第13話 Vパス(黄色い光の柱)

 天まで届く黄色い光の大きな柱、誰も近づいてはならない不思議な幻想。僕は妖しく輝くその光を茫然と見つめ続けていた。


 何らかの異なる次元が創り出していると言われている。生で見るのは初めてだ。


「光の柱が現れたのがおよそ百年前、ガイアはその存在を知っていたけど、人々には調査も、分析することも禁じた。神聖なものとして扱えと命じたのね」


「そうだな。いやそれにしても思ったより凄いものだな」


 アナと僕は光の柱を見て言い合った。揺らぐ光が上へ下へ移動する。直径は百メートルほどもあるだろうか。


 まばゆい光が永遠とは何かを教えてくれるようだ。二人でしばらく光の柱を見ていると、ふとアナが背後に気配を感じて振り向いた。


 遠くに三人の人影が見えた。ザックとジェイクとハウザーだ。彼らが言っていたように、後をつけてきた様だ。こちらに歩いてくる。


「やつら、どうやって付けてきたんだ? 目に見える範囲にはいなかったぞ」

「バグを使ったか衛星か、そんなとこでしょ」


 バグは偵察用の虫型ドローン。人工衛星はレガシー技術のまさに遺産で、何百年も地球を回り続けているものがある。


 利用は制限されているが、ザック達が何らかの方法で衛星画像を入手している可能性がある。


「しかし、ガイアはなぜ、航空技術を厳格に機密扱いしているんだろう。航空機が使えれば、やつらに付けられずに、一気にワープポイントまで行けるのに」


「ウイルスの拡散防止でしょ。人類が絶滅寸前になったのはジルウイルスが航空機を経由して世界中にばらまかれたからなのは知ってるわよね?」


「それは五百年も前の話だろ、ジルウイルスってまだ残っているのか? 感染した例は僕が生まれてから一度も聞いたことが無いぞ」


「さあ、どうでしょうね?」


 ――空は青く澄み渡り、冷たい風が吹き抜ける。僕達を通り過ぎたその風は、こちらに向かって歩みを進めるザック達の顔をかすめて、山へと向かう。


「ザック、やつらワープするのか? 一体どこまで行くつもりなんだ?」

 

 ジェイクが言った。西の端にはワープポイントがあり、巨大な大陸西側と海を一気に超えて、西の別大陸に行くことができる。


 しかし一般人は、この存在を知っていても使う事はまずない。ガイアの許可が必要で、その許可が出ることはないからだ。


 大陸を移動することは固く禁じられている。


「アメリカ大陸だろうな。ガイアがよく許可を出したもんだ」


 歩きながらザックが答えるとハウザーが聞く。


「で? 俺らも行くのか? いや行けるのか?」

「行けるさ、やつらが行けるんならな」

 とザック。


「怖えーな。アメリカ大陸って謎の大陸だろ、モンスターや人食い狼がうじゃうじゃいたらどうするよ?」


「んなわけねーだろ、おまえはガキか」


 ジェイクはハウザーをけなすが、実はジェイク自身も少し不安がある。


「でもザックよ、わざわざそんなところまで行って、女がいてもいなくても、何か俺らにメリットがあるのかよ? 女を連れ帰ったって、やつのように変態扱いされるだけだぜ」


「ジェイク、お前天国って知ってるか?」


 ザックが諭すように話す。


「いや、死んだら行くところだろ?」

「違うね。天国ってのは女がいるところなんだ。覚えておけ」


 ザックの言葉に、ジェイクはハウザーとひそひそと話した。


「ボスはちょっと頭おかしいぜ」

「俺もそう思ってた。やべーぞ、この人」


 ――ザック達が僕らのところまで歩いてきた。


「やあ、カイルと、GPちゃん」

「アナです!」


 GP(ガイドパートナー)じゃなく名前で呼べということらしい。


「女性はいたか? そこのGPは除外ね」

「名前で呼べって言ってるでしょ、このクズ!」


 アナに落ち着くように仕草で伝えた。


「まだだ。ワープポイントよりこちら側にはいそうにない」

「だろうな。ワープする気だな?」


「もちろんだ」

「許可は得ているのか?」

「私がもらってるわよ! ボケ」


 アナが口を出した。ザックの顔を見たことで機嫌がすこぶる悪いらしい。やはり人間に近い。


 逆に前はアナに嫌悪感を示していたザックが今日はなぜか余裕の表情だ。この二人おかしい……

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