案件12.聖女との約束

 リチャウターは、カネリファイヤがシャドスターの手に落ち、周りが炎に囲まれ窮地に立たされていた。


「マンジロウさん、やめて下さい!あなたは聖女様にお礼を言いたいだけでしょう!!

「うるさい!お前達が邪魔するからだ!聖女様に会わせろぉ!!」


 カネリファイヤがリチャウターに襲いかかろうとしたその時、彼女の動きが急に止まり小刻みに震え出した。


「上手く・・・操れない!?」

「オレ様のゲキアツパワーを、ナメるなよぉ・・・!!」


(カネリが身体の自由を取り戻した!?でもどうして今―)


 カネリファイヤの足元に目をやると、彼女の影は周りの炎に照らされてぼやけていた。


(そうか、影が薄くなったから支配が弱まったんだ!)


 闇に囚われ理性を失ったシャドスターは、こんな些細なミスに気付けなかったのだ。


「オレの影から、出ていきやがれえええ!!!」


 カネリファイヤが身体を激しく動かせるようになり、その勢いでシャドスターを影から追い出した。

 リチャウターはそれを待っていたかのように構え、両手が光り輝くオーラに包まれていた。


「マンジロウさん、この手であなたを救ってみせる!」


救手すくいてハグネード!!!』


 リチャウターの両手から、螺旋状に回転しながら光輝くエネルギーが放たれ、シャドスターをのみこんだ。


「あああああ!!!」


 シャドスターは激しい光の渦の中で、闇のエネルギーを削ぎ落とされて肉体が崩壊し、マンジロウの姿に戻っていった。

 シャドスターの無力化が完了すると、光の渦は弾けように飛び散り、その衝撃で周りの炎を消し飛ばした。


 闇のオーラから解放されたマンジロウは、安らかな顔で意識を失っていた。


「ナイスボンゴラ!」

「カネリもお疲れ」


 こうして、西京さいきょうグランドホテルの戦いも決着がつき、事態は収束していった―




 翌日、ホテルを襲った闇異ネガモーフは全員逮捕され、宿泊客やスタッフの重傷者はいなかった。


 ホテルも一部損壊したが、異救者イレギュリストたちが復旧に協力し、聖女マナキが昨日の祈祷ライブで得た投げ銭を、修繕費や被害者の手当に寄付したため1週間程度で営業が再開する見込みだ。


 追景おいかげマンジロウは第三者の不可抗力による暴走と、タカモクレン逮捕により聖女襲撃の無実が証明され、ストーカーの罪だけが問われた。


 そして黒火手団くろびてだんの三人は、新たな留置所でマンジロウと面会していた。


「判決の結果、僕の刑は【懲救ちょうきゅう】三万点に決まったよ」

「チョーキュー?」

「三万点分の人助けをする罰が課されたのだ」


「マンジロウさん、あなたならきっと罪を償えます」

「僕のせいでごめんね、そしてありがとう」


「それと、おれと聖女様の関係ですが・・・」

「わかってるよ」


「僕も聖女様と同棲する妄想をしてた時期があったんだ。誰にも言わないよ」

「そ、そうでしたか・・・ハハハ」


 ボンゴラが聖女マナキと幼馴染である事実を、真に受けていないようだ。


「聖女に会ったら、お前の代わりにありがとって言ってやるよ」

「ありがとう、運良く会えたらよろしくね」

「その必要はありません」


「だってわたしがここにいるから」


 何と面会室に、マナキと護衛二人が現れた。


「マ、聖女様!?」

「どうしてここに!?」


「マンジロウさん、二年前の祈祷ライブからずっとわたしに会いに来てくれたよね」

「覚えていてくれたんですか!?」


「聖女ですから、ファンのことはみんな覚えてるよ」


「でも、わたしやみんなの迷惑にならないよう、ちゃんと応援しなきゃダメだよ!」

「それでわたしのファンが無実の罪を着せられたり、悪い人に利用されたりするの、わたしとっても悲しいから・・・」


 マナキは今にも泣き出しそうな、悲しい表情を見せた。


「聖女様・・・今まで、すみませんでしたっ!これからは心を入れ替え、ルールを守り応援します!!」

「そして、引きこもりだった僕が外に出られたのは、あなたのおかげです!本当に、ありがとうございました!!」


 マンジロウは猛省し、凄まじい勢いで頭を下げた。


「どういたしまして、これからもよろしくね」

「はいっっっ!!!」


 こうしてマンジロウは自身の目的を果たし、贖罪に全力を尽くすことを誓った。




 その後黒火手団くろびてだんは、聖女の車で事務所まで送ってもらっていた。


「みんなお疲れ様、今回の案件はわたしが採点するね!」

「いよっ、待ってました!」


「まず襲撃事件の真犯人を逮捕し、マンジロウさんの無実を証明したことで、三人にそれぞれ1000点をあげます」


「よぉし!」

(救世主を目指す上で、聖女の信頼を得られたのは非常にブラックだ!)


「そしてMVPはわたしの狙撃を阻止し、たった一人でタカモクレンを撃破したアゼルさんと、わたしたち三人の避難を促し、暴走するマンジロウさんを救ったボンゴラくんです!二人にそれぞれ500点追加します!」


異救者イレギュリストになって初のMVPだ!」

「随分差がついてしまったな、カネリ」

「まだ始まったばかりだろうが!」


「ただしカネリさんは、約束を破ったため700点減点です!」

「・・・ハ!?減点!?約束ってナニ!?」


「カネリさん、わたしとボンゴラくんの関係をヒミツにするって約束したよね?

「え・・・あ、言って・・・ました」


「なのにあなたは、どうしてマンジロウさんに喋ったの?」

「それは・・・アイツが影に潜るから捕まえるの大変で、お前を狙ってたからオレ達に注意がいくようにしたっていうか・・・」


「そうだったの、でも約束は約束です!減点!!」

「ちょっと待てマナキ!マンジロウは話信じてなかったから結果オーライだろ!?」


 マナキはフンと、少し怒った顔でそっぽを向いた。


「ごめんなさい聖女様!もう二度としません、許して下さい!」

「ボンゴラ頼む何とか言ってくれ!幼馴染なんだろ!?」


「次は気をつけようね」

「自業自得だ脳筋雌ゴリラ」


 駄々をこねるカネリをアゼルとイザベロが制止している間、マナキはボンゴラの手を握った。


「マナキちゃん!?」

「わたしが聖女になってマフラーをあげた時の約束、忘れないでね」


「もちろん、おれが信じるままに、この手でみんなを救ってみせる」

「そうすればきっと、あなたは救世主になれる。わたしはずっと待ってるから」


 ボンゴラは聖女マナキとの再会で、救世主を目指す理由と進むべき道を改めて認識した。


 その一方で世間は、『救世記念祭きゅうせいきねんさい』が間近に迫り慌ただしくなっていた―




『スコア早見表』

 

黒理くろすじアゼル ・・・1920点(+1500)MVP


手差てざしボンゴラ・・・1777点(+1500)MVP


激熱げきあつカネリ ・・・628点(+300)


スコア100億点以上で救世主になれる!


To be next case

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