第9話 ローツェ到着
僕とアナは最西端の街、ローツェに入った。
この街から先は車では行けない。
「カイル、どこに泊まるの?」
「この先にローツェの丘ってところがある。そこに泊まるよ」
秋が近づく季節の夕方、緑に覆われた見晴らしの良い丘が見えてきた。
市街地から離れたその場所は自然が豊富で、観光客がよく訪れる場所でローツェの丘と呼ばれている。
ローツェの丘の上にある、レストランや宿泊施設などからなる複合施設に到着した。僕らはそこで早めの食事をとることにした。
アナは見た目は女神コスプレなので目立ち過ぎ。ばれないようにパーカーを着せて、フードを頭にかぶらせ、顔が見えにくいようにした。
彼女はぶつぶつ文句を言っていた。
でもこれで一般客は普通の男の子か、又はよくいる子供型のGPだと思うだろう。
大きなレストランに入った。
客は三分の一程度。
まずまずの人数がいる。
僕らは目立たぬ様に隅の席に座った。
僕らはその地方の名物料理のコースをオーダーし、僕は透き通った色のアルコール度数の少ない蒸留酒を飲む。飲酒は十八才から可能だ。
アナはジンジャーエ―ルをストローで飲む。
フードを被ったままの怪しい子供は、他の客から時々視線を浴びている。だが、女の子と気づく者はいない……はずだった。
最初に気がついたのはウェイターだった。サイドディッシュを持ってきたときに、アナの顔をちらりと覗き込んだ。その驚き、引きつった顔は昨日アリエルが見せた表情と一緒だった。
(まずいな)僕は思った。
だが一方で、どうせこれからはずっとこのようなことが続くんだ。早く慣れておかないと、という気持ちもあった。
それから五分後の事だった。
三人組の年上の男達が隣のテーブルにやってきた。手に飲み物を持っている。
どうも他のテーブルからわざわざ移ってきた様だ。僕らの方を見て口元に笑みを浮かべながら軽く頭を下げる。
「やあ、こんにちは」
男の一人が言う。
「……」
僕は無視した。彼らに背中を向けた形のアナも微動だにしない。
ピコがひそひそと僕に知らせる。
(カイル、絡まれる……)
「君達、どこから来たのかな?」
リーダー格の男が続けて言う。
やや背が高くて、引き締まった体をしている。
少し長めの髪に、青い瞳の大きく鋭い目。
年齢は二十代後半くらいか。
無視し続けるのもあれなので、僕は答えた。
「どこでもいいでしょ。放っておいてください」
すると別の男が言った。
「そうつれない事言うなよ。ここで会ったのも何かの縁じゃないか」
「特に話はしたくない」
僕がそう言うと、リーダ格の男は一度息を吐き表情を変えた。
今度は別の男が言った。
「悪いがお前には興味は無いんだ。気になるのはこっちの子でねえ」
さらに首を少しかしげて、アナを注視する。
「ねえ、君って少し変わってるねえ。何でそんなフード被っているの? 顔を見せてくれない?」
「ハウザー」
リーダ格が男をたしなめた。
アナの顔がぴくぴくし出した。
まるで怒っている人間そのものだ。
やばい、我慢しろ。
「髪が長そうだし、なで肩だよねえ」
このくそ野郎!
それ以上アナを煽るなよ!
無言の訴えは通じず。
「体も細いけど、丸い感じも……」
ガタン、我慢しきれなくなり立ちあがる。
アナは振り向いてフードを降ろした。
――顔が丸見え、まごうこと無き女の子!
アナは耐えきれずに叫んだ。
「うるさい! 何か用なの!?」
「ああ……」
僕は顔を手で隠した。
「「おおーっ」」
店のあちこちから声がかかる。同時に男の連れが叫ぶ。イメージとしては古代の女神のコスプレをした子を見つけたかのような反応である。
みな、生まれてこの方、男しか見たことがないのである。女性は創作物でしか見たことが無い。女性の事を話すやつは確実にオタク認定される。
「うわ、本当に女の子だよ、まじかー」
リーダー格の男が少し驚いた顔をする。
ハウザーが笑いだす。
「あ、はは、ほらジェイク! やっぱり女の子だったな、こりゃ珍しい」
もう一人の男はジェイクと言う名前らしい。
「珍しくないっ」
アナがハウザーを睨んで言い返す。
ジェイクが僕に笑いながら聞く。
「お前、これGPだろ。なんてデザイン選んだんだ。オタクか?」
ピコとひそひそ話す。
「カイル、挑発に乗らないように」
「わかってるって」
「ああGPだ。仰せの通り僕はオタクだよ。たのむから放っておいてくれないか?」
「いやあ、初めて見たよ。アニメで見るより迫力あるなあ」
「……」
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