第4話 GP:ガイドパートナー

 母親代わりのマザーセンター。雄大なランス山脈の地下にあり、命を育みそっと人々に手渡す。幻の女性の替わり……


 そこで働いている者は人間ではなく、ほとんどが(生体型)アンドロイドだ。


 細胞の劣化が抑制されているため、あまり年を取らずに長い間働き続けることができる。テロメアが加工されているのだ。


 車はセンターの奥にある、指定されたセクションの入口に音もなく到着した。こんな奥にあるとは、おそらく重要なエリアなのだろう。


 受付のカウンター越しにアンドロイドがいて、先着の男と話している。受付のアンドロイドは中性的な風貌である。


 僕はふと脇に飾られているプレートを何気なく見た。センター設立時の説明が書かれており質問が可能と表示されている。僕は暇つぶしに『プレート』に聞いてみた。


「ここを作った頃は女性がいたんだろ」

『はい、お客様。設立当時女性は多数存在していました』


「どこに連れていかれたの?」

『女性専用地区です』


「それはどこ?」

『具体的な場所はお答えできません。ここから完全に隔離された地域です』

「知ってるけど言えないってこと?」

『その通りです』


「ふーん。女性はいつ絶滅したの?」

『本施設設立から120年後です』

「その後は一人も女性は誕生していないの?」

『誕生させていません』


「本当かな? 今もいるって噂があるんだけど」

『ウィルス防止上ありえません。出産される性別を厳格に管理するために、このマザーセンターが存在します』


「卵子のクローンって、何百回も行って大丈夫なの? 劣化したりしない?」

『劣化しません。遺伝子に手を加えています』

「ふーん。納得せざるを得ない説明だな……」


 理路整然とした説明には、僕はいつも疑ってかかる。そういうひねくれた性格だ。


 ――その時、「次のお客様」

 受付から声が掛かった。


 僕は受付に近寄った。近くで見ると受付の人は少しだけ女性の雰囲気がある。


「こんにちは、僕は――」

「ご予約されていたカイル・ウォーカー様ですね。お待たせしました」


「二十歳になったんで、GPの支給を受けに来たんですが」

「用件は承っております。中へどうぞ」

 

 受付担当者の外観に、僕は我慢ができずに聞くことにした。


「君さ、実は生身の女性じゃないの?」

「いいえ、私はただの中性アンドロイドです」


 左腕のデバイス(ピコ)がしゃべる。


「カイル、女性、女性ってしつこい。変態!」

「うっさいなあー」


 僕はまたデバイスを指で弾いた。

 別のアンドロイドが案内をしてくれた。


「こちらです。お入りください」


 案内された部屋に入ると、二十体ほどのGPのホログラムが映るシリンダーが並んでいた。全て僕の家のアリエルと同じように、体に性的な特徴を持たない個体である。


「カイルさんの好みに合うように選んでいます。他にも選ぶことが可能ですので、お気に召す個体がなければ言ってください。では、ごゆっくり」


「ありがとう」


 僕は中性的なGP候補を、一体ずつじっくりと眺めて歩いた。ある一体をよく観察しているとピコがしゃべった。


「それがいいんじゃない?」


 僕は驚いた。ピコに眼(光学センサ)はついていないはずだ。


「おまえ、見えるのか?」

「いえ、見えない」

「なら、どうして……」

「カイルのバイタルから判断したの」

「おまえ、ウソ発見器か!」


 一通り見て、一体のGP候補に絞った。先ほど見てたやつだ。


 中性的なフォルムで、スラリとした美人?

 いや美男子だ。

 アクセスしてみることにした。


 起動スイッチを押す。ホログラムはホログラムのままだが、どこかにいる本体と遠隔通信ができる。僕の方から声を掛けた。


「やあ、こんにちは。僕はカイル。君の様な雰囲気がいいんで、類似含めて検討したいんだけど」


「こんにちは、9Fシリーズのレベッカです。候補にあげていただきありがとうございます」


「9Fシリーズで他にもお薦めはあるかな?」

「私ではだめですか?」悲し気な顔。

「いや、そんな事は無いけれど……」

 一拍おいた。「他も見てみたいだけ」


 レベッカは気を取り直して言う。


「わかりました。えーとあなたはカイル……」

「カイル・ウォーカーだ」

「……!」


 驚いたのかレベッカから応答が無い。

 僕はピコに聞いてみる。


「どうしたんだろ」

「ブラックリストにヒットしたのかも?」

「バカ言うなよ」

「カイルさん、あなたはスペシャルリストにヒットしました」


 レベッカが突然言った。

「ほら!!」とピコ。

「バカな!」と僕。

「特別室に行ってください。ルーム211です」


 レベッカに促され僕は聞き返す。


「ちょっと待て、スペシャルリストって? ブラックリストじゃないよね?」

「ブラックではないですが、スペシャルですよ、あなたは。ふふ」


 あいつ、笑ったぞ!

 アンドロイドのくせに、僕の事!

 僕は渋々ルーム211に向かった。

 レベッカでも良かったんだけどな……


 211には一体の生体アンドロイドがいた。

 いや、一人の女の子がいた!!!


 わお、これが女の子? やばいじゃん。

 椅子に座って目を瞑っている。

 スリープモードか?


 僕の鼓動が高くなってきた。

 生身(に見える)の女の子は初めてだ。

 今まで二次元でしか見たことが無い。


「変態オタクさん、おめでとう」ピコが言う。

「ついに見つけましたね」

「だまれ。只今絶賛感動中だ」


 僕はアンドロイドに近づき声を掛けた。


「こんにちは!」


 ――女の子が目を開けた。

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