案件7.聖女来訪

 原ククリの案件から数日後、黒火手団くろびてだんの三人は事務所のキッチンで朝食をとっていた。

 食欲旺盛なカネリは、成人男性の平均より5倍以上の量をガツガツ食べている。


「なんか面白いのやってねえかな?」


 そう言ってカネリは、リモコンを使いテレビの電源を入れた。


『続きまして、今朝の聖女ニュースです!』

『聖女様は、一昨日の祈祷ライブで得た投げ銭38億イェンを、災害復興支援団体に全額寄付することを発表しました!』


「ほーん、あのセイジョがねえ・・・」


「ってなんだっけ?」

「言うと思った」


「【聖女】は救世主ルニディムの末裔、その後継者が現れるまでの代理人であり、異救者おれたちを統括する救世会きゅうせいかいのトップでもある」


「そんなことも知らんのか、脳筋雌ゴリラ」

「悪いか!?」

「最低限の常識は覚えた方がいいよ」


 ボンゴラは聖女が祈るシーンを見ながら、マフラーをぐっと握りしめた。


(おれも、がんばらないとな)


 三人が朝食を食べ終え、後片付けを済ませた時、ピンポーンとインターホンが鳴った。


「依頼人か!?」

 

 カネリが玄関の扉を開けると、サングラスをかけ黒いスーツを着た女性が現れた。


「失礼します、あなた方が黒火手団くろびてだんですね?」




 三人は、スーツの女性を応接間へ案内しソファに座らせた。


「私の名は所関ところぜきイザベロ。ある御方の護衛を任されています」


「あなた方に案件を依頼したいのですが、内密にすると約束していただけますか?」


「よし任s」

「用事を思い出した!すぐ行かねば!」

「すみません、おれも!カネリちょっと待ってて!」


 アゼルとボンゴラはカネリの発言をさえぎった後、急いで隣の部屋へ向かった。


「なんだアイツら?」


 二人は隣の部屋で、ヒソヒソと会話を始めた。


「どう思うアゼル?」

ブラックに怪しいな。原ククリの件と同様、闇バイトの協力依頼かもしれん」


「でもまだ決まりじゃない」

「内容を確認しクロと判断したら、その場で拘束するぞ」

「わかった」


 作戦を終えた二人は、応接間へ戻った。


「先ほどはすみませんでした」

「内密にすると約束しよう」


 案件を引き受けることが決まると、イザベロは失礼しますと言って応接間から出た。


 数分後に戻って来ると、もう一人の護衛と黒いローブを着た謎の人物を連れてきた。

 謎の人物は背が小さく、フードを深く被って素顔が見えない。


「私の主が、あなた方と直接会ってお話がしたいそうです」


 そう言ってイザベロは、謎の人物のローブを脱がし始めた。


 ローブから姿を現したのは、先ほどテレビに映っていた聖女だった。

 髪はピンク色で顔つきはやや幼いが、立ちふるまいは気品にあふれており、赤いリボンが左右についたヴェールを被っている。


「こんにちは、聖女マナキです」


「聖女!?」

「何故ここに!?」


 三人は超大物の来訪に大きく驚き、マナキは次の瞬間―

 

「会いたかったよ、ボンゴラくん!」


 満面の笑顔でボンゴラに抱きついたのだ。


「マ、マナキちゃん!?」

「「なにィイイイ!!?」」


「マ、マナキちゃん・・・久々に会えて嬉しいけど・・・心の準備が・・・」

「もう、そんなに緊張しなくていいのに」


 ボンゴラは顔を赤らめ、動きがぎこちない。


「わたしがあげたマフラー、ずっと着けてくれてたんだね。嬉しい!」

「約束を忘れないよう・・・いつも巻いてるけど・・・洗うタイミングが・・・」


「おいボンゴラ!お前と聖女はどういう関係なんだ!?」

「そんなことは後でいい!」


「惑わされるな!聖女が俺達新人の前に現れ、案件を依頼するなど有り得ない!偽物確定だ!!」


 するとマナキは、ボンゴラから離れパチンと指を弾いた。


「クレイア」

「すぐ用意します」


 もう一人の護衛、番門ばんもんクレイアは、怪しげな箱を応接間のテーブルに置き、マナキが箱を開け中身を取り出した。


「こっこれは・・・呪いの寝取られブルーレイディスク!」

「観た者は必ず不幸が訪れる、【特定危険呪物】だ!!」

「なんかスゲえヤベえぞ!!」


 ディスクからは、アゼルとカネリが恐れおののくほどの、禍々しいオーラが放たれている。


 しかし次の瞬間、なんとジュッという音を立て、ディスクの邪気が跡形もなく消滅した。


「ハ!!?」

「一瞬で、浄化した・・・だと・・・!?」

「ということは・・・本物!?」


「アゼルさん、わたしに言うことあるよね?」


「・・・大変、失礼致しました・・・」


 聖女の力を目の当たりにしたアゼルは、深々と頭を下げ潔く謝罪した。


「よろしい」


「マナキちゃん、そろそろ案件のこと教えてくれない?」

「え~、将来のお嫁さんが数年ぶりに会いに来たんだよ?久々の再会をもっと楽しもうよ!」


 そう言ってマナキは、ボンゴラの腕に組み付いた。


「おっお嫁さん!?」


「ボンゴラが聖女の婚約者だと・・・!?」

「スミに置けねえ野郎だなあ!」

「いや・・・おれとマナキちゃんは、幼馴染であって・・・まだ結婚するとは・・・」


「わたしのこと、好きじゃないの?」


 マナキは上目遣いの困り顔をして、さらにボンゴラに密着する。


「え・・・あ・・・う・・・」


 ボンゴラの頭から湯気が出ている、思考回路はショート寸前だ。


「聖女様、お時間が限られていることをお忘れなく」

「は~い」


 イザベロの勧告でマナキは渋々離れ、ボンゴラは少し落ち着きを取り戻した。


「水飲むか?」

「ここは無糖コーヒーブラックだろ」

「ありがとう・・・」


「お願い黒火手団くろびてだんのみんな、わたしのストーカーを助けてほしいの」

「「「ストーカー!!?」」」


 聖女からの思わぬ依頼に、三人は驚愕した。

 ストーカーを助けてほしい、その真意やいかに!?


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