案件13.祭りの前日会議

 【救世記念祭きゅうせいきねんさい】とは、救世主ルニディムを偲び感謝を捧げるための祭りであり、毎年4月17日に彼が人類滅亡を阻止した場所【聖地ルニジール】で開催される。

 

 参加者は500万人を超える世界最大級のビッグイベントだが、今年の記念祭は100周年目であり、その規模は例年の比ではないと予想される。


 人々が記念祭を明日に控え浮かれる一方、救世会きゅうせいかい本部では聖女と、彼女を補佐する八人の最高幹部【八聖衆はちせいしゅう】が数十名の幹部と共に、真剣な表情で会議に臨んでいた。

 

「聖女様、あなたが人類の希望であることをご自覚下さい!」

「シャドスター案件は、より多く優秀な異救者イレギュリストに任せておけば、あなたが危険に晒されずに済んだのですぞ!」


「だからと言って人を割けば、手薄になったところが狙われるんでしょ?」

「記念祭を前に各地でテロ事件があったけど、異救者イレギュリストたちが持ち場を離れなかったから、被害を最小限に抑えられた」


「我が身より人々の安全を守るのは、聖女として当然のことです!」

「ご・・・ごもっともですが、あなたの身に何かあれば・・・」


「もういいでしょう。それより議論すべきことが、いっぱいあるのですから」


「まず記念祭が近づくにつれて、【セイブレス】たちの動きが活発化しています。国境に配備された異救者イレギュリストたちによると、まだ攻撃は仕掛けてないようです」


「ならばこちらから攻めて、ワシらの力思い知らせるべきや!」


「落ち着きなよ、まともに戦えばこっちもただじゃ済まない。向こうも記念祭を機に攻めてくると思って警戒しているんだろう」


「外を見張るのも大事だけど、中は大丈夫かしら?」


「シャドスター案件で脱走した容疑者は、既に全員【聖明機関せいみょうきかん】が逮捕した。彼らには、異救者イレギュリストと連携し各要所を警戒するよう指示している」


「困りますよね、一部の無能のせいで全体のイメージを損ねてしまうのですから・・・」


「そしてこの案件でも、闇淵やみぶちサエラの目撃情報がありました」

闇淵やみぶちサエラ・・・!」


 その人物の名が上がった時、幹部たちはざわつき始めた。


 一方、会議の様子を見守っていた護衛が仲間に話しかけていた。


闇淵やみぶちサエラって誰?」

「知らないのかよ」


「数々の重大事件や犯罪組織との関わりがある謎の人物、セイブレスともつながってるらしい」

「わかってるのは、神出鬼没かつ闇のオーラみたいな髪の色で、極めて悪辣な人物だってこと」


「タカモクレンに、聖女様暗殺を依頼したのも奴らしい」

「とんでもない野郎だな!」


 その時、会議室に新たな護衛がやって来て八聖衆はちせいしゅうの一人に耳打ちした。


「失礼します、ゴニョゴニョ・・・」

「・・・すぐ用意しろ」


「どうした?」

「ついさっき、闇淵やみぶちサエラから我々宛にメッセージが届いたそうだ」


「大丈夫なのか!?」

「危険ではないことは確認済みだ」


 護衛が会議室の中央に小さな機械を置きスイッチを押すと、光が放たれサエラが現れた。

 これはホログラム映像を映すディスプレイだ。


『ご機嫌よう救世会きゅうせいかいの諸君そして聖女様、闇淵やみぶちサエラだ』


『ちと早いけど、救世記念祭きゅうせいきねんさい100周年おめでとう!それを祝って、とっておきのプレゼントを用意したぜ』


『総勢1万以上の闇異ネガモーフ軍団だ!こいつらが会場内で大暴れして、超エキサイティングな闇深案件やみぶかあんけんにしてやるよ!!』


『プレゼントは当日お届け、いつどこから現れるかはお楽しみ!くれぐれも中止にはしないでくれよな、バイビー!』


 ここでサエラの映像が途切れた。


「犯行予告じゃと!?」

闇淵やみぶちサエラめ!ワシらをコケにしとるんか!」


「この情報は公開されているのかしら?」

「まだSNSには上がってないが、当日アップする可能性もありますね・・・」


「今年の記念祭は不安要素が多すぎる、中止にすべきでは?」

「何を言うか!救世主ルニディムが自ら犠牲となり、人類滅亡を阻止した記念すべき平和の祭典を、中止にするなどあってはならん!!」


「テロリストごときに記念祭を中止すれば、異救者われわれの威信に傷がつきます・・・」

「それに今年は100周年やろ、予定通り決行すべきや!」

「しかし万一のことがあれば・・・」


「いかがなさいますか、聖女様」

「う~ん・・・」


「記念祭は予定通りやりましょう!みんな楽しみにしてるし、この世界には救いがあることを示さないといけないよね!」


「国境を守る異救者イレギュリストたちは引き続きセイブレスを警戒、もし攻めてきても無力化を最優先し、無闇に憎しみを煽らないこと!」


「国内の異救者イレギュリストたちは人々の安全を守り、記念祭が無事に終わるよう全力を尽くすこと、以上!」


「承知致しました」

「聖女様の仰せのままに」


 こうして会議は全会一致で終わり、幹部たちは速やかに退室していった。


(今もボンゴラくんたちは人助けをしている、わたしもがんばらないとね!)




 何が起こるかわからない救世記念祭きゅうせいきねんさいの当日、黒火手団くろびてだんでは大変なことが起こっていた―


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