第22話 ニューアイルへ

 フェリアの住んでいるニューアイルにもマザーセンタ―があるらしい。ただし人工子宮は使用しておらず、もっぱら凍結精子の供給を受けて受精を行うためのマタニティクリニックセンターということだ。


「ここからどれくらいの時間で着くの?」

「シャントカプセルで十分くらいかな?」

「早っ、そんなに近いの?」

「いいえ、近くはないけれど、あなた達が乗ってきたような旧式カプセルじゃなくって本当のタイムレスワープができるのよ」


「何? この男女世界の差は?」

 アナが僕に聞く。


「さあ。なんだろうね?」と僕

「まさかダジャレ?」

「いや……」 


 ザックがフェリアに聞いた。


「ステーションはどこにあるんだ?」

「ここからプレートで5分程度移動した場所よ」

「俺らも乗ることは出来るか? ガイアの許可が必要か?」

「たぶん、審査が通れば問題ないと思う。男が審査に通るのかどうかはわからないけどね」

「やってみよう」


 僕ら4人はニューアイルに通じるワープステーションに移動した。さっそくザックがワープシステムにカプセル使用の許可を申し出た。


「IDが認識できません」

 システムのつれない返事。


「この人は私のゲストよ」

 フェリアが助け船を出す。


「フェリア・ベネット様、承知しました。IDが無い人は本来許可できませんが特別処置を試みます……この方は性別を確認できません」


「……男よ」

「……御冗談を」

「これ、中に人が入っているのか?」

「んな訳無いでしょ」とアナ。


 なかなか人間味のあるシステムだ。続けてトライはしてくれるようだ。


「お名前を……」

「ザック・ランバート」

「ふむふむ、男でザック・ランバートというお名前ですね」

「ああ」


「男であるという証明を」

「はん? 証明? ねーよそんなもの、服でも脱げってか?」

「いいですね。どうぞ」

「冗談! 誰がやるかっ」


「ではスキャンしますね」

「バカ、やめろっ」

「終わりました!」

「早っ」


「うーん、確かに体は男性ですね。みなさん透視画像を見ますか?」

「見せるなよっ!」

「しかし男性でIDもありませんからニューアイルにとって安全という保証が取れないですね」

「カイル、何とかならない?」


 フェリアが言う。僕はザックとシステムのやりとりを聞いていて、何かを思い出した。このシステムは知っている。


「ICHシステムか? ガイアと接続できるだろ」

「はい?」

「ガイア、コール」僕が続けて言う。

「ガイア、接続しました」


「ローカルコード、KX99」

「コード、声紋認証に成功しました。ガイアローカルと話せますが、ワープシステムとは別のシステムになります。情報は引き継がれません」


「僕だ、カイルだ」

「カイルさん、久しぶり。目覚めるのが遅かったですね」

「まだ完全じゃない。メインシステムとはここではアクセスできないのか?」

「できません。あなたの設定です」

「くそ自分」

「ハハ」


「このシステム笑うのね」

 フェリアが驚いている。


「今の世界の状況を説明してくれるか?」

「メイン・システムでないと開示できません」

「ケチだな」

「あなたほどではありません」

「くそっ」

「言葉にご注意。二度目は面白くありません」


「4人がわかるか?」


「フェリア・ベネットさん、あなたはニューアイルの住民として登録されています。カイル、あなたはもちろんわかります、不完全ですが。そして他の二人はわかりません。一人は女性で、もう一人は性別不明で変なものがついています」


「コホン。アナ・ミューアと変なものがついている方はザック・ランバートだ」

「仮登録します」

「ワープシステムにニューアイルへの移動許可を出してもらえるか?」

「アナ・ミューアは許可します。ザック・ランバート氏は怪しいので、危険が無いかもう少し身体検査が必要です」


「見やがれ!」 


 ザックが後ろを向いてパンツをおろし、自分の尻をひっぱたいた。アナとフェリアの目が点になる。


「……いいでしょう。衛生的には危険ですが許可します。汚いものはおしまいください」


 ザックはパンツをはき上げてから、システムコンソールに蹴りを入れた。


「ちなみに、料金は女性は無料、それ以外の方の基本料金はお一人40Kドルになります」


「40ドル? 安いな。フェリア払っとけよ」ザックが言う。

「40Kって言われたのよ。550万円。色々割引が効くから実質は百万円ほど払えばいいんだけどね」


「何だそのバカ高いチケット代! ぼったくり! ねえよ、そんな金」

「お金持っていないの? しようがないわねえ。私が貸してあげる。利子は年利100%だからね」

「フェリア、お前、金持ちだな……」


 僕も聞いた。

「僕も支払う必要があるのか?」

「カイル、勿論です。ただし、あなたはツケが効きます。良かったですね」


「ああ、わかった。ツケで頼む」

「利子は年利200%になります」

「……了解。あとでプログラムを修正させてもらうよ」


 こうして何とか4人とも、ニューアイルにワープ移動できることになった。

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