第26話 カイルのミッション
意識が戻ったのは、警察の留置場の中だった。
検査をされた後おとなしくしていると、メリル・ガウフが僕の所にやってきた。椅子にすらりとした長い脚を組み、ひじをついて僕の方に問いかける。
「カイル君、気分はどう?」
「むかついています」僕が答える。
「体調は良さそうだね、お疲れ様」
メリルは少し面長で小さい顔に大きな目が不釣り合いだ。僕の女性のイメージを越えている。
「何でこんな目に遭わなきゃいけないんだ」僕が言う。
「少し手違いがあったけどさ…… 時間が無いので仕方無かったのよ」
「どう言う事です?」
「もう雪が降ってきた。思ったより時間が無いんだ」
雪? 何を言っているんだこの人は。まだそんな季節では無い。
いや、あれ? 何かかすかに記憶がある。何かが起きるんだっけ?
「雪って何ですか?」
「冬の時代がやって来るんだ。地表の生物は逃げなきゃいけない」
メリルの大きな目がさらに見開かれて、僕の顔をまじまじと見る。僕はその迫力に少し押されて首を引いた。
「え、えーと。冬の時代って……?」
「異常気象さ。過去地球で何度もあったやつ―― しかし! 今度のは急だ。地球は宇宙雷と言う稀な現象に巻き込まれ、凍る」
「凍る……んですか?」
「ああ、急速凍結さ。マグロ漁船もびっくりだ」
「どうしてそんな事を知っているんです?」
「それは、私がオブザー……ん、いや、そのー何て言うか、私は極めて優秀な地球の科学者だからだな、うん!」
メリルの言い方がおかしい。頭は良さそうだが、何かの研究者のようなタイプには見えない。
「何で知っているかなんて、どうでもいいだろう! とにかくカイル君……そう言う事だ。雪が降って、間もなく凍るのだよ」
「証拠は?」
「しょ、証拠だと?」
「証拠はあるんですか? そんな怪現象聞いたことが無い」
「これだから地球の男は…… いや女もだな」
メリルは苦虫をかみつぶした顔になった。
僕は冷静さを取り戻し、頭の回転を速めた。
メリルが動いた。
「よし、これを見やがれ!」
急に汚い口の聞き方になったメリルは近くのコンソールを引っ張ってきて、物凄い速さで操作をし出した。そして、すぐに付属のプロジェクターで映像を映し出した。
映像には成層圏で見たことが無いような雷が発生し、見たことがないような青い雪が降り始めているのが見えた。
「何ですか? これ?」
「宇宙雷だよ。超高電位のブラズマの塊が小惑星とともに地球に急速に接近しているんだ」
「見たことがないですけど」
「そうだな、十万年か百万年に一度しか来ないやつだからな!」
「発生原理を教えてもらえますか……?」
「却下! サルに教えている時間は無い!」
「僕、サルですか?」
「ああ、まだ君はサルだ! ただのオスザル!」
「あんまりですね」
「とにかく! もうあまり時間が無いのよ!」
先程、今まで見たことがない、かなりいい女性だと言ったが……いや、言ってないか? とにかく撤回する。こいつは口が悪すぎる。ああ、また女性のイメージがくずれてきた。
「で? 僕にどうしろと?」
「地上人を早く避難させてくれ」
思い出した。ザックがそんな事を言っていた。
「地底にか?」
「そうだ」
「僕が?」
「君がだ!」
「なんで?」
メリルはにこりと笑って(引き攣っている)、僕の頭を両手でガシッと掴んだ。
ん? まさかキス? いや痛い、ちょっと力が強いよ、メリルさん。
「なんでって言った? あのね、カイル。この件をハンドリングするには君が一番相応しいからだよ。元々、隔離プログラム、及びリバイバルプロジェクトを計画したのは昔のあなただからね!」
「いや、それは転生前の僕であって、単に記憶を植え付けられた今の僕では無いし……」
「昔のカイルはいないんだから、今のあなたがやるしかないじゃないの!」
「メリルさんがやればいいんじゃないの?」
「私は…… 私がやっていいならとっくにやってるさ。決まりなんだよ。私が手を出しちゃいけないんだ……」
「決まりって……?」
「あー、面倒くさいなーもう。言っちゃうけど、私は地球人じゃないの。単なる地球の観察人。必要以上に手を出してはいけない規則があるのよ」
「地球人じゃない? 宇宙人?」
「そう言う事、詳しいことは教えられない。それから今言ったことは秘密ね、了解した?」
「はあ、まあ」
「よし! じゃあ詳しい説明をするぞ、よくその耳の穴をかっぽじって聞いてくれ」
そして、僕はメリルの説明から、今の地球が緊急事態であることを認識した。そしてどうやって地球人達をノアの箱舟に乗せるか理解した。
それが今まで行われたことが無い難しいミッションであることも……
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