第20話 フェリア・ベネット
女性はザックに近づき、顔を近づけて見上げた。ザックが少しのけぞる。
「どこかで見たような?」女性が言う。
「ああ、久しぶりだな、フェリア」
ザックは彼女を知っていた! 女性がびくっとして身を引いた。ザックが微笑む。
そうか、この人は「フェリア」って言うのか。
なんか記憶があるような無いような……
それにしてもザックは何で知っているんだ?
「な? どうして私の名前を知ってるの?」
「どうしてって…… お前も記憶喪失か」
ザックがフェリアの頭を触ろうと手を伸ばした。するとフェリアが素早くその手を跳ねのけ、一歩離れた。素早い動きだった。
「止めてよ。気安く触らないで」
ザックは肩をすくめて、表情で僕に同意を求めた。僕は首をほんの少しかしげた。
「その内、思い出すさ。俺とお前は腐れ縁だ。正確にはお前ではないがな。それからカイルとアナも本来のお前は良く知っている筈だ」
「知らないわ、あなた達全員」
フェリアの言葉に、様子を見ていたアナが初めて口を開いた。
「記憶が制限されているだけです。あなたはなぜここにいるんですか?」
「それは…… いいえ、あなた達から話すべきよ。どうして三人でこんな所まで来たの?」
「君を、いや女性を探すためさ」
僕が言った。目的は今叶った。
「女性を……探すため?」
フェリアは考え込んだ。
「その……ユーラシアとかには女性がいない?」
「五百年前から地球全体にいない。僕が知っているのは今の所君だけだ」
「そこの、アナ……さんは?」
「彼女はアンドロイドだ」
「え? そんなバカな……」
「アンドロイドという事がか?」
「いえ、女性がいないと言う事が……」
またフェリアが考え込んだ。どうも僕が言っていることが理解できないらしい。
「こっちの番。君はなぜ移動している? 旅行?」
「まあ、そんな感じ。探し物かな?」
「何を探してる?」
「……」
フェリアがなぜかアナに近づいた。
「何を探してる?」僕は繰り返した。
ザックがフェリアの代わりにぼそっと呟いた。
「こいつは男を探している。お前と逆だ」
フェリアの顔がみるみる赤くなった。
僕は思わずザックの顔を見た。
そんな理由とは思っていなかった。
「男を探している、だって?」
「ち、違う。女性じゃない人間が東方にいるかもしれないって聞いて……なぜか……」
言い訳をするフェリアにザックが突っ込む。
「女性じゃない人間って何だよ?」
フェリアが白状した。
「男性……」
「好きもんだな」
ザックがつい口を滑らすと、二人の取っ組み合いが始まった。ザックが腕が立つのは知っていたが、フェリアが意外と強い。互角にわたっている。
「くそザック!」
フェリアが叫んだ。僕とアナは苦笑いした。
アナが僕にひそひそ話した。
「カイル、私、彼女の記憶も少し解放できると思う。やってみる?」
僕は少しだけ考えた。特に害はなさそうだ。ザックは腐れ縁と言っていたから、のっぴきならない関係で、さらに深刻な喧嘩が始まる可能性もあるが、早い内に吐き出させた方がいいだろう。
「フェリアさん、どうやらあなたも僕と同じように記憶に制限がかかっている様だ。ここにいるアナがその記憶の鍵を開けることができるんだけど、開けましょうか?」
フェリアが興奮からやや落ち着いてきて、言葉を返した。
「うーん、お願い。最近ずっと頭がもやもやして、自分がなんでこんな行動をしているのかが分からないの」
アナが僕の時と同じようにフェリアの頭を両手でつかんで記憶の鍵を開けた。
処置が終ったとたん、フェリアは少し離れたところでガクッと項垂れた。どうも思い出した記憶がショックな内容だったらしい。
湖を背景に、気を取り直してフェリアが顔を上げた。
「もっとロマンチックなものだと思ってたのに~ これじゃただの仕事じゃん」
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