第21話 4人の再会と目的

 フェリアによると、僕らと出会うのはこれから起きる気象変動に対処する為なのだが、その記憶が無いまま無意識に僕を探していたらしい。


 もっと驚いたのは、そう、彼女は女性だらけで住んでいる場所から来たと言う事だった。


「ええ、男性は昔からいないわ。あなた達と正反対。男は弱っちいので絶滅しちゃったって教えられた。まあ誰も疑う人はいないわ。男は汚らわしくて弱い生き物……」

 

 僕はザックを見ながらそう言うフェリアに苦笑した。男世界で教えられた女性のイメージとは若干ニュアンスが違う。


 それにしても、世界から女性が絶滅したって言うのは噓だった。女性だけの世界も在ったんだ。僕とフェリアは話し合う。


「ウィルスを絶滅させるために、男女を隔離した――」

「そうね。そこまでは共通の歴史認識だわ」


「で、その後、一方の性が絶滅したって教えられたけど、それは偽りで実は隔離したまま今までお互いの存在を知らずに長い間過ごしてきたと……」


「まさにその通り、なぜそんな事したの?」


「ジルウィルスを確実に根絶させるためだ。男女の接触が間違っても起きないようにしたんだ」


 僕は思い出してきた。移植された過去の別のカイルという男の記憶を。昔の僕はその使命のために働いていた。そうだ。しかもアナは僕の部下だった。



 ◇ ◇ ◇



 僕ら4人はその日、夜にかけて、今後どうするかを話し合った。元々僕とフェリアの目的は異性を見つける事自体であって、その目的は既に果たされた。


 しかし、記憶が戻るにつれて…… またザックの話からも、僕らの行動にはもっと大きな意味があることが分かってきた。


 地球環境にとってとんでもない大事件が待ち受けていて、人々をどこかに避難させないといけない様なのだ。


 そのとんでもない大事件というのは……ザックが言うには、宇宙から飛来する小惑星か何かによって地表面が急速に凍結するらしい。(なぜそんな事がわかるんだろう?)


 ザックは地底に巨大な空間があり、そこに人々を一時的に避難させないといけないとも言った。ただしそれを遂行するまでに至る、選択すべきプロセスは分からないと言う。


 アナは、フェリアならそれも分かるだろうと言って、フェリアの記憶の鍵をさらに開けた。フェリアはおもむろに様々な記憶を思い出した。


「まず、カイル、あなたがガイアと交渉する必要がある」

「僕が? なぜ? 何を交渉する?」

「あなたがガイアの開発者だから。あなたしかガイアと交渉することはできない」

「何を交渉するんだ?」

「500年に渡って隔離されてきた男女の関係を回復させる手段について」


 僕が隔離施策からの回復についてガイアと話し合う? そんな事は考えてもみなかった。大体、僕がガイアの開発者だったって言っても、今の僕はその頃の記憶を全て取り戻した訳ではない。そもそもどうやって交渉するかさえわからない。


「男女の関係を回復させるのと、人類の避難とどう関係があるんだ?」

「避難は当然、女性が優先。男性には女性の避難を守ってもらわねばならない義務がある」


「う…… 守るって、何から?」

「特殊放射線よ」

「何それ?」僕が訊く。


「ザック、教えてあげて」

 フェリアがザックに振った。

「あー、俺か。カイル君、特殊放射線とは……」


 ザックが僕の周りを歩き始めた。


「Vパス内で浴びる有害な放射線だ。全身の細胞のエネルギーを消耗する。特に女性の子宮周辺の感受性が高い」


「どう対処する?」

「シールドするが、防ぎきれない。男から女にエネルギーを供給する。輸血と同じだ」


 僕はきゅっと口を結んだ。納得するしかない。


「マジか。女性って何人いるんだ?」

「ざっくり1千万人、男と同じ位だ」

「そんな大人数……」

「なのでペアを組む。一対一で輸液する」

「うーん、たいへんだな」


 話し合う僕とザックを、フェリアとアナが見ている。僕はもう一つの疑問をフェリアにぶつけた。


「ガイアと交渉って、どうすればいいかわからないが……」

「マザーセンターであなたをさらに再覚醒させる。アナを使って」


「今、ここでやってくれよ」

「アナが覚醒コードを入手する必要がある」


「マザーセンターで?」

「そう、その通り」

「なんだ? そのシステム」

「カイル、昔のあなたが考えたのよ」

「僕が?」

「はい」


 人々を地底に避難させるにあたり、男と女の関係を回復させて移動中に行う輸液処置の準備をする必要がある。その具体的方法については一度マザーセンタ―に行ってから僕がガイアと検討する、という事らしい。


「じゃあ……」

「マザーセンターに行きましょう」

 アナが明るく言った。


「帰るのか。また長距離を移動しなきゃいけない……」


 僕が言うと、フェリアが否定した。


「え? 帰る? ニューアイルにもマザーセンターはあるけど……」

「ニューアイル?」

「私の故郷、女性のホームランドよ」

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