第18話 ウェストポート29

 卵を少し平たくしたような楕円球状のカプセル3基がウェストポート29ターミナルに到着した。ゆっくりと透明なキャノピーが開く。


「ウェストポート29にようこそ。お忘れ物が無いように、チェックゲートまでお進みください」


 自動アナウンスが繰り返す。カプセルから出ると、少し離れたところでちょうどアナとザックもカプセルから出るのが見えた。二人が近寄ってきて話しかける。


「あっという間だったね」

「ワープという割には長かったぞ」


 いつのまにか二人が馴染んでいる。

 少し妬ける。アナは僕のパートナーだ。


「初めてのカプセルワープの旅、まずまずだな。さて、行こうか」


 僕らはゲートで出場手続きを行った。そしていよいよステーションの外に出る。


「ま、眩しい」


 照り付ける日差しに僕は思わずつぶやいた。


「少し暑いな」ザックも呟く。


 暑い。湿度はさほど高くないが、気温が高い。アナも手を頭にかざして日差しを遮ろうとしている。僕らは一度ポートステーションに戻り、服装を整え直して、進む方向を検討した。


「ここはプレートは使えるかな?」


 ピコに聞く。


「重力制御レール網がある。使えるわよ」

「カイル、どっちの方向に行く?」

 アナが僕に聞く。

「うん、そうだな~ 見当がつかない……」

「おまえな~」


 ザックが文句を言うが、勝手に付いてきたお前に言われる筋合いはない。痺れを切らしたアナが僕に向かって言った。


「鍵を一つ開けるか!」

「何? どういう事?」

「いいから、頭を貸して」


 アナはそう言うと両手を上に上げて、僕の頭を掴んだ。それを見ていたザックが呟く。


「頭潰されるんじゃないか?」

「うぇ?」


 冗談だとは分かっていても、少しビビった。アナの強化細胞なら少し力を入れれば確かに僕の頭はつぶれる。


「黙って!」


 アナはそう言うと目を瞑って腕に力を入れる。


 アナの体から青いプラズマの様な光が出て腕を伝わり、僕の頭に達した。なんだこれは。


 僕はアナの真剣な顔から視線を下げ、顎、首、そして、ほどほどに膨らんだ胸を見つめた。


(うーん、少しだけ魅力を感じるな)


 女性の体を初めて目の当たりにして、冷静に分析している自分がおもしろかった。


「見ないで!」 アナがピシリと言う。

「ごめん」 視線を上げて顔に戻す。


 間もなく頭の中のどこかのドアが開いた。閉じ込められていた記憶が流れ込んできた。


「鍵が開いた!」 アナが手を離した。


 今、ついに自覚した。僕にははるか昔に生きていたシステム開発者の記憶が移植されている。


 さらに先祖というのか神というのか、僕を創った何かとのつながりを思いだした。僕の創造主、そんな言葉がぴったりの存在がいる。そして進むべき方向を感じさせてくれる。


「西北西だ。西だけど、少し北側に進もう。ここのマップは入手できる? ピコ」


「カイル、制限エリアだよ。現在地から半径5キロメートル以内のマップしか入手できないよ」


「それでいい、西北西方面へのルートを示して」

「ダイアモンドヒルを通過するルートがある」

「よし、そこを行こう」


 僕らはプレートに乗って眩しい光の中を西方へ進んだ。上着は脱いで軽装である。


 どうも、ここは南国らしい。中南米なのか? 海が見える。潮風が気持ちいい。


 ふと見るとアナもザックも景色を堪能しながら進んでいる。風に髪をなびかせて目を細めている。 


 やがてダイアモンドヒルと言う名の丘に近づいてきた。その遠くに見える丘の上に小さな人影が一つ見える。


 僕の心臓が跳ね上がった。何も聞こえなくなった。沈黙の中十秒ほどプレートを進める。


「あ、あれ!」アナも気がついたらしい。


「止まって」僕は言った。


 三人とも静かに停止した。その人影は双眼鏡のようなもので遠くを眺めている様だ。


「僕が先に行く。待ってて。合図したら来て」


 ザックがにやりと笑って視線を下に落とした。アナが少し驚いた口調で答える。


「わかった! あれって、そうよね?」

「そうだな」


 ザックが言った。


(ようやく見つけたぞ、フェリア)

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