第7話 アナの記憶
家に帰ると、アリエルが留守番をしていた。
僕がアナを連れて「ただいま」と声をかけると、アリエルが目を丸くしてアナを見つめた。
「おかえりなさ……い。あの、そのGPって!」
「女の子だよ、すごいだろ」
「アナです。よろしくお願いします」
「お、おんなのこ…… カイル、あんた本当にそんなの手に入れちゃったの? あ、ちょっと
アリエル自身もアンドロイドのGPなのに、
まあ確かに生身(に見える)の女性を見ることは、街中でダチョウを見るくらい珍しいし、ましてや家族が女の子のGPを連れて来るなんて、GPと言えどもショックでしかないだろう。
「カイル、あんたオタクを越えたね。お父さんが何て言うか……」
「あ、父さんと言えば……僕、西方の旅に出るのを明日に決めたから」
「明日? お父さんに無断で?」
「アリエルから言っといてよ。以前から二十歳になったら西に行くって事は父さんに話していたから、それを明日にしたってだけだよ」
「いくら何でも、唐突すぎるわよ。お父さんの出張中に……」
「いいじゃん成人なんだし、優秀なGPもいる」
「制限区域はガイアの許可がいるけど」
「許可は取りました」とアナ。
「……」
優秀なGP(アナ)が微笑む。
アリエルがアナを睨む。
「優秀? 見た目は可愛いけど、こう言っちゃなんだけど、所詮私と同じGPでしょ」
僕は黙ってにやりとする。
僕の腕からピコが告げた。
「アリエル、アナはレガシータイプだよ」
「えっ?」
アリエルは、茫然とアナを見つめた。
そして何かに納得するように二度頷いた。
「アナ、あなたは女の子で、レガシー……」
アリエルは続ける。
「例えるなら、伝説の女神で最高級マシン――、まるでアニメの世界だね」
「お褒めに預かりありがとうございます」
アナが言った。
「あ、私、準備するね……」
アリエルはあたふた動揺しながらも二人をもてなしたり、カイルの旅の準備を始めた。彼は本当に働き者である。
アリエルが動きながら、僕(カイル)の事をぼやく。一応、彼は僕の母親役でもある。
「まったくもう、自分勝手なところはお父さん似だね! 準備は手伝うけど、くれぐれも気を付けてよ。アナちゃんだっけ…… あなたはちょっと見かけがあれだけど、レガシーなら問題無いでしょう。カイルをよろしくね」
「アリエルさん、見かけが何ですか? まあいいです。カイルのことは任せてください。時々連絡を入れます!」
見かけが小柄な女の子のアナは元気に答えた。
アリエルはアナに微笑みを返した。
◇ ◇ ◇
カイルとアリエルが旅の準備を進めている間、アナは時間つぶしにカイルの家の周りを歩き回った。
自然に囲まれたカイルの家には、とても居心地がいい庭が広がっていた。そこでアナは自分の脳に記録された情報を確認していた。
――およそ五百年前、恐ろしいウィルスが蔓延していた時代。
隔離プログラムの元で、超高性能の生体型アンドロイドの私アナ・ミューアは上司のカイル・ウォーカーの命により、フィメール(女性)エリアに侵入した男を捉えに向かった。
侵入した男の名はザック・ランバート。
謎の人物だった。
フェリアと協力してなんとかザックの確保に成功した。当時フェリアはガイアに選ばれたフィメールエリアの守備責任者だった。隔離計画のトップ2がカイルとフェリアということだ。
以降、世界は無事に隔離プロセスが進んだ。
役目を終えた私は、永い眠りに着いた。
侵入男ザック・ランバートはやがて、どこかに消えてしまったが、調査の過程で彼には驚くべき事実があることが分かった。
彼は未知の地底世界からやってきたらしいという事だ。地底には私達が知らない世界があるらしい。
ザックは言った。地底には複層世界が展開している。重力を自由自在に操り、深層エリアでは時空を超える力を持つ者さえいるそうだ。
さらにカイルは私に言った。
「ザックの情報だと、およそ五百年後、ちょうどウィルスが絶滅した直後らしいが、地球に深刻な環境変化が訪れるそうだ。急激な気温の低下だ。アナ、隔離プログラムが終ったら、我々の記憶は適切な生命体に移植する。特に君は最初は強化生体アンドロイドとして甦ってもらう。未来の僕を助けて欲しい。人類には別のプログラムが必要になる……」
私は未来に起きることを知った。
しかし、知っているのはおおまかな事象だけであり、私達(私やカイル、もしかしたらフェリアもだけど)の詳細な行動や結果はわからない。
私が出来ることはカイルを助ける事、彼が人類を再び導き、守ることをサポートするってことだけ。
五百年前、カイルは最後に言った。
「アナ、ザックと話したが、君とフェリアは特別らしい。君はおそらく再生した後、特殊な人間に変化する。そしてフェリアはそれ以上の変身を我々に見せるだろう。いずれにしても、五百年後に大きな変革がある。それを無事に乗り越えられるかどうかの鍵が君とフェリアなんだ。わかったか? 目を覚ましたら思い出してくれ。そして僕を覚醒させて導いてくれ」
私は五百年前と変わらない空と風景を見ながら、呟いた。
「始まるんだ。大きな変化が……」
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