第29話 Over the Edge

「三人ともベースデザインは同じみたいよ」

「ベース……デザイン? デザイナーベビー?」


「ザックには釘を刺されたんだけど、私達は3人ともオリジナルのフェリアによってデザインされた人間らしいわよ。どうやら私は地球外の人間のアバター、クローンみたいなものらしいんだ」


「オリジナルのフェリアだって?」

 僕は唖然としながらフェリアに聞いた。


「うん、ザックによると、オリジナルのフェリア、名前はフェリーナと言うらしいけど、彼女は地球外にいる高度に発達した種族で、地球人類の成長と発展を担当している人間らしいの。種族的にはザックやメリルさんもその類らしい」


「それ本当か? その三人は宇宙人なのか…… それで僕らがデザインされたってのはどういう目的で?」


「私はフェリーナのアバター、つまりフェリーナの身代わりとして直接地球人にアクセスする役割みたい」

「それ、知らなかったんだろ?」


「うん、無意識に組み込まれてたようなの。正体がばれないようにするためかも」

「僕とアナの目的は?」


「えっと、アナは私とカイルのサポート、カイルは……秘密」

「なんで秘密なんだよっ」

「フェリーナに直接聞いて」


「会えんのかよ?」

「運が良ければ…… あ、前方見て……」

「はあ?」


 僕は前を向いて進行先を見た。やはり前を向いたアナが呟く。


「あれ、何?」

「う、うわあ あれは……」


 遠くに見えるのはまさに壁の様な山だった。


「まるで、ランス山脈にそっくり!」

 

 決して超える事ができないイナク東方にあるランス山脈。それとそっくりの山壁が世界の西の果てに再び現れた。 


「あれは無理だ。越えられない。進行方向は大丈夫か?」


 アナが再びナビゲーション画面を見つめる。

「合ってる。あれを越えないといけないみたい」


「無理だ、引き返そう。少し日数がかかってもワープを乗り継いだ方がいい」


 僕の過去の記憶が蘇って来る。


「あれがランス山脈と同じような遮蔽目的の構造物だとすると、越えようとすると、自動攻撃プログラムが起動する。生きてこの壁を超えることはできない」


「昔ザックは越えたよ」


 アナが突然言った。思い出した。隔離目的の遮蔽山脈は通常の人類では超えることができないように設計されていたのに500年前、あの男が遮蔽山脈を越えて女性の世界に侵入した。


 そうか、やつは普通の人間じゃなかったんだ。だから山脈を無傷で飛び越えてきたんだ。しかしなぜそこまでのことをしでかす必要があったんだろう?


 そして僕の指示でアナとフェリアがザックを撃退した。女性をウィルスの、パンデミック再発の危機から救ったのだ。


 それにしても、このランス山脈に似た西の果てのシールドは誰が何の為に作ったんだろう。過去の僕の記憶にも無い。当時ランスシールドは一つしか作っていない筈だ。その後の500年の間に誰かが作ったんだろうか? こんな西の果ての僻地に。いや待てよ、ニューアイルってどこにあったっけ……?


 フェリアが後ろから叫んだ。


「行ける。このまま地表沿いに飛んで、頂上まで上昇して!」


 僕は我に返った。今そんな事を考えている暇はない。この壁を越えなければ……


「アナ、行けるってよ。上り坂、急上昇するぞ」

「いいわよ、カイルは気圧の変化に気を付けて」

「了解!」


 ホバークルーザーは地表10メートルほどの高さで地表の傾斜に沿って上昇していった。30度、50度……角度はどんどん垂直に近づいていく。そして海抜高度も2千メートル、3千メートルとぐんぐん上昇していく。ここでも青い雪が降っている。


「アナ、5千メートルの頂上を越えたら、自動射撃が始まる。どうしたらいい?」


「そんなのわかんないわよ。この機体はカイル達の設計でしょ、頂上の防御システムも! 思い出してよ! クルーザーの防御機能は?」


「あー、うー、何だっけ? 確かこのクルーザーにも最低限のシールドはあるけど、たぶん頂上の自動攻撃には耐えられない。シールドのウィルス拡散防止の設計に力をかけたような気がする!」


「大丈夫よ、私がルートを指示するわ。このまま行って!」

 フェリアが叫ぶ。

 抜け道のルートがある? そんな甘い設計はしてなかったと思うが……


「速度を目一杯上げて! 慣性も利用して七千メートルまで上昇するの! 角度は七十五度でハングオーバーして!」


「確か頂上から上方平均前後二十度のコーン角は射撃対象エリアだぞ。七十五度だと撃たれる!」


「ピーク超えて十三秒後から撃たれるわよ」

 アナが計算する。


「旋回回避! 多少当たっても大丈夫!」

「どうして!」

「私が機体に追加のシールドをかける!」

「はあ?」

「いいから、スピード上げてって!」

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