第27話 青い雪/ホバークルーザー


 ―― 臨時ニュースをお伝えします。昨日から降り始めた「青い雪」現象は世界各地で見られています。世界中の気温が低下し始めています。


 数ヶ月前に行方がわからなくなった、男性生存論のガウフ博士からメッセージが入っております。彼女によりますと宇宙空間でプラズマ状の特殊な巨大彗星が接近しており、その影響でこの青い雪が降っているとのことです。


 この後、プラズマが地球に引寄せられて地球を覆うと、世界中の気温が急降下するとともに、風速100mを超える猛烈なブリザードが吹き荒れ始めて長期間世界を襲うとの予測しております ――


 ニューアイルでも青い雪が降り始めた。幻想的ではあるが、女性の住人達は不安げな様子でその雪を見上げた。寒さが急に襲ってきて、みな冬の装いを始めた。


「この青い雪って何なの?」

「寒いよね」

「さあ、みんな家に入りましょう」


 人々は口々にそう言って、各々の自宅の中に入った。不思議な青い雪はしんしんと女性の街に降り続けるのであった。


 僕はアナとニューアイルのマザーセンターに行って、記憶の鍵を一つ解放した。


 なんと、僕はすぐにイナクに帰って、男達に避難について指導し、早急に理解させないといけないことがわかった。他にもいろいろ思い出した。アナとフェリアとの関係についてもだ。



 ◇ ◇ ◇



 メリルが先を歩く。僕とフェリア、そしてアナが後ろに続く。


 メリルが言うには、ユーラシアリジョン、イナクに早く戻るにはある装置を使うのがいいらしい。それが置いてある場所に行くのだ。青い雪が今も降り続いている。メリルが歩きながら振り向いて僕に言う。


「カイル、イナクに戻る最速の方法は空を飛ぶことだ」

「絶対、ワープと真空高速を乗り継いで戻った方が早いと思うけど……」と僕。


「ここに来るまでのトータルの移動時間は何時間だった?」

「ワープと真空高速で1日はかからなかったと思うけど……」


「プラス、ユーラシア内での移動は? イナクからワープポイントまで」

「ああ。それは歩きもあったから3、4日か」


「だろ、トータルで一週間近くかかる。しかし、付いて来い! これから見せるものは……」


 僕らはメリルに続いて、大きな建物に入り、奥へと進んだ。アナがフェリアに話しかける。


「ここってフェリアは知ってるの?」

「いえ、初めてきたわ。メリルのこと自体そんなに詳しく知らないし」


「なにか、レガシー技術…… 昔の高度な科学技術が随所に使われているように見える」


「確かに…… 古くは無いけれどあまり見たことがない雰囲気」


「メリルって、宇宙人だってカイルが言っていたよね」アナが言う。

「うん、見た目は私達と同じだけど……」


「まさか、このまま宇宙船に乗せられて、どこかの惑星に連れて行かれるとか……」

「まさか……」


 フェリアが苦笑いした。


「はい、ここだよ!」


 メリルがシャッターを開けた先には……


 巨大な空間、いや部屋が姿を現わし、中央に大きな航空機が見えた。僕もフェリアもアナも航空機は初めて見る。いや、昔、見たことがあるかもしれないが記憶は無い……


「ほら、宇宙船だよ」アナが呟く。

「はは。ホントだ」フェリアが笑いながら同意。


「諸君、宇宙船ではない。見よ! これはホバークルーザーだ!」

 メリルが威張って言う。


「これは……」思い出した。

 僕は三角翼の大きな航空機を見つめた。


「カイル君、ちなみにこれは昔の君のスタッフの設計だよ! まだ思い出せないだろうがね!!」


「すごいな……」思い出したよ。


「重力制御と小型核エンジンを使用している。上空まで上がることはできないが、地上から百メートル程度は浮上することができる。航続距離は十万キロだ」


「これで行くんだね?」


「ああ、試運転は済んでいる。操縦はそんなに難しくない。任せたぞ」

「え、あのメリルさんか誰かが操縦するのでは?」


「私は行かない、他の者も行かない。君ら3人で行くんだよ。当たり前だろ」

「え、そんなあ」


「言ったろ、私が必要以上に地球人を手伝うと、法に触れるんだ。――惑星管理法に触れると、ってもう6回くらい捕まっているけど、罰金はひどいし、ライセンスの更新がめちゃくちゃたいへんだし、こないだも危うく免停食らうところだった。このままだとゴールドライセンスなんて一生無理だよ……ぶつぶつ」


 メリルは後半の独り言がひどかった。どうも祖国の法律で痛い目に遭ってきたらしい。


「とにかく! 一刻も早く、これでイナクに戻り、男達を説得して欲しい。みんなで楽しい地底に行くんだ! この青い雪がブリザードに変わる前にな! 操縦は体で覚えろ! 乗れ! 出発しろ」


「え? 今、これから行くんですか? 聞いてませんけど」

「本当よ! いきなりそんな!」


 フェリアも叫ぶ。


「時間がなさそうですよ」


 アナは雪を見て諦め顔だ。


「今行くんだ。何かこのニューアイルでやり残したことがあるのか?」


「いえ、特にないですけど」僕が言う。


「ほら、着替えとか旅行の準備とか、おやつとか、シャワー浴びたりとか……」


 フェリアも変な主張をする。


「フェリア! 遠足じゃないんだぞ! その身一つで行けばいい。ちょっと臭くても大丈夫だ。男にもみくちゃにされるぞ。飲食物は機内に置いてある。非常食だがな」


 メリルが言い切る。


「嫌だ~」


 フェリアが苦虫をかみつぶした顔をする。


「仕方ありません。乗りましょう」


 アナがフェリアの背中を押した。

 僕もいやいや機体に近づく。


「でもマジ操縦ができないですけど」


「思い出せ~ お前のチームの設計だ。マニュアルもあるから見なよ。そんな余裕はないけどね」


 メリルは笑いながらコクピットのドアを開けて僕らを中に入るように促した。


「結構広いだろ。20人は乗れるんだぜ。じゃせいぜい頑張りな! アナ! 最初だけサポートしてあげな、カイルはすぐ操縦できるようになるけどね」


 僕が操縦席、アナが僕の隣、フェリアはアナの後ろの座席に着席した。さらにその後ろに十程度の座席がある。全員がシートベルトを付けた。


「最後にアナ! ピークバリアーは解除されているけど、まだ独立しているオートプロテクションがいくつか機能している。撃ち落とされないように気を付けてな!」


 メリルはそう言ってドアをバタンと閉じた。何を言っているのか良く分からなかったが、アナは理解できるらしい。


「何の話? 説明してくれない?」

「おいおいね」


 アナはそう言って、僕の言葉をスルーすると、テキパキと手元にあったマニュアルとコクピットのコンソールを見ながら、操縦方法を覚えた。


 こういう姿を見ていると、やはりアナは普通の人間ではなく高度なGPアンドロイドなんだなと思う。人間技じゃない。

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