第36話 カイルとアナが作られた意味
僕は非常に驚いて、心の中で返す。
(ピコ、お前が受信できるのか? あり得ない。そんな機能は無いし不可能だ)
「ザック氏に何か仕込まれました。できます」
「じ、じゃあ、やってみろ。念じるぞ」
「どうぞ」
(フェ、フェリア! 聞こえるか? ピコを通じて心の中で念じている)
すると! フェリアが怪訝な表情でこちらを見て言った!
「何? 呼んだ? ピコが何?」
聞こえた! やっぱりテレパシーが使えるんだ。僕は慌てて答えた。
「聞こえた? しゃべっていないよ。心の中で念じたんだ。ピコを通じてテレパシーで伝わるんだ」
「テレパシー? 本当? もう一回やってくれる?」
僕はもう一度念じた。少し内容を変えてみる。
(僕と君は同じ基本設計で、色々シンクロできるらしいんだ。聞こえた?)
「……本当だ。耳からの声じゃない。シンクロするって言ったわね」
「ほら、聞こえるんだ。すごい! なあ、フェリアも何か僕に念じてみてよ、逆方向もいけるかな?」
僕はわくわくしてきた。こんな超能力者みたいなことができるなんて!
「うーん、わかった。じゃあね」
すると、心の中にフェリアの声が聞こえてきた。
(聞こえる? カイルとシンクロしてるなんて、キ・モ・イ!)
「……(笑)」
僕は苦笑いして、テレパシーで返信した。
(聞こえた。でもキモイはあんまりだな。同じデザインで双子、いや三つ子みたいなもんなんだから仲良くしようぜ)
(うげー、やだ。アナはいいけど!)
僕は言葉にした。やはりテレパシーだけの会話は少し、気力がいる様だ。
「オーケー。手軽なトランシーバーができたな。必要な時は使おう」
「まあ、いいわね。心の中が覗かれる訳でもないから、いい仕組みだわ」
「ところでさ、フェリアは男に対してどう思っているの? 僕にとっては女性は特別なんだけど」
「何それ? 私には男性は絶滅したはずの生物に過ぎないわ。え、生存していたの? わお、って感じ」
「うーん、でもさ、ガイアの計画……昔の僕の計画とも言えるけどジルウイルスが絶滅したからには、本来の男女による生殖システムに戻す必要があって、これからは昔の様に……」
「あー、そうね。それはわからなくもないけど……今更かな。知っている? 女性だけの社会って、とても居心地がいいのよ。どれだけの女性が今更オスとの付き合いを望むかは怪しいわね」
「そんな…… 男にとっては、洗脳されていた偽りの生き方からようやく解放されたって感じなのに」
「知ったこっちゃないわよ」
「男性に憧れは無い?」
「ほとんどの女性には無いわね。子供の方がよっぽど愛せる」
「なんてこった……」
「気の毒だけど、そう言う事です」
「こりゃあ、従来システムに戻すのは簡単にいきそうも無いわ」
「自然に任せましょうよ。男性と子供を作りたい人はそうする。男性と付き合いたくない人はそれも自由」
そう、フェリアに言われて僕はなにか心の中の靄が晴れたような気がした。確かにそうだ。そんなの個人の自由だ、僕や他の人がどうのこうの強制するものじゃない。
「まあ、そうだな。成り行きに任せよう」
「ところで!」
フェリアが立ち止まり、両足を広げて僕の方を向いた。
「フェリーナがどうして私とカイルを作ったか! 少し想像してみた!」
フェリアがにやりとする。
「そう、なんで?」僕はぶっきらぼうに返す。
「彼女はね。あなたを新しい恋人にしようとしてるんじゃないかって思うの!」
「はあ? 新しい恋人?」
「そう! 何度か接触(合体?)した感じから、彼女は元々のボーイフレンドであるザックには不満があって、第二の恋人候補を自分で作ろうとしているの、たぶん!」
「僕が? フェリーナの恋人候補?」
「そう、なので彼女が考える理想の男性があなたなのよ? わかる?」
「ええ? いや分からないなー」
「まだ分からなくていいけど……今はまだヨチヨチの子供みたいなもの。あなたを私とアナで鍛え上げてザックの対抗馬にしようとしているのよ。英才教育ね」
「教育されているのか」
「調教されているって言った方が正しいかも」
「僕は競争馬か」
「それ、カイルにぴったり! ハハハ」
聞かなきゃよかった。
「ヒヒーン」って叫びたくなってきたよ。
「さて、ザックとアナのところに急ぎましょう」
「へいへい。行きますか」
「最後に、アバターの私って、もちろんオリジナルとほぼ同じ心の持ち主だからね?」
「……」
どう言う意味だ?
髪をなびかせて颯爽と歩くフェリアが僕の調教師に見えてきた……
どうやら、今度は彼女に洗脳されそうだ。
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