第23話 デザイナーヒューマン
甘い香り、穏やかな風が頬を撫でる。
広い緑と花の平原が広がる大地。
緩やかな道路が遠くに続く。
その先は美しい街につながっている。
「ここは天国か?」と僕。
「美しい所ね」アナ。
「イナクとは全く違うな」とザック。
詰まるところ3024年時点で、人類はイナクの男性社会だけかと思われたが何の事はない。同等の規模を持つ女性達が無事に永く生きながらえていたと言う事だ、このニューアイルという都市国家で。
しかし長距離ワープを二つ乗り継ぐほどの遠さだ。お互いにその存在を知らないことはしょうがない。僕は自分が計画したらしい過去の隔離施策について、少しずつ思い出してきている。
「マザーセンターに行く? それとも街を見る?」
フェリアが言った。
「ちょっと待ってくれ」
ザックが言った。
「フェリアと二人で話がしたい」
「ん?」
フェリアが頭をかしげる。
「カイル、十分ほどもらえるか?」
「ああ、いいよ」
僕がそう答えると、ザックはフェリアを引っ張って離れた所まで歩いて行った。
残された僕とアナはベンチに座って待つことにした。このニューアイルの眩しい景色は、気持ちを高揚させる。
「何の話かな?」
僕は分かるはずもないアナに呟いた。
「さあ?」とアナ。
「なんで僕らはあの二人と行動してるんだろ」
「フェリアはあなたが探してたからでしょ」
「そうだけど……いざ会ったら、それほど感激は無かったりする」
「残念ね」
「そうでもないけど」
このニューアイルの眩しい景色は、必要以上の事を考えてしまいそうになる。
「色々、思い出した?」アナが聞いてきた。
「昔の事? ああ、少しずつね」
「私の事は?」
「それはもう。しっかりと」
「私、あなたに随分こき使われてたよね? ウォーカー上官」
「いや、ほら。アナは優秀だから」
僕はそう言いながら、昔、最高技術で作られた生体型アンドロイドのアナが、設計以上の体の変化や行動を示していたことを思い出した。明らかに人知を超えた何者かが彼女を制御していた。そしてさらに不思議な事に僕はそれを体で感じていた。何かが共鳴していた!
「フェリアと久々に会えて嬉しかった」
アナが言う。
「おまえさ、最後の頃は僕よりもフェリアの指示で動いていたもんな」
「ふふ、カイルより優秀だからね」
「まるで姉妹って感じだった」
「そう? 懐かしいね」
五百年前の騒動の最後の頃は、フェリアとアナが前線で動いていて、僕は基地でそれを見守っていた。僕を含め三人の連携は完璧で、そして――無敵だった。
「ザックはなんであんな騒ぎを起こしたんだろう?」
「さあね? まあ、面白かったけど!」
「こっちは、たいへんだったんだぞ。計画がおじゃんになるかヒヤヒヤで」
「彼の行動はね。たぶんフェリアが大きく関係している」
「フェリアが?」
「ザック本人に訊いてみたら? 今がチャンス。五百年振りよ」
今思い出すことができる記憶だと、500年前の僕らの関係性はわかっている。しかし具体的な時間や場所や行動が思い出せない。ザックが邪魔した僕の計画って結局どういうのだっけ?
「アナ。まだ思い出せないことが色々あるんだ」
「解放コードを入手すれば、思い出せるわ」
「ああ、そうだ。でも大事な疑問はもう思い出している」
「何?」
「君は何者なんだ?」
「……」
アナは一度目を瞑り下を向き、そして目を開いて、僕を見た。
「私は単なる生体アンドロイド。カイル達が2520年に製造したんでしょうよ」
「いや、違う。作ったのは確かに僕らだが、おそらく誰かに作らされたんだ」
「作らされた?」
「ああ、設計時に意図していない機能や情報が細胞に含まれている」
「それは変な話ね」
「自我さえある」
「無いと思うけど……」
「しかも発達している。まるで人間になろうとしているようだ」
「まさか」
アナが笑う。笑いながら遠くを見る。フェリアとザックがこちらにゆっくり歩いてくるのが見えた。
「しかも君はフェリアと何か思考がリンクしている。なぜか僕ともね」
「……カイル、あなたこそ本当に人間?」
「は? 僕?」
「うん」
言われてはっとした。もちろん僕は記憶は移植されているが昔も今も生粋の人間だ。調べる必要も無い。しかし、今のアナの質問は僕が、自分に関して何か重要な事を見落としているのではないかということを想起させた。
「……もちろん、人間だろ」
「普通の?」
「……普通、だと思うけど……」
少し自信が無くなってきた。
「あなたとフェリアって似てるんだよね」
「え? どこが?」
フェリアは女性で僕は男。別に付き合ってるとかは無かった筈だが、計画の責任者同士、気は合ったとは思う。しかし、ただそれだけのことだ。何が似ているというのか。
「考え方、頭脳、人間離れしているところ」
「似ているとは思わないな」
「たぶん、カイルは元々あまり頭は良くないよ。フェリアも天然だし」
「何!?」
覚えているのは、僕はこれでも当時人類最高の頭脳の一人として、アンドロイドの開発、ガイアシステムの開発、サバイバルプロジェクトの最高責任者を兼任していたことだ。
「それはたぶん、私と同じで植え付けられた能力……」アナが呟く。
「まさか!」
「あの人にね!」
アナはそう言うと立ち上がった。
「フェリア!」
アナとフェリアが少し別人に見えてきた。
◇ ◇ ◇
「何話してたの?」アナがフェリアに訊く。
「えーと……」
「言うなよフェリア!」ザックが釘をさす。
「その内教えるわね! アナだけよ」
フェリアがアナにウインクする。
ザックの眉間に皺が寄る。
「じゃあ、そろそろいこうぜ、ニューアイルの街とマザーセンターに」
僕が言うと、ザックが思わぬことを口にした。
「カイル、俺は目的を果たしたので、これで一旦お別れだ」
「何?」
僕とアナは驚いてザックを見る。
「フェリアから情報は得た。俺は別行動にするよ」
「そ、そうか。まあ別に一緒にいてもらう必要はないな……」
そう言いながら僕は、少し不安を感じた。いつの間にかザックは頼りになる仲間のような錯覚を起こしていた。しかしよく考えたら、彼は元々何も関係ない存在なんだ。
「ただし」ザックは言う。「俺はフェリアとコンタクトができるようになった」
どうやってコンタクトを?
「携帯端末で?」僕が聞く。
「いや、必要ない」ザックが言う。「直接だ。気が向いたらまたサポートしてやる。すぐ会えるかもな」
フェリアは苦笑いの表情を浮かべている。
「何なんだ? おまえら」
「どうでもいいだろ。おまえらがこれからやらなければならないことはフェリアに伝えておいたから。せいぜい三人で頑張りな」
ザックはそう言うと、アナの頭をポンと手で叩いてから、僕らを離れて行った。
アナはブスっとした表情で頭をおさえてザックを見送った。(子供扱いして!)
フェリアが近寄ってきた。
「カイル、行きましょうか?」
「ああ、行くか」
僕はポカンとした顔でフェリアに答え、アナと歩き出した。
「さてと」
僕の右にはフェリア、左にはアナがいる。
「何か変な感じ……」
そう、この二人とこれから行動するって不思議な感じしかない。
「違和感は無いけど、想像もしてみなかった」
「何、ぶつぶつ言ってんの?」
アナが怪訝な表情で僕を見た。
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