案件14.カネリ、風邪をひく

 4月17日朝5時2分、なんとあの激熱げきあつカネリが風邪をひいてしまった。

 自室のベッドで横になり、顔を真っ赤にして鼻水を垂らし、ゲホゲホと咳き込んでいる。


 アゼルとボンゴラはマスクを着用し、カネリを介抱していた。


「体温42.9℃、ブラックに風邪をひいたな」

救世記念祭きゅうせいきねんさいの日に風邪をひくなんて残念だね」


 これ程の高熱であるにも関わらず、二人が落ち着いて対応しているのは、カネリの平熱が40℃だからである。


 闇異ネガモーフの力に目覚めると、生身の肉体に影響を及ぼすことがあり、カネリは常人よりも熱さに強くなっているのだ。


「うるせぇ・・・絶対に行くぞぉ・・・絶好の稼ぎ時だろがゲホッゲホッ!」

「そんな身体じゃ無理だよ、また来年もあるから」

「そもそもシャドスター案件以降、無謀な数の案件を引き受けたからだ」


 アゼルとボンゴラに1000点以上差をつけられたカネリは、追いつこうと1週間不眠不休で案件をこなし続け、そのツケが回り体調を崩してしまった。


 家事代行、ゴミ拾い、土木バイトのヘルプなど死に物狂いで働き、90点前後のスコアを獲得したが、記念祭の運営サポート案件は最低でも100点である。


「風邪の原因は、過労による免疫力低下だな」

「色んな人と関わったから、うつされたのかも」

 

「おれ残るよ、カネリのことほっとけないし」

「本気で言ってるのか?」


「ボンゴラ・・・オレに構わず行けよ。マナキに会いたいんだろゴホッ!」

「そうだけどさ・・・」


「行けっつってんだろ!さもないと・・・カゼうつしてやるぞ!!」


 カネリはボンゴラの前で、わざと激しく咳き込んだ。


「わかったよ!でももし体調が悪くなったりしたら、すぐ連絡するんだよ」

「薬や食料を宅配で送ってやる、後で換金してもらうからな」

「・・・どうも」


 異救者イレギュリストは、手持ちのスコアをお金に換えて生活費を確保する。

 1点で1000イェンもらえるが、お金をスコアに換えることはできない。


 5時23分、病気のカネリを事務所に残し、アゼルとボンゴラは会場へ向かった。

 宅配を待つカネリは、ベッドで静かに目を閉じた―




 8時11分、アゼルとボンゴラは既に聖地ルニジールに到着し、記念祭の準備の説明を受けていた。


「襲撃予告!?」

「いつどこから現れるかはわからない」


「君たちは不審者や怪しいものを発見したらすぐ報告してくれ。そして襲撃予告はくれぐれも他言しないように」


 説明が終わり、スタッフたちは記念祭の準備に取りかかった。


 聖地ルニジールの面積は『東京都』より少し狭く、中央に記念碑が立っているだけの広大な平地だが、記念祭の期間中はメインステージや多種多様な屋台が設置され、多くの人で賑わうのだ。


「こんな状況で祭りを始めて大丈夫なの?」

「かと言って中止にすれば、テロリストの思う壺だ」


「むしろこれ程の精鋭達を前に、襲撃が成功するのかブラックに怪しいぞ」

「100周年だからね、去年とは比べ物にならないスタッフの数だ」


 アゼルとボンゴラが周りに目をやると、数多くの名高い実力者や話題沸騰の新人異救者イレギュリストが参加していた。


(所持スコア5千万以上の『英雄アルテマン』に、チーム合計で8千万以上の『ゴーセイバー』、邪霊族じゃりょうぞくを壊滅させた『祓魔師エクソシストロゼザリア』、錚々そうそうたる面子が来ているな・・・)


「『異世界人タズネ』に、『魔異少女隊まことしょうじょたいエブリマジー』だ。おれたちの同期で有名な異救者イレギュリストも結構来てるね」


「何も起こらければいいけど・・・」




 9時37分、カネリは悪夢にうなされていた。


『カネリ!こんなことも出来ないのか!それでも黒理家くろすじけの人間か!』

『落ちこぼれめ!兄のアゼルとは大違いだ!』


 カネリは幼い頃の夢を見ていた。優れたスパイを輩出する黒理家くろすじけに生まれたが、不器用なカネリは家の方針に合わず肩身の狭い思いをしていた。


 みんなを見返そうと必死に努力したが、報われることはなかった。


『カネリ、お前のような出来損ないは不要だ。黒理家くろすじけから追放する』

『待てよ、勝手に決めんな!オレはまだ―』


「こんなもんじゃねえ!!!」


 カネリは叫ぶと同時に、ガバっと起き上がり夢から覚めた。


「・・・クソッ、ヤなこと思い出した・・・ん?」


 カネリは自分の身体の違和感に気づいた、熱と咳がおさまっている。

 なんとたった4時間近く寝ただけで、風邪が完治したのだ。恐るべき生命力である。


「いよっしゃーーー!激熱げきあつカネリ、ふっかーーーーーつ!!!」


 その時、ちょうど事務所のインターホンが鳴った。


「お、アゼルが頼んだヤツだな!」


 治ると同時にお腹を空かせたカネリは、急いで玄関を開けた。


「お疲れー・・・ホタビ!?」

「もしかして・・・カネリ!?」


 配達員の女性温屋ゆたかやホタビは、カネリの知り合いのようだ。




 10時5分、カネリはホタビが届けた3日分のレトルトお粥やうどん、豆腐、バナナ、スポーツドリンクなどを全て平らげ、お腹がパンパンになった。


「ふいー、食った食った!」

「大きくなったねカネリ、こんなところで会えるとは思わなかった」


「ホタビは仕事サボって大丈夫なのか?」

「好きな時間にやるバイトだから、気にしなくていいよ」


「・・・ごめんねカネリ、あの時何も出来なくて」

「気にすんな、もう過ぎたことだ」


「それよりお前、今どうしてんだ?」

「わたしは看護師の勉強をしながら、さっきみたいなバイトをしてるの」


「そっか、夢は変わってねえんだな」

「カネリも救世主の夢、変わってないんでしょ?」


「たりめぇよ!【レッカさん】と約束したからな」

「懐かしいねレッカさん、【バズレイダ】にいた頃を思い出すなあ―」


 ホタビが語るカネリの過去、バズレイダとは、そしてレッカとはどのような人物なのか!?


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