案件26.使命に燃える女たち

「ふーどばんく・・・って何だ?」

「フードバンクは店や家庭から余った食べ物をもらい、恵まれない人たちに無償で提供するボランティア活動だよ」


「被害があった範囲の中心にフードバンクセンターがあって、僕はそこが怪しいと考えている」


「犯人はそこのスタッフで、恵まれない人々を救うために廃棄食品を盗んだということですか!?」


「まだ確定じゃないけど、行ってみる価値はあると思う―」




 4月26日9時8分、ボンゴラとモズロウは犯人が潜んでると思われるフードバンクセンター、『キガボクメツ』に到着した。

 

(ストレートなネーミングだなあ・・・)

「行くよボンゴラ君」


 モズロウは受付に代表者との面会を希望し、応接間に案内され数分待っていると、背が低く小太りの中年男性が現れた。


「キガボクメツへようこそ、代表の古小須ふるこすガスターです」


聖明機関せいみょうきかん早矢音はやねモズロウと言います」

異救者イレギュリスト手差てざしボンゴラです。忙しい中、お時間をいただきありがとうございます」


「いえいえ、ところでお二人はどのようなご用でここへ?」


 ガスターは顔に汗をかいており、ハンカチで頻繁に拭いている。


「昨夜この街で、廃棄予定の食品が相次いで消失した事件をご存知ですか?」

「ええ、今朝のニュースで知りました・・・」


「ここで扱っている食品も狙われる可能性があると思い、注意喚起のため訪れたんです」

「そそうでしたか!そのためにわざわざ、ありがとうございます・・・!」


 ガスターはさっきよりも多く汗をかいており、ボンゴラはその様子を注視していた。


「念の為、ここの食料庫を見せていただけませんか?」

「わかりました、ご案内します・・・」




 9時54分、ボンゴラとモズロウはキガボクメツの食料庫に訪れ、手分けして調べたが怪しいものは見つからなかった。


「モズロウさん、手がかりはありましたか?」

「残念だけど一つも見当たらないね、読みが外れたかな?」


「いえ、ガスターさんは何かを隠してる気がします。事件について何か知ってるかもしれません」


「ならそろそろ『あれ』を伝えるか・・・」


「えっ!?街の廃棄食品を一箇所に!?」


「犯人をおびき出すため、街中の廃棄食品を黒火手団くろびてだん事務所に集めているんです。協力していただけませんか?」


「あっはい!どうぞ、持って行って下さい・・・」


「ガスターさん大丈夫ですか?すごい汗かいてますけど」

「すっすみません!元々汗っかきなものでして・・・」


 一方カネリとリンドーは、街中から廃棄予定の食べ物をかき集めていた。


「つまみ食いすんなよ!」

「それはアタシの台詞だ!」


 10時13分、ボンゴラとモズロウはキガボクメツでの用を済ませ、帰る準備を終えた。


「ご協力ありがとうございました、期限を過ぎた食品は我々が処分します」

「いえ、よろしくお願いします・・・」


 ガスターは二人が去って行ったのを確認すると、大きなため息を付いた。


「・・・ここまでだな」

「何を言ってるんですか、まだ続けますよ」


 ガスターの後ろから若い女性スタッフが現れた。

 年齢は20代くらいで眠そうな顔をしているが、目は静かに燃えている。


聖明機関せいみょうきかん異救者イレギュリストに嗅ぎつかれた、バレるのは時間の問題だ」


上内うえない君、今自首すれば罪が軽くなるかも知れない」


「食べ物を粗末にすることを黙認し、飢えに苦しむ人々を見捨てる方がよっぽど罪ですよ」


「相手が誰だろうと、廃棄食品は回収します。飢餓撲滅のために―」




 10時35分、ボンゴラとモズロウが黒火手団くろびてだん事務所に戻った時、近くに廃棄食品が入った箱が十数個置かれていた。


「思ってたより多いね、畳6枚分くらいかな?」

「だろぉ!ゲキアツにモッタイねえよなあ!」


(今日食べるものがなく、困ってる人は少なくないのに・・・)


「モズ先輩、外に出したままだと腐りませんか?」

救世会きゅうせいかいから、防腐の呪いがかかった箱を借りてきたから大丈夫だよ」


「それと昨夜以降、新たな犯行の情報はありませんでした」

「犯人は闇異ネガモーフの力を使い切ったから、全快するまで待っているかもしれないね」


 闇異ネガモーフに変異できる時間は限られている。個人差や受けたダメージの量、技の使用などに影響されるが、鍛錬や道具を用いて活動時間を伸ばすこともできる。


闇異ネガモーフセンサーをオンにします」

「みんな、いつでも変異できるようにしよう」


「お前たちは新人だから気を抜くなよ!」

「テメェだって新人だろが!」


「アタシたちとお前たちとでは、背負う正義の重みが違うんだ!」

「リンドー、そこまでだよ」


 モズロウに制止されリンドーは大人しくなったが、カネリとの睨み合いは続いていた。


「何度もすみません・・・」

「いえ、あなた方は異救者イレギュリストを取り締まる立場ですから」


「リンドーが君たちに当たりが強いのは、正義感が強いだけじゃない」


「彼女のお姉さんは、闇異ネガモーフ異救者イレギュリストの戦いに巻き込まれ、身体に重い障害を負ったんだ」


「え・・・」

「リンドーはきっと、お姉さんの悲劇を繰り返させまいと正義を貫いているんだと思う」


 ボンゴラはリンドーの真剣な眼差しを見て、悪堕者シニステッドの復讐者である浅刺あさとげコズドを思い出していた。


(愛する人を傷つけられ失った人の目は、悲しいほどに鋭いんだな・・・)


 その時、闇異ネガモーフセンサーがビビビっと鳴り響いた。


「!」

「来た!」


「「「「変異!!」」」」


 10時42分、カネリ、ボンゴラ、リンドー、モズロウの四人は同時に変異した。


 廃棄食品消失事件の犯人は、常人が認識できない速さで事務所前の食べ物に迫るが、変異したリンドーがいち早くそれに気づいた。


「そこっ!」


 リンドーが後ろを向き拳銃で上空に撃った瞬間、目の前にバッと闇異ネガモーフが現れた。


 頭と背中に鳥のような翼を生やし、身体の各部位は魚や野菜、お菓子など様々な食べ物で出来ている。


 リンドーの攻撃が命中したのか、右足の一部が抉れ血を流していた。


「コイツが犯人だな!?」


「邪魔しないで、食べ物を捨てるなら私にちょうだい」

飢絶闇異きぜつネガモーフモッタナイが、世界から飢餓を撲滅するんだから・・・!!」


To be next case

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