第15話 VTOL超音速機
黄色く光る柱に最も接近してきた。
三キロほど離れているのに、手を伸ばせば届くような迫力だ。
「旧人類か、ははは。ザック、じゃあお前は新人類なのか? なんでそんな事を知ってるんだ?」
僕は笑い飛ばして聞いた。あり得ない話だ。
「それはだな……」
ザックが答えかけた時だった。
物凄い音とともに思いがけないことが起きた。
突然、光の柱から何かが飛び出してきたのだ。
僕は心臓が飛び出そうになった。
ザックも答えながら驚く。
「――俺がここを通ってきたからだ! わお!」
「なんだってー? うわ、あれなんだよー」
二人とも巨大な物体に目が釘付けになった。
銀色のスタイリッシュなフォルムに大きな可変後退翼の機体。
乾いた金属音を放ちながら空中をゆっくりと移動している。
僕は初めて見たが、後でザックに聞くと現れたのはVTOLの超音速機というやつだった。
かつて、航空機が存在していたことは知っているが、ジルウィルスの本格的な感染防止計画により、その使用は禁止されていた。
以降、航空機の使用はおろか、製造・保有まで禁止されてきた。違法な製造を防ぐために、航空技術に関する情報までもが統制され非公開とされてきた。
僕ら三十一世紀に住む者は、誰一人として航空機を見たことが無い。そのはずなのに、ここにいるザックという男は良く知っている。
超音速機は僕らの方にゆっくり近づいてきた。僕は顔が引き攣り、じりじりと後ずさりを始めた。見るとジェイクとハウザーも同じ表情をしている。しかしザックとアナは平気な顔で上空の機体を注視している。
銀色の巨大な機体が数十メートルほどの距離まで近づいてくると、おもむろに静止した。
機体からレーザーが放出され、僕らの手前で鳥のような造形が投影された。そしてみるみる内に実体化した。明らかに人工の鳥だ。空中に留まった状態で言葉を発した。
「こんにちは。ちょっと聞きたいんだけどいいかな?」
男の声で鳥がしゃべる。ザックが答えた。
「何か用か?」
「えーと、単刀直入に…… 今って西暦何年?」
「はあ? 3024年だが」
すると、機内で言い争っている声が聞こえる。
男「3024年だって……」
女「何やってんのよ! 五百年もずれてんじゃない」
男「おっかしいなあ、ちゃんと設定したはずなんだけど……」
女「しっかりしなさいよ。さあ戻るわよ」
鳥が再び話す。
「ありがとう、助かったよ」
するとザックが名前を発した。
「ヴィンセント・ロウ」
鳥から今度は低めの声がした。
「――なぜ俺の名前を知ってる?」
しばしの沈黙。機内から観察しているらしい。
「お前、もしかしてザックか? ザック・ランバート?」
「久しぶりだな」
ザックは声だけでパイロットを特定したのだ。
「一緒にいるのはアイラだな」
三人はどうやら知り合いの様だ。
「そうだけど、ザック、お前こんなところで何してんだ?」
「仕事だ、放っておいてくれ」
「仕事?…… そうか、まあ頑張ってな。また地底で会おうぜ」
「ああ、お前もいい加減、ドジ踏まないように移動しろよ」
「余計なお世話だ」
鳥は音声を流し終わると、ちらっとカイルとアナに視線の焦点を合わせてから、実体を消して行った。
超音速機は、ターンして光の柱の方へ帰って行った。
「ザック、今の連中は何者なんだ?」
「ああ、ヴィンスとアイラは過去の人間だ。時間を移動してやってきた」
「あの航空機に乗って?」
「そうだ。やつらは昔、地球人類で初めて自力で地底世界に達し、時間移動もできる者達だ」
「地底世界に、時間移動…… 信じられないな」
「それにアイラって人はどうも女性のようだわ!」
アナが口を出した。
「そうだ、あの声は女性に間違いない」
「その通り、アイラは女性だ」
「うーん、姿を見たかったな。それにしても信じられない」
僕はそう言って残念がった。思いがけずさっそく女性に会うチャンスだったのに、驚きすぎて何も言えなかった。ザックが慰めるように言った。
「今はまだ信じなくていいさ、また会うかもしれないし」
アナは機体が消えていった光の柱を睨み続けていた。
「アナ、行こう」
僕はアナにそう声をかけて、WP(ワープポイント)へと歩くよう促した。
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