第28話 シンクロニシティ

 ホバークルーザに乗り込んだ僕とアナ、そしてフェリア。


 アナがコクピットのコンソールの使い方をさくさくと覚えていくのを、僕は感嘆しながら見ている。そんな僕の視線に気がついたかのようにアナが言う。


「まあ、こんなのはすぐに理解できるけど…… それは私がアンドロイドだからじゃないよ。人間としての脳ミソが優れているだけよ」


「うん、機械か!とかそんなことは決して思ってないけどさ……」


「その驚いたような目を見ればわかるわよ。って言うかボケーとしてないで準備してよ! あなたが操縦するんだからね!」


 後ろの席で聞いていたフェリアが口を出す。


「あ、そうなの? どう考えてもアナが操縦すべきだと思うけど」


「ピコ! 私は忙しいから代わりに言って」


 アナが言った。

 すると、僕の左腕のデバイスが話し出した。


「はい、何の御用でしょうか? ご主人様」


「ふざけるな」僕が言う。


「久しぶり。忘れられたかと思った。ではアナちゃんに代わり説明します。本機体、クールですねえ。これを上手に扱うには二人で操縦するのがベストです。操縦席に座っている脳筋の操縦士、はい、カイルですね。あなたには操縦かんに集中してもらいます。あ、あとはスロットル……速度制御もですね。二つ制御が必要ですよ。大丈夫ですか?」


ピコが饒舌に説明する。


「おまえ、まだふざけてるな」


「いーえー。そして副操縦席におられる方、アナさんはたいへんです。ナビゲーションはもちろんのこと、あらゆるセンサデータを監視しながら、脳筋操縦士が担当するコントロール以外の制御を全て行ってもらいます。ほらアナさんが今、一生懸命覚えていますね」


「なるほど、重要なのは副操縦士ってことね」


 フェリアが納得した。


「ピンポーン。そして後ろのお姉さん?」

「へ、私? 何ですか?」フェリアが答えた。


「手前に小さなコンソールがあるので出してください」

「お前、良く知っているな」

「はい、只今アナさんとリアルタイムで情報交換してますから」

「出しました」フェリアが言う。


「そこで前席のコンソールとほぼ同じ事ができますので、前方の二人をサポートしてあげてくださいね」

「あ、了解です。でも使い方が……」


 すると、アナが言った。

「フェリアはたぶん、勘で使えますよ。あなたには私とカイルの能力が備わっているから……」


「うげ、そうなの?」


「はい。神経を研ぎ澄ますだけでいけます」

「わかんないけど、わかった」


「では起動します。目的地も設定しました。カイル、機体を反転させて浮上、後方の扉が開いたらゆっくり出発してください」


 エンジンの起動音が鳴り響くと、機体が小刻みに揺れた。浮上し始めている様だ。


「いってらっしゃーい」


 メリルが手を振っている。見た目だけならかわいいのに……


 カイルが操縦かんについている補助ボタンを押すと、機体がぐるっと回転し始めた。 機体が180度回転した後、操縦かんを手前に引く。


 機体がさらに二メートルほど浮上する。

 同時に前方の巨大なシャッターが静かに下から開いて行った。明るい光が入ってきた。青い雪が降っているのに、空には青空が広がっている。不思議な光景だ。


「はい、Go!」

 アナが言う。

 僕はスラストレバーを押して機体を動かした。


「うわっ」


 が、早すぎた。このエンジンってピーキーだ!

 急なGが僕らを襲い、機体は急発進した。

 あっと言う間に外の景色が後ろに飛んで行く。

 引き攣った顔のフェリアが叫ぶ。


「急発進しないでよ!」

「ごめん、調整むずい!」

「早く慣れてください」


 アナが冷静に諭す。


 ホバークルーザーは順調にすごいスピードで進む。航空機の速度としてはたいして速くはないが、低空を飛ぶので景色が物凄い速度で後ろに流れていく。そのスピード感は半端無い。

 


 ◇ ◇ ◇



 無言の機内。時折僕とアナが飛行に関するやり取りをするだけ……

 しびれを切らしたようにピコ(僕の左腕)が話し出した。


「あのう…… アナとカイルはどんな関係?」

「は?」


 僕とアナは顔を見合わせた。


「どんなってアナは僕のGP……」

「いえ、私は私」


 アナが否定。僕は眉をひそめ、ピコは続ける。


「そう言う意味じゃなくて、カイルとアナの呼吸や心拍がなぜか同期しているんですが……」


「何? 呼吸? 心拍?」

「気持ちが悪いです」


 ピコの顔は見えないが、その口調から不思議なものを感じているのがわかる。バイタルが同調(シンクロ)しているなんて、確かにちょっと気味が悪い。


「アナ、主人の僕に合わせなくてもいいよ」

「合わせてなんかない。主人じゃないし――」

「うーむ、自我がでてきたな。GPの役割を何と心得ているんだ?」

「頼りない男の守り役よね」


 ピコがさらに言う。


「キモいのは後ろの人まで同期していることです」

「え? フェリアも?」

「はい、たったいま同調は崩れましたが、さっきまでは見事なまでにシンクロしており……」


 後ろを振り向くと、余裕の表情でフェリアがくつろいでいる。

 僕らの会話は聞いていなかったようだ。


「は? 何?」

「いや、何でも無いけど」


 僕が言うと、ピコは、


「三人のバイタルが同調していました。偶然でそれがなされる確率は0.1%です」

「はい? 偶然ではないってこと?」


 とフェリアが聞く。


「そうです。変です」とピコ。

「……」


 アナも後ろを振り向いた。


「フェリア、何か知ってるでしょ」


 僕はアナとフェリアを交互に見る。何があるって言うんだ?


「んー。私もよくは知らないけど……」


 何か知っている様だ。

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