第32話 イナクでの緊急通告

 群衆のざわめきを聞いて僕はアナに言った。


「アナ、プロジェクションを頼む」

「カイル、準備済みよ! 空中に投影する」


 アナがそう言ってプロジェクターの操作をすると、少し上の空間に360度どこからでも見られるプロジェクション画像が現れた。これから起きるであろう自然現象と人々の避難のシミュレーションがここに映し出されるのだ。


「みなさん、これから起きる異常気象と避難の様子について簡単に見ていただきます」


 360度スクリーンに青い雪に次第に風が強まってきて、やがてブリザードになる様子が映し出された。


 ブリザードは凶暴さを増し、樹々をなぎ倒し、建物を倒壊させ、全ての物を雪と氷の下に飲み込む様子が映っている。


 次に、時間が巻き戻され、ランス山脈の方から巨大なプレートに乗った女性達が大勢、イナクの街に到着するシミュレーションが映し出される。群衆から大きなどよめきが聞こえた。


「女性だ……」

「それもものすごい数……」


 ざわめく中、映像はVパス移動中に女性がダメージを追う説明と、それを防ぐために男性が女性とペアを作って特殊な器具を装着して輸液を行う様子が映し出される。


 群衆の一部から困惑の声が上がる。女性は伝説の存在だと教育されてきた男達にとっては、想像だにしなかった光景だ。


「Vパスって西にある黄色く光る柱のことか?」

「どこに避難すると言うんだ?」

「女性にあんな事をしないといけないのか?」


 僕は補足した。


「地表の人類は一時的に避難するためにVパスを通って地下の世界に行きます。我々が知らなかった人類の世界が地底にあります。Vパスはそこへ通じる通路です。そこを通過するためには特別な訓練を行うか、特殊な薬とそれを反応させるための性別を超えた輸液による細胞の防御が必要になります。」

 

「そもそも女性が本当にいるのか? 見たことがないぞ。あんな映像簡単に作れる」

 

 まだ女性を見た事が無い群衆全員が、根本的な疑問を口にし始めた。


 僕も彼らの気持ちはわかる。

 この目で見ない限り信じられないのだろう。

 僕は下に声をかけた。


「フェリア、アナ、出て来てくれ。プロジェクターにも映して。あとニューアイルの映像も」


 二人は渋々、出て来て僕の傍まで登ってきた。

 プロジェクションに二人のアップが映る。


「こちらはアナ、そしてこちらがフェリア。どちらも女性だ。フェリアはニューアイルという女性がいる東の都市から来た。ちょうどランス山脈の向こう側にある。ジルウイルスが絶滅するまで女性が生き残っている事は機密とされてきた。この理由は理解してもらえると思う」


 ニューアイルの様子が動画で映る。


「ニューアイルには今も大勢の女性が暮らしている。彼女達も避難させなければいけない。フェリア、みんなに君の声を伝えて……」


 僕はヘッドセットをフェリアに渡した。

 少し顔が紅潮したフェリアが言う。


「私はフェリア・ベネット。2480年生まれの二十才、女性です」


 アホ。それは昔の記憶の方じゃないか。馬鹿正直に昔の生まれた年を言うんじゃない。今は3024年だぞ、混乱させるだけじゃないか。


 しかし群衆を見ると、生まれた年なんて誰も気にしている様子は無い。


 フェリアの顔を見て驚いているだけだ。


「女性だ」

「マジか。本当にいたのか」

「ちょっと気味悪いな、可愛いけど」


 集まった男達が口々に言う。皆、一様にまるで宇宙人を見ているかのような表情だ。


「私達、女性が絶滅したというのは嘘です。ウィルスを再拡大させない為の、やむを得ない情報操作です。私達は五百年間、ちゃんと、この山脈障壁を越えた先のニューアイルに隔離されて生き延びてきました。そして、ウィルスはつい最近絶滅が確認されました。もう私達男女の接触を絶つ理由は無くなったのです」


 フェリアの透き通るような高いトーンの声が街に響き渡る。群衆は女性の声が空にこだまするのを初めて聞いた。みなざわつくのを止めて、その声に聞きほれた。


「私達女性はニューアイルに固まって暮らしています。一万平方キロメートルの平地に約八百万人が暮らしているんです。今起き始めているブルースノーで地表は人が住めなくなるようです。私達女性も地底世界に逃げなければなりません。移動時の放射線障害を防ぐには男性からの輸液が必要だそうです。私達をどうか助けてください。男性のみなさんの助けが必要なんです。お願いします」


 どうやら僕が言うよりよっぽど説得力があるらしい。スクリーンに投影された動画も効果があったのだろう。群衆から反論らしき反論は出てこない。少し間をおいてから僕が補足した。


「詳しい説明はガイアから、後程配信してもらいます。またこの後、首長や管理担当の方達と具体的な避難方法を協議します。実質的には一週間以内に避難しないと、気象状況が悪化して事故が増えてしまいます。準備をお願いします」


 僕は戸惑う群衆たちに最後に付け加えた。


「数日後から、ものすごい数の女性がこちらに来ます。その女性達とVパス……黄色く光る柱まで移動していただきます。どうかご協力をお願いします」


 スピーチが終ると、フェリアが言った。


「カイル、どうやらうまくいったようね」


「何とかね。そうだ、これからガイアのところに行くけど、ニューアイルの方も行動を始めてもらおう。連絡を取りながら避難計画を進めるけど、初動は早い方がいい」


「そうだね。メリルに連絡するわ。こちらの結果も待ってるし。まずは住民に避難準備を始めてもらいましょう」


「うん、頼むよ」

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