第34話 アンダーパスとザックの秘密

 ランス山脈の地下にあるトンネル型非常通路ワイドアンダーパスにはメンテナンスされていない域外の遮蔽用ゲートがある。アナがそれを一人で開けに行くと言うのを聞いた僕は、心配になって聞いた。


「一人で大丈夫か?」


 それに対してザックが口を開いた。


「俺がサポートする。1日あれば処理できるだろう。その後アナはその足で直接ニューアイルに行けばいい」


「余計なお世話だけど、まあいいわ。人手は有った方がいいからね」


「頼めるか。助かるよ」

 僕が言った。


「ニューアイルからイナクまでの移動時間はどれくらいなの?」フェリアが聞いた。


「3時間あれば可能だと思います」

 ガイアが答えた。


「ガイア、大量輸送の方法は?」僕が聞いた。

 

「ニューアイルからアンダーパスの入口までは高速輸送船が使えます。ニューアイルにある各種劇場が実は高速輸送船として機能するように作られています。キャパシティも十分です」


 フェリアが口を出した。


「劇場は知っている。あれ輸送船なの?」

「はい、緊急用ですが地上を浮上して移動できます。起動シーケンスを既に開始中です」


「メリルに連絡する。詳細をニューアイルのガイアサブシステムからダウンロードできるようにしておいて」


「了解です。フェリア」


「トンネル内の移動は?」アナが聞く。


「シャトルトレインがすでにトンネル内にあります。輸送量も計算済みです」


「よし、準備開始だ」


 フェリアがメリルと連絡を取り、ニューアイル側で女性達が出発する準備を進めてもらった。


 僕達は一息つけるため、マザーセンターで簡単な昼食を取り始めた。明日から本格的な避難計画が実行される。


 ザックが最後に気になる発言をした。


「一つだけ問題がある。Vパスの移動能力は一日に五百万人なんだが、小惑星による磁場変動で、後半の日程は移動速度が落ちると予想される。ブリザードも激しくなるので、おそらくフェリーナに来てもらわないと、全員の避難が難しくなる」


「何だって? フェリーナに何をしてもらう?」


「Vパス内でフリーゲートを解放してもらうしかないだろう。リスクはあるが」


「フリーゲート?」

「ああ、ワープみたいなものだ」


 フェリアが聞く。

「リスクって何?」


「時空が歪む。移動速度は早いが、タイムスリップしたり、思わぬ場所に移動する危険性がある」


「……どれくらいの確率?」

「わからん、二割か三割か……」


「帰ってこれなくなるの?」

「いや、場所や時間にもよるが、よっぽど迷いさえしなければ、帰っては来れる……筈だ」


「怖いわね」

「カイルは見ただろう、超高速機が誤って、ここに来たのを」


「ああ、ヴィンスとアイラって言ったっけ?」

「あれも時間を迷ったんだ。でもおそらく奴らは無事に目的地に行ったはずだ」


「目的の……時代?」

「正しくはそうだ」


「設定や迷った時の補正のやり方は?」

「お前らに詳しく教えるよ」


 僕らはザックにVパス内の移動について詳しくレクチャーを受けた。


「それで、フェリーナにはどうやって来てもらう? フェリア?」


 僕が聞いた。


「私の危機の時には彼女にコンタクトできるみたいだけど、今の時点ではどうやればいいかわからない……」


「アバターが本体に接触できないとはね……」


 僕が困っていると、ザックが言った。


「俺がアクセスするよ。フェリア、お前にはフェリーナの座標情報が常時送信されているんだ、その認識は無いだろうがな。ちょっと失礼するよ」


 ザックがフェリアの頭を手で触った。フェリアは怪訝な表情で固まっている。


 ザックは目を瞑ってしばらくその状態を保持した。座標情報を仕入れた様だ。


「これでよし、後は任せてくれ。アナとゲートの処理をしたらフェリアのところに行って来る」


 ザックには気がかりな事があった。フェリアと同様ザックにもザクレブと言うアバターがいるのだが、ザクレブは相当の問題児であった。


「じゃあ、そろそろ俺とアナは先にトンネル開通の準備に行くよ」


 ザックが言った。


「ああ、わかった。頼む」


「オーケー、アナ行こう」


 二人は先にマザーセンターを去って行った。

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