第30話 進撃のフェリーナ

 ホバークルーザーの機体はあっという間に頂上を越えた。


 頂上の尾根に設置されている何十もの自動機銃が姿を現わした。狙いを機体の方に向けている。


「機銃掃射が来る! あと二秒!」アナが叫ぶ。

「旋回を始めて! 上昇は維持!」


 僕は必死に操縦かんを操り、機体をスピンさせ旋回上昇させ始めた。


 凄い数の光がわきをすり抜け始めた。無数のレーザー状の銃弾だ。


「動きが単調すぎる! 当たり過ぎ!」

 フェリアが叫ぶ。


 僕は結構銃弾を交わしているつもりだが、シールドに当たり傷み始めているらしい。


「どいて! 私が操縦する!」


 フェリアが飛んできた。僕は慌てて席をどく。


「アナ、銃弾の到着予測線を全てスクリーン4に出して!」


「はい、フェリア。出しました」


 アナが答える。多数の短い線が凄い速さで点滅しているようにしか見えない。フェリアはそれを見ながら小刻みに旋回を調整する。


「アクティブシールドを左翼根元に集中させて」

「はい、フェリア。完了」


 アナの操作も物凄く早い。致命的な銃弾による損傷が減ってきた様だ。


「ピンミサイルで反撃! 標的は任せた!」

 フェリアが叫ぶ。


「もう開始しています」とアナ。


 この二人、息がぴったりだ。「凄い」としか言いようが無い。遠く下に見える機銃掃射台が次々と破壊されていく。この期に及んで変な言葉が僕の口から出た。僕の設計らしい。


「傑作の機銃システムが破壊されていく~」

「何言ってんのよ! バカ!」

 フェリアが怒る。


「境界を超えるよ!」


 フェリアが機体を大きく旋回させて、山脈の向こう側に機首を向けた。今度は山脈を越えて向こう側の攻撃エリアを抜けなければいけない。

 

 僕はふと、やばいことを思い出した。


「フェリア、この先に分裂型の追尾ミサイルが仕込まれている。500年前には無かったシステムだ。あれ、待てよ、ここはどこだ? まさかランス山脈そのもの?」


「何それ!」


 フェリアが叫ぶ。機体は既に山脈の向こう側に入りつつある。


 ピコが無線ネットワークから追尾ミサイルシステムの情報を入手した。


「まずいです。このミサイルは一基から十以上に分裂し、ターゲット目がけて飛んできます。破壊力も高いです」


 アナが補足する。

「フェリア、シールドが持たない」


 フェリアが狼狽える。

「どうしよう」


 僕も必死に考えた。このミサイルシステムを考えたのは僕だ。回避方法は……無い。どうする?


 なぜか、ふと閃いた。僕が!


「アナ! フェリアのユニバースリンクをアンロック!」


 自分が発した言葉の意味がわからず。

 しかしフェリアも何か思い出したようだ。


「それね! コンバージョン準備!」


「カイル、了解。フェリアのリンクロック解除します。フェリア、フェードアウトします。行ってらっしゃい!」


 目を瞑ったフェリアの姿が薄くなり、消えた。


 下から異彩を放つミサイルが十発以上続けて発射された。ミサイルは途中で十倍に分裂した。合計百を超えるミサイルがホバークルーザーに向かって来る。


 突然、ミサイルとホバークルーザーの間に蜃気楼のような影が現れた。


 強烈な光を放ち、そして人の形になった。


 空中に浮いている。


 人の形は、その顔、体を明瞭に現わし始めた。まさかフェリアか? 


 そうだ、いや、フェリーナだ。


 カイルもアナも自身をデザインした創造主を初めて見た。


「こんな事くらいで呼ばないで、ケホ」

 

 そのフェリーナは少し青い顔でそう言うと、ミサイルに向けて片手を上げた。


 その手のひらから物凄い光がミサイルに向かって放たれた。


 百以上のミサイルはその光に当たると全て、瞬間的に蒸発した。

 原理が全くわからない、まさに神のような技だ。


「カイル……」


 フェリーナが僕を呼ぶ。少し怖い。


「はい……」


 彼女は降り続く青い雪をゆっくり見渡す。


「目覚めるのが遅いわ。成長も…… ケホ」

「う……」


 冷や汗が出てきた。

 これはさっきまでのフェリアじゃない。

 それに似た何か凄い存在だ。

 ただ、少し体調が悪そうだ。

 咳を……している。


「早く仕事を片付けて、こちらに来てくれないと…… ケホ」


「は、はい……」


「深呼吸をして」


 フェリーナが言う。

 言われるがままに深呼吸すると、色々な記憶がよみがえってきた。


「ザックじゃ不安。だからあなたを創ったのに。早く私を助けに来て、コホン!」


 フェリーナはそう言うと、今度はアナに言った。


「アナ、サポートはあなたに託したのよ。もう少しカイルをコントロールして頂戴」


 アナはフェリーナを見つめ、一呼吸おいて冷静に答えた。アナも記憶がかなり戻ってきた様だ。


「はいフェリーナ。でも、一言申し上げます。地球人はあなたが思うほど単純ではありません。まだ発展途上ですが、とても興味深い種族です。一度あなたにもアバター越しではなく直接こちらに来られることをお勧めします」


「ふーん、そうなの? わかったわ。体が治ったら出張も考えてみる。ゲホゲホ。でも、私はやばいかもしれないの。しばらくは今まで通り、三人で地球人のお守りをよろしくね。ザックに会ったら、まだ私は会いたくないって言っておいて。 最後に……この機体、翼が破損してるわよ。このまま惰性飛行続けると、街に墜落するわよ」


 空中のフェリーナはふっと消えた。コクピット内に再びアバターのフェリアが姿を見せ始める。


「墜落? ねーカイル、まずいんだけど!」


 元に戻ったフェリアが叫んだ。

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