだ?」

「走ってきたら?」

「まさかだろ」


「冗談よ。フェーダーヴァイサーを無人で送るから、それに乗ってきて。じゃあね」


「あ、ああ、じゃあな」


 アナはフェーダーヴァイサーに乗って次の壁に向かって飛んで行った。


 ザックは右手の念力で瓦礫を1個1個トンネルの脇に飛ばして行く。地道な作業だ。



 ◇ ◇ ◇



 セカンドゲートに到着したアナはファーストゲートと同じような壁を見つめた。


「あ、まずフェーダーヴァイサーをザックのところに戻さなくっちゃ」


 アナはフェーダーヴィイサーを自動運転モードで出発地点に戻るように設定した。『白い羽フェーダーヴァイサー』は軽々と加速し、ファーストゲートの方へ飛んで行った。


「さてと……」


 アナは白い大きな壁と手元に並べた装備を見て考える。(この壁をザックの様に考えなしに破壊するのは、得策じゃない……)


 アナはちらりとレーザーガンを見た。いくつか使えそうな装備は持ってきた。


「これが一番使えそうかな……」


 アナは3丁のレーザーガンの照射モードの設定を調整した。温度、ビーム幅、自動制御設定……


 次に非常に小型の重力制御デバイスに簡単な制御プログラムを設定した。


「これで良しと……」 


 アナは2丁のガンを半円状の壁の二端に向けて空中に浮かして設置。3丁目は本来スライドを格納するための脇の狭い空間を目がけて、やはり空中に設置した。

 

 おもむろに遮光サングラスをかけると、手元の制御デバイスで照射を開始した。


 五百年の歳月でこびりついた壁と壁を切り離すべく、細いレーザーが両端から眩い光を放ちながら切断を始めている。脇の狭い空間に延びるレーザーは塞がった空間を取り戻すべく穴を開けていく。

 溶けた土やらコンクリートやらが排水溝へ流れていく。


 眩いレーザー光を見ながらアナは過去の記憶を次々と思い出していた。


「そうだ、私は昔……500年前じゃなくて、さらに昔、23世紀に生まれたんだ。パイロット養成所。そう、カイルもいた。そしてヘブン、あの惑星……」


 アナにかすかな記憶が蘇ってきた。遥か昔に別の体でカイルと過ごした時期があった。


 4才の時にテロで失った私の命を蘇らせたのは誰だっけ? カイル、アレックス、リン…… そうだ妹のリンだ。あれ、カイルはリンと結婚したんじゃなかったんだっけ?


(私は未来に転生し、フェリアと共鳴し、今ここでまた変わろうとしている。そこになぜかカイルがいる。これはまさかエメラルドの仕業? エメラルド……地球を作った人)


 幻想の記憶はレーザー光の中で現われ、そして溶けていった。

 

「ぼーっとしてる場合じゃないわ」


 見る見るうちに切り離された遮蔽壁とそれを格納する空間が出来上がった。


「さて、あとは馬鹿力のザック待ちね」


 独り言を言いながらアナはサングラスを外して、壁に寄りかかった。外から差す太陽の光がアナを照らす。


 青い雪がすきまからひらひらと舞い降りる。この辺りはトンネルと言っても地上に作られている区域だ。古びたトンネルと外界を隔てるシェルターは所々朽ち落ちて隙間があるのだ。


 さらさらした髪を揺らし、ボディスーツに身を包み、殺風景なトンネルを見て、アナはザックを待った。やがて白い羽がやってきた。ドジな宇宙人の男を乗せて……


「待たせたな! お、切り取ったのか?」

「その通り。あとはスライドするだけよ」

「もしかして俺がやるのか?」

「よろしくね!」


 アナはにやりと笑った。

 ザックは念力を駆使してゲートをスライドした。

 2ヶ所目のトンネル開通だ。


「ザック、サードゲートに行くよ!」

「おうよ、その後のイナク側は俺がやっとくぜ」

「あら、頼もしい」


 サードゲートを開けている作業の間、ザックはアナにある説明をした。


 ザックはこの後、フェリーナがいる惑星に移動するが、そこと地球を映像で中継できる方法をアナに説明した。(アバターの)フェリアと対話ができる状態にしたいのだそうだ。


「ザック、やり方はわかったわ。でも、フェリーナには問題があるのよね」

「まあ、そう言う事だ」

「幸運を祈るわ」

「ありがとう」


 二人の、二人だけのゲート開通作業は、その後順調に終わったのだった。

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