第10話 ザック・ランバート

 ハウザーとジェイクが色々な角度からアナを見回す。リーダー格の男だけが座ったままむすっと見ている。ハウザーが聞く。


「なあ、お前こんなGP連れて、こんな僻地まで何しに来たんだ?」


「お前らには関係ない」

「まさか新婚旅行か? 女のGPと、ははは」


 ピコが鋭く叫ぶ

「あ、アナ、だめっ」


 遅かった。アナが口を開いてしまった。

「私達は本物の女性を探しに行くの、ばか者!」


 リーダー格の男がずっこけた。

「は? 何だと?」


 三人の表情は一瞬固まった。

 一拍おき、ジェイクとハウザーが大笑いする。


「わっはっは、本物の女?」

「まじかよ」

「何が可笑しいのよ!」


 アナが文句を言っているが、僕にとっては想定された一般人の反応であり、特段気にはしない……つもりだったが、思ったより内心腹が立った。(くそっ)


 それでも表面上は平静を装った。

「アナ、放っておけよ。座りな」


 アナは渋々席に着く。様子を見ていたリーダー格の男がおもむろに立ち上がり、僕達のテーブルのところに来た。やはり背が高くイケメンではある。


「お前達、女性を探しに行くって言ったな」

 僕とアナは無視する。男は僕を凝視する。


「おまえ、名前は?」

「名乗る必要は無い」

 僕はムッとしたまま答えた。


 すると男はフンと鼻を鳴らしてから、ポインターでピコをスキャンした。そして再び驚いた表情をした。


「お前…… カイルか?」


 どうやら、この男は僕の名前に心当たりがあるようだ。怪訝に思って聞き返す。


「あんたこそ誰だ?」

「いや、俺の事はどうでもいい。カイル・ウォーカー…… ようやく見つけたぞ」


 僕は手で口を隠してピコに尋ねた。

「こいつが誰かわかるか?」


 ピコは一秒にも満たない時間で情報検索を行い結果を示す。顏認識、声紋などから調べている。

「登録情報に無い! 怪しいやつ、警戒して」


「なぜ、僕の事を探していたんだ?」

 僕が尋ねると、男は僕の顔を見てから答えた。


「ふーん、記憶がまだ不完全なんだな。そうだな、さっきも言ったがお前自身に用はない。お前がやることに興味があるんだ」


「記憶? 僕がやる事?」

「そうだ。お前がやることは分かっている。その結果を見る必要があるんだ」


「何を言っているのか分からないが、僕にまとわりつくつもりか?」

「そんな気は無いが、今後の動きはフォローさせてもらうよ」


「お前は一体誰だ?」


 僕がもう一度訊いた。すると男を見ていたアナが口を開いた。

「こいつは、ザック・ランバートよ」


 男がぎくりとしてアナを見返した。


「どうして俺の名前を……」

「あなたこそ、忘れている様ね、私の事」

「お前、普通のアンドロイドだろ」

「今は普通だね」

「今は、だと?」


 ザックは必死に自分の記憶を探る。


「お前、アナって言ったな」

「そうよ」

「まさか、アナ・ミューアか?」

「ようやく思いだした様ね」


 ザックは一歩下がった。


「なぜ、ここにいる?」

「わかるでしょ。カイルのお供よ」

「お前は要らん。しつこいやつだな」


「あら、あんまりな言い方ね。前はとーっても優しくしてあげたのに」

「うう、気分が悪い。ジェイク、ハウザー、元の席に戻るぞ。こいつは疫病神だ」


 ジェイクとハウザーは初めて見るザックが狼狽える顔をポカンと見て、テーブルを離れて行った。


 僕はザックを撃退したアナを見て聞いた。


「アナ、あいつを知ってるのか?」

「まあね」


 すました顔で食事に戻るアナ。ザックは只者ではなさそうだ。


「あいつは昔から女癖が悪いのよ、昔とっちめたことがあるの」


「女癖? 何を言っているんだ?」


 僕は女性がからむ話が出たことに強い違和感を覚えて言った。女性は何百年もいない筈だ。


「ううん、その事はいいわ。それよりもあいつ、私達の事を付けるつもりみたいよ。たぶん距離は置くと思うけど」


「あの三人組が? 何だそれ、やだなー」

 

 僕は思わず愚痴を言った。それにしてもアナとザックの関係って、何が有ったんだろう。いつか聞き出さなければいけない。

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