案件24.焦燥のアゼル

 4月25日、悪堕者シニステッドの登場から1週間が経った。


 異救者イレギュリストたちに各拠点を制圧されたせいか、悪堕者シニステッドの活動は小規模かつ散発的になり、黒火手団くろびてだんの三人も難なく撃破していった。


黒殺刑ブラックエンド!!』

「ぐああ!!」


 17時59分、黒皇ブラックレクスが街で暴れる悪堕者シニステッドを仕留めたところで、ルニエルの採点が始まった。


「今回のMVPはアゼルです、悪堕者シニステッドを3人撃破し一般市民への被害を最小限に抑えたため、300点追加されます!」


「すごいねアゼル、ほぼ毎日MVP取ってるよ!」

「フン、ちっとはやるじゃねえか・・・」


 しかしアゼルの表情に余裕はない、悪堕者シニステッドの登場から今日までで獲得したスコアは2千点前後。

 10万点以上のスコアを持つカネリと、大差をつけられたままだからだ。


悪堕者シニステッドめ・・・雑魚の逐次投入では、高得点ハイスコアにならないだろうが!)


「でもアゼル、最近一人で無茶しがちで危ないよ?みんなと協力して人助けしようよ」

「随分呑気だな、俺達は救世主を目指し競い合うライバルであることを忘れたか?」


「ボンゴラはお前をゲキアツ心配してんだぞ!」

「お取り込み中ですが、黒理家くろすじけからの手紙をアゼルにお渡しします」


「何っ!?」

黒理家くろすじけから!?」


 そう言ってルニエルは黒一色の封筒を手渡し、アゼルは受け取るやいなや落ち着かない様子で開封し中の手紙を読み始めた。


 黒理家くろすじけはアゼルとカネリの実家であり、裏の仕事をこなし人助けするスパイの名門である。


「なんて書いてあるの?」

「・・・本家から直々に案件の依頼だ。成功報酬は・・・1万!」

「1万点だとぉ!?」


 通常、ランクが低い異救者イレギュリストは難易度の高い案件を受けられない。

 ただし緊急案件や、当人の実力に応じ依頼される特殊案件などの例外がある。


 聖女直々の依頼であるシャドスター案件や、先週の大規模テロでカネリが1万の悪堕者シニステッドと戦ったのも特殊案件に該当する。


「行くのアゼル?」

「当然、願ってもないブラックなチャンスだ!」


(この案件が成功すれば、本家は俺の評価を改めるはず!)


 さっきまでと打って変わり、アゼルは不敵な笑みを浮かべていた。


「でもアゼル1万点だぞ、お前一人で大丈夫なのか?」


 だがカネリのその一言が、アゼルを再び苛立たせてしまった。


「一人で大丈夫なのか、だと?」

「偶然風邪をひいて10万獲得した落ちこぼれが、俺の心配とは随分偉くなったものだな」


「なんだと!?いい加減にしろお前!!」


 カネリが激昂しアゼルに詰め寄るが、ボンゴラに止められた。


「どけボンゴラ!」

「カネリ待って!」


「アゼル、今の言い方はよくないよ!」

「とにかく、この案件は俺一人で十分だ」


「カネリ、余裕でいられるのは今の内だぞ。お前のスコアなどブラックに追い越してやる」

「ああそうかい、勝手にしろバーカ!」


 アゼルはケンカ別れする形でその場から去っていき、ボンゴラは彼の後ろ姿を心配そうに見つめていた。


「アゼル・・・」

「ほっとこうぜ、あんなヤツ!」


 その時、ボンゴラは背中を指でツンツンと突付かれたのを感じ振り向くと、そこにはいつもとは違う服装のマナキがいた。


「ボンゴラ君、お仕事お疲れ様!」

「マナキちゃん・・・」


 マナキはあまり元気がないボンゴラと不機嫌なカネリ、そしてアゼルが不在という状況から三人の間に何かがあったのだと察した。




 18時21分、ボンゴラたちは近くの料理店【牛々詰ぎゅうぎゅうづめ】に来店し、そこでマナキはアゼルとカネリの事情を知った。


「そっか、そんなことがあったんだ・・・」


「でもそれはアゼルさんが悪いよ、せっかく心配してるのにね!」

「だろぉ!ゲキアツ腹立つよなアイツ!」


「こうなったらヤケ食いしてやるぜ!」

「食べちゃえ食べちゃえ!」


 牛々詰ぎゅうぎゅうづめは牛肉料理専門店であり、カネリは牛丼やハンバーグ、ローストビーフなどを次々と平らげた。


「ありがとうマナキちゃん、話を聞いてくれて」

「聖女ですから」


「それより人前に出て大丈夫なの?」

「だからこうやって変装してるの!」


 マナキは長い髪を大きな帽子で隠し、伊達眼鏡をかけている。

 彼女の護衛を務めるイザベロとクレイアも、髪型を変え私服姿で付き添っていた。


「聖女様が力を極力抑えれば、人々に目立たぬよう振る舞うことができます」

「お忍びで各地を渡り、世情を把握することも聖女様の務めです」


「ねえねえボンゴラ君、この恰好どう?」


 マナキのあざといポーズでボンゴラは少し赤面し、ぎこちなく返事をした。


「え、えと・・・改めてよく見ると・・・普段とはちがうギャップ・・・かな?」

「すごく新鮮で・・・カワイイ・・・です」


「え!?もっかい言って!」

「カッ・・・カワイイですっ!」


「もうヤダ、ボンゴラ君ったら~」

「オイオイ、人前でイチャつくなって」


 カネリはニヤニヤしながら、1キロを軽く超えるであろう骨付き肉にかぶりついた。


 しかしその時、ウワアアアという叫び声が店内に響き渡った。


「ンガ!?」

「厨房からだ!」


 カネリは肉を咥えたまま、ボンゴラと共に厨房へ向かった。

 果たしてこの店に、一体何があったのだろうか!?


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