第31話 緊急ランディング
「カイル、まずいんだけど!」
アナが再生復活中のフェリアを片目で見ながら、後ろの僕に叫んだ。クルーザーの危機だ。
僕は必死に頭を整理していた。
どう考えても、ここはランス山脈だ。
東と西の果てにある同じ山脈……
まさか、地球を一周したのか?
そういう事だったのか!
だとすると、この景色は良く知っている。
この先の街はイナクに違いない。
なるほどニューアイルからは西に行くのが近い訳だ。
僕は墜落しようとしている所の地理が頭の中で鮮明になった。
(僕の故郷だ。何とかなる!)
「フェリア、どけ!」
まだボーッとしているフェリアをどかして、僕は再び操縦席に着いた。
前方を見るとイナクの街が近づいている。ホバークルーザーの速度が上がっており、何とか機体を制御しなければいけない。
「やばい、フラップが利かない。アナ、逆噴射できる? 速度を落とさないと」
「速すぎてできないよ。ドリフトして風圧でブレーキをかけるしかないわ、カイル左に切って!」
「りょーかいっ!」
僕は機首を左に向け、右翼を上に傾け風圧を機体下部で受けるようにした。機体が少しずつ落下率を下げて、速度も下がり始めた……が、わずかだった。
「スピードが落ちきれない!」
フェリアの意識がしっかりしてきた。
後ろから叫ぶ。
「墜落は免れない。市街だけど人がいないところを狙って不時着して!」
「人がいないところ!? 無いよ! イナクは男がうじゃうじゃいるんだ!」
「男? じゃあ突っ込んでもいいわ。でも子供だけは絶対に避けて!」
フェリア、あんまりだ。女尊男卑だな。
次の瞬間、アナが嬉しい情報を見つけて叫んでくれた。
「カイル、前方やや左側に修理中の大型道路がある。不時着にはちょうどいいよ! しかも今週は作業は無いみたい」
アナが起死回生の不時着候補地を探してくれたのである。三人の中ではアナが一番しっかりしているかもしれない。頼もしいパートナーである。
「よし、誘導ライン表示して」
僕がそう言うとアナは素早く目標のラインをディスプレイに表示してくれた。アナはさらに周辺の状況も調べて教えてくれる。
「カイル、両脇に商店街。歩道にたくさん人がいるから、男だけど避けてあげて。道路の中央にランディングお願い!」
アナが叫ぶ。フェリアよりちょっぴり優しいかもしれない。
「了解! 怪我人は出さない! 男だけど!」
僕も叫んだ。誘導ラインに位置角度ともぴったり合わせるように操縦する。ちらりとフェリアを見た。意識はもうしっかりしているのを確認して僕が叫ぶ。
「フェリア! お前のオリジナル……フェリーナはもう来てくれないのかー?」
フェリアが叫び返す。
「もう来ない! カイル、ラストしっかりー! ほら道路にたくさん工事車両が見えるー」
「衝撃に耐えろ。突っ込むぞー!」
アナが冷静な表情で座席をくるりと百八十度回して、余裕でフェリアに微笑んだ。後ろを向いて激突の衝撃に耐える体勢だ。
フェリアは両手を頭の上から後ろ座席に回してがっちりヘッドレストを掴み、長い脚を操縦席(僕の席)に突っ張る。これも衝撃に耐える体勢だが、顔が引き攣っている。
僕は「うおーっ!!!」と叫びながら、機体を道路のど真ん中に突っ込ませる。
凄いスピードのままホバークルーザーは道路に突っ込み、工事車両などを跳ね飛ばし壊れながら長い距離をスライドした。 凄い音と共に衝撃でコックピット内はがたがたに揺れた。
クルーザーは一キロほどの距離をスライドして停止した。十秒ほどの沈黙。道路はめちゃくちゃに破壊され、もうもうたる煙が立ち昇った。
機体は無残に破壊されたがコクピットだけはかろうじて原形をとどめている。
「大丈夫か?」
アナとフェリアを見ると、座席を反転させていたアナは涼しい顔。強化細胞の持ち主なので、この3人の中ではそもそも耐久性が強い。
一方のフェリアは手足が少し震えていて、顔は引き攣ったまま。まだ耐衝撃体勢を保持したまま固まっている。その口からおびえた声が絞り出された。
「ぶ、無事着陸した?」
「何とかね」
僕が答えるとフェリアは緊張していた体勢を緩めて、ほっと安堵の溜息をついた。
――それにしても、この世界のからくりがわかった。というか思い出した。500年前、ウィルスが異性間伝播しないように男女の居住地域を分けた、そして間に障壁となる人工のランス山脈を作り、完全な隔離をしたんだ。
ランス山脈の西側にはイナクという男の居住地、東側にはニューアイルという女性の居住地を設置した。そしてランス山脈の地下にはマザーセンターを設置した。
イナクとニューアイルは元々直線距離は近かったんだ。
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※事情によりエピソードを2つに分けますw🥩
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