第16話 WP到着

 僕らは超音速機との遭遇からそれほど時間もかからずにワープポイント(WP)に着いた。


 ワープポイント(ステーション)は広大な土地の中にポツンと作られた長距離移動用の駅だ。


 かつて何百年も前には、イナクからこの駅までの交通手段があったらしいが今はない。従って来る者もほとんどいない。


 稀なワープのためにメンテナンスだけは常時されている。


 駅内には移動用のカプセルが準備されている。ここからはガイアシステムの厳格な審査を受けた者だけが移動を許される。


 僕らが目指すのは西の大陸。ここがその玄関、出発地点なのだ。


「着いたぞ、初めて来た」


 僕は興奮を隠せない。西の大陸への移動が許可されるのは、科学者かごく短期の旅行者だ。


 しかしどちらもガイアによる厳格な日程管理と衛生管理、そして行動監視がなされ、自由な行動はできない。


 また西の大陸で見聞きしたことは他人に伝えてはいけないことになっている。旅行希望者が増えてウィルスの感染と伝播を防ぐためだ。


 そもそも女性を絶滅させたジルウィルスの怖さは人々に幼い頃からすり込まれており、好き好んで大陸間移動をしたいと言う者は誰もいない。


「少し怖い気もするが、これでウィルスに感染して死んでも本望だ。西の大陸に行くぞ!」


「アメリカ大陸、人類史上最強の国アメリカ合衆国があった場所。今は人が住んでいない……」

 アナが呟いた。


「そうだ。しかし女性に出会ったという伝説的な噂もある大陸だ」

 僕は希望を持っている。


「でもガイアが指定した行先はアメリカ大陸ではない可能性もあるよね?」

 アナが希望をくじく。


「そこが問題だ。ヨーロッパ? アフリカだっけ? 手前のポイントかもしれないし、アメリカを飛び越して西の果ての太平洋かもしれない」

 僕は渋々認める、がさらに続ける。


「アメリカ大陸より西の地図は非開示でシークレットだ。僕は伝説の大陸、オーストラリアがあると見ている」

 うん、あまり関係が無いな。 


「女性じゃなく、カンガルーに会えるかもね」

 アナは呆れ気味。


 いずれにしても、僕のワープ申請が許可されたのは奇跡としか言いようが無い。


「よし、手続きをしよう」


 僕らは半球状のチェックインブースに入った。

 僕とアナの体と顔がスキャンされ、システムが認識し音声が流れる。


「カイル・ウォーカー、GPアナ・ミューア、ワープポイント・イーストエンドステーションにようこそ」


「受付をよろしく」

「ビザを提示してください」


 僕はピコをセンサにかざした。そうだ音声を切ったままだった。音声スイッチをオンするとピコがまくしたてた。


「アホカイル、いつまで音声を切ったままにしてるのさ!」

「悪い悪い。忘れていたよ」


 するとピコに格納されている渡航認可情報を読み込んだシステムが許可を出す。


「ビザを確認しました。ウエストポート29番への長距離ワープを許可します。今から十五分以内に、7番カプセルにご搭乗ください」


「ありがとう」


 僕とアナは待機用のベンチに座った。


 次にザックら三人がブースに入った。五分後、三人が口喧嘩しながらブースから出てきた。


「なんで俺らが渡航不許可なんだよ!」


 叫んでいるのはハウザー。

 どうやらザックだけが許可され、ハウザーとジェイクは不許可となったらしい。


「どうやら俺だけが特別に許されるようだな。何が違うんだろうな?」

 ザックが事も無げに言う。


「せっかくこんなへんぴな所までわざわざやってきたのに、ここで足止めかよ!」


「ハウザー、ジェイク。悪いけど帰ってくれるか? あ、ここで待っていてくれてもいいぞ」

「誰が待つか! ザック、後で追加報酬くれよ」


「ああ、今日これから一週間の有給休暇をやるよ。それが報酬だ」

「ふざけんじゃねえ」


 ハウザーはそう吐き捨て、ジェイクととぼとぼ来た道を帰って行った。


「ハウザーさん、ジェイクさん、またね~」

 アナが叫ぶ。


 ハウザーがその辺の石を拾ってアナ目がけて投げつけた。アナは銃らしきものを出して石を狙い撃ち、3メートル手前で粉々に破壊した。


 そしてにっこりと笑った。うん。アナには逆らわない方が良さそうだ。


「7番カプセルは?……」

「この先を右? 7ベイって書いてる」


 アナが案内板を見ながら答える。ザックが後ろから付いてくる。すぐに目的のカプセルがある7ベイに到着した。


 ベイは大きめの格納庫で、中に入ると様々な装置とカプセルが接続されている。


 5個のカプセルはレールに乗っており出発口にいつでも向かえるようになっている。その内3個のカプセルが光り輝いており準備状態であることがわかる。


「アナ、俺と一緒に入るか?」


 僕は吹き出した。ザックはいきなり何を言い出すのだ。


「バカじゃないの? 誰があんたと! そもそも一人乗りだし!」 


「そうか、アンドロイドちゃんは一人で寂しいかと……」


「ふざけんな!」


 この二人知り合いらしいが、馬鹿々々しい……


「ところで、カイル君よ、ウエストポート29ってのはどこなんだ? 肝心の女性を見つけるのに最適な場所なのか?」


 そんな事、わかっていたら苦労はしない。ザックはおまけみたいに付いてきたってのに図々しいやつだ。


「アメリカ大陸の西側あたりだと思うけど、はっきりしないな。過去にそこら辺で女性と会ったと言う噂があるんだ」


 僕がそう言うとピコが久々に口を出す。


「都市伝説だね。根拠も証拠もない」


 アナも頷く。


「アメリカらしき風景を見て、終わりかもね? さあ、そろそろ乗り込みましょう、別々のカプセルにね!」


 三人は各々、カプセルを選んで入り込んだ。

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