第35話 ザクレブ対策
ザックとアナが去り、僕達がガイアシステムとの話し合いを一通り終えると、フェリアがニューアイルにいるメリルに連絡を取った。
通信用デバイスにメリルの顔が映し出される。
フェリアはメリルにニューアイルの女性達をどのようにランス山脈の地下を通ってイナクまで連れて行くかを説明した。
「……と言う訳で、メリル、詳細な計画はガイアからダウンロードして早速動いてくれる?」
「わかった、フェリア。大仕事だね。あなたはそっちで待機してくれるのね?」
「うん。女性達をイナクで降ろしてからペアリングを行ってVパスまで移送するプロセスを私の方で受け持つから」
「了解フェリア。ところで一つ相談がある」
メリルがフェリアに言った。
「何?」
「オリジナルのフェリアから聞いているかもしれないけど、ザックのアバターでザクレブって男がいるの」
「いえ、聞いていないわ」
「そう、地球の男じゃないんだけど、別の星で女性問題を起こした悪者よ」
「ザックのアバター…… まあ納得できるわね。それで? そのザクレブがどうしたの?」
「今回の地球のトラブル、やつも感づいている筈なの。しかも今行方不明」
「行方不明……?」
「そう。と言う事はだね、タイミングから言って、やつは地球に来る可能性が高いって事」
「目的は?」とフェリア。
「地球の女性の奪取……」
「え……ええ~? 奪取う~? 奪うの?」
「そう。ごっそりと」
「な、なんで?」
「やつの母星フォルボスは女性がみんな逃げ出したのよ。フォルボスには今男しかいないの。ザクレブのせいでね。なのでフォルボスに地球の女性を連れ出すことを考えていると思うの」
「……どこかで聞いたような話ね」
フェリアは500年前のことを思い出している。
「地球はウィルスのせいだから仕方がないところがあるけれど、フォルボスの件は完全にザクレブが原因よ」
「ザクレブはザックに似てるの?」
「もちろん。元々ザクレブはザックのアバターだからそっくりなんだけど、対女性に関してはザック以上の偏執狂だわ」
「う~ それは相当ね」
「しかも、アバターのくせに能力が桁違いに進歩したの。あなたもいずれそうなるだろうけど、やつは既に星間移動を難なくやってのける。今やザックやフェリーナ並みの力を持っている」
「嫌なやつね~。で、どう対応するの? 来たら地球の女性に危機が及ぶんでしょう?」
「そう、それでね。お願いは……」
メリルはフェリアにある物質の製作を依頼をした。そしてそれはフェリアを通じて僕とガイアにも伝わった。
フェリアが仕様を提示し、僕がガイアと相談しながらその仕様に沿って、あるごく小さい物質を設計する。その小さい物質とはマーカーと呼ぶ米粒ほどの薬である。どう利用するのかはわからない。
「ガイア、このデザインで作れそう?」
「はい。何とか製造できそうです。それにしてもメリルさんとか地球外の方々はすごい知識をお持ちですね」
「ああ。僕もフェリアに作られたようだし、その僕が設計した君、ガイアも間接的に彼らに作られたようなものだ」
「創造主というやつですね」
「そうだね。さて、マーカー一千万個を一週間で製造できるかな?」
「カイル。材料は既に十分ありますし、既存の製薬設備が使えます。二千万粒を二日で作って見せます」
「いや、ガイア。そんなに余計には要らないよ。男の分だけでいいからね。でき上がった分から順次イナクのセンターパークに配送してもらえる? そこで住民に服用してもらうから」
「カイル、了解です。それにしても、メリルさんはこのマーカーをどう利用するんですかね? そのザクレブと言う地球外人に対抗すると言っても、識別にしか使えないように思いますが」
僕はガイアに答えた。
「僕にもわからない。ただ、どうもメリル自体が何かするわけでは無さそうだよ」
「彼女はオブザーバー……」
「その通り」
「ではフェリアですか?」
「たぶんな、マーカーは男だけに服用させるってことだから男女の識別に使うのか……よくわからない」
僕は少し離れたところで待機しているフェリアをちらりと目で認めてからそう言った。フェリア自身もわからないし、メリルも具体的な方法は知らないそうだ。
後の処理をガイアに任せると、僕はフェリアとガイアのコンソールエリアを離れて歩き出した。ザックとアナがトンネルの整備に行くのを見送りに行くのだ。
◇ ◇ ◇
さらりと長い髪を揺らして歩くフェリアを横目で見る。
(やっぱり男性とは全然違うな)
当たり前の事を改めて感じた。何て言うか、内陸で暮らしてきた子供が初めて海を見た時のような、じんわりした感動が鼻の奥をくすぐるようだ。
(しかもフェリアは成長中のアバターで、フェリーナは宇宙人だと)
おそらく、自分がこんな女神のようなアバターと一時的にでも一緒にいるなんて、奇蹟なのかも……
ただ…… 自分の存在について聞かされたことを、思い出してみる。
僕はフェリーナにデザインされた地球人で、質的にはここにいるアバターのフェリアと同質。彼女と同じように成長を促されているかもしれない。
僕を創った理由は、フェリーナが管理している地球人類の成長、いや種の維持のためなんだろうが、それだけではないようだ。何なのだろう。
そしてアナは僕をサポートするために、やはりフェリーナにデザインされた生体アンドロイド。しかもその体は強化細胞を維持しながら、人間の体に近づいている。とくに脳の機能がだ。
僕がアナを設計・誕生させたのだが、今思えばフェリーナに設計させられた、と言う方が正確なんだ。
「カイル、どうかした?」
ぼーっと彼女を横目で見ていた僕に気がついてフェリアが言った。
「あ、いや。なんでもない」
「じろじろ見ないでよ。気味悪い」
「ごめん……」
そう言えば、フェリアと僕とアナは何かリンクしているって誰かが言ってたっけ。ザック? だとするとテレパシーとか使えるのかな? 唐突に僕はそう考えた。エンジニアでもあった僕はふと試してみたくなった。心の中で強く念じてみる。
(フェリア、フェリア。今、呼びかけている。気がついたら答えてくれ、フェリア)
……特に反応は無い
すると、ピコ(左腕のデバイス)が僕にだけ聞こえるような声でささやいた。
「こちらには聞こえます。これまで知られていないカイルの新たな異能かもしれません。フェリアに同時転送できるかもしれないのでやってみます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます