第25話 メリル・ガウフ

 私はフェリア・ベネット。ここニューアイル、女性だけの都市国家で生まれ育ちました。地球にはかつて全ての大陸に何十億もの人間がいたそうです。しかし今では、ニューアイルと周辺の地域だけしか人類は住んでおらず、その数は一千万人もいません。


 母は他のみなと同じように、マザーセンターでガイアシステムが選定したX精子を提供され、私を産みました。マザーセンターが保有する精子は五百年前に男性から採取され、選別され、凍結されたものだそうです。提供元の男性達は絶滅しました。ジルウイルスを拡散させた元凶なので罰が当たったそうです。


 この女性だけの世界で、やがては私も母と同じ道、一人の娘を産んで育てていくものとばかり思っていました。しかし昨年、ガイアシステムが驚く発表をしました。


 ジルウイウスが絶滅し、リバイバルプロジェクトが発動したということです。五百年以上前の人類世界を再構築するということでした。


 Y精子が無いのに男性をどうやって産むのでしょう? しかも検疫法の下では男性と疑われる人間は直ちに捉えて、BSLレベル5のシールドラボに隔離し、診断されることが決まっています。


 科学者達がああでもない、こうでもないと騒いでいるさなか、それまで知られていなかったある科学者が示唆しました。


「地球上に今も男性は存在しています。ガイアシステムに意図的に隔離されているだけです」


 その科学者はガウフという名の女性でした。パープル色の髪をした知的でかつ美しい彼女はこうも言いました。


「もうジルウイルスは死滅しており、男性は無害です」


 その意見には根強い反対もあり、受け入れられてはいません。何せ、証拠がありませんから。


 ガウフ博士は表舞台から消えました。別の職業についたようです。しかし裏で私に接触がありました。


「東の渡航制限エリアに行けば、ある種の女性は男性に出会える可能性があります。それはあなたです」


 彼女は、私に東方に遠征して男性を見つけるように強く依頼しました。そして同時に、私の記憶の一部を解放しました。どうも私は五百年前の人間の記憶が移植されているようでした。



 ◇ ◇ ◇



 私、フェリアはカイルとアナと出会って、ガウフ博士が言っていたことが正しいことがわかった。


 そして、ザックから聞いたのは衝撃の事実だった。私は誰かのクローンで、オリジナルの私(名前はフェリーナと言う)は地球の人間ではないということだ。


 さらにこの時代は間もなく終わると言う事も聞いた。その前に人類は男女の関係を思い出させて地上から避難することが必要だと言う事だった。


 その避難が終ったらザックは私を通じてオリジナルの私の元へと行って、そこで過ごすということだった。


 ニューアイルに戻ってきて、カイルが警察に捕えられた。アナに話を聞くと、捕えたのはメリル・ガウフという最近警察に入った人間だった。


 そう、彼女はガウフ博士だったのだ。


 メリル・ガウフはカイルから何か情報を得た可能性がある。


 私は離れたところにいるザックに相談し、カイルを取り戻すことにした。


 ザックは私にメリルと交渉するようにアドバイスしてくれた。どうもザックはメリルのことを知っているらしかった。


 私は以上の内容をアナに話した。アナが確認のため私に聞く。


「フェリア、あなたはあのメリルという警官に言われて、男に会いにはるばる遠征に来てたのね?」


「ええ、彼女は科学者だったはずで、警官になっているなんて知らなかったけど……」


 私はアナにぼやいた。


「そしてザックは私達がカイルを話し合いで解放させることができるって言っているのね?」


「そういう事。メリルのことをなぜか知っているようで、ザックは自信がありそうな口ぶりだったわ」


「じゃあ、留置場? 警察のところに行きましょうよ」

「そうしましょう」


 私とアナは早速、カイルが確保されている警察に向かった。

 尋問と検査は既に終わったようだった。メリルが出てきた。


「やあ、フェリア。きちんと目的の物を持って帰ってきたんだね。最初に私に連絡してくれれば、こんな騒ぎにはならなかったのにさ」


「メリルさん、あなたが警官をやってるなんて知らなかったわ。連絡は何回か入れたけど反応がなかったのはそちらでしょ」


「そうだったの? ごめんなさい。そっか、私通信デバイスを変更したんだった」

「もう!」

「で、そちらの生体アンドロイドさんは?」

「アナです。カイルのガイドパートナーです」

「ガイドパートナー?」


 アナはイナクの存在と、社会システムをメリルに説明した。メリルはさほど驚かずに応答した。


「ふむふむ。やはり男性社会があったのね。あなたはそこのアンドロイド……いや、強化人間になりかけかな? そういう女の子ね。アナ、あなた500年前の記憶が移植されている、言わば転生体ね」


 私とアナはその発言に驚いた。このメリルという人は単に博士というレベルではない。世界の謎をわかりすぎている。何者なんだろう?


「カイルは調べ終ったので返すけど、一刻も早くあなた達に行動してもらいたいことがあるの」

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