案件3.ヤスエ邸潜入

 ククリの依頼を引き受けた翌日、カネリとボンゴラは家事代行を装ってヤスエの邸宅に潜入し、アゼルは外で情報を集めることになった。


「本日、家事代行に参りました手差てざしボンゴラと、激熱げきあつカネリです。よろしくお願いします!」

「フガー!」


 ボンゴラは元気よく挨拶するが、カネリはマスクをつけ上手くしゃべれないようだ。


「お越しいただきありがとうございます、徳良とくよしヤスエと申します。」


 ヤスエは人が良さそうな高齢の女性で、車椅子に乗りムーンジュエルを胸につけている。

 彼女の側には、黒いスーツを着た二人の異救者イレギュリストがいた。


「ところでカネリって子は、風邪ひいてるのかい?」


「昨日ケンカの仲裁に入った時、口の中を怪我して上手くしゃべれないんです。」

「でも仕事に差し支えないので、心配しなくて大丈夫です」

「フガフガ!」


 カネリは自分が元気であることをアピールした。


 カネリが怪我をしたのはウソで、隠し事が苦手なためアゼルに口枷をつけられたのだ。

 さらに怪しまれないよう、口枷の上にマスクを装着していた。


「ハヘフホハフ、ホホヘホホ!(アゼルの奴、覚えてろよ!)」




 二人は手分けをして邸内の掃除を行い、ボンゴラはその合間にヤスエを観察していた。


(肌見離さずつけているな…)


 ヤスエの胸につけられたムーンジュエルは、美しい満月のようにきらめいている。


「あなた、この宝石が気になるの?」

「す、すみません!きれいだったもので!」


 ヤスエに勘づかれ、ボンゴラは少し焦った。


「これは父からもらった大切な物なんです。結婚式で父が祝ってくれた時を思い出すわ」

「そうでしたか・・・」




 カネリとボンゴラが掃除を始めてから、ちょうど正午になった。

 二人は来客室で休憩をとり、護衛がおいしそうな昼食を用意してくれた。


「二人ともお疲れ、カネリちゃんには刺激が少ないスープを5種類用意したよ」


「ありがとうございます!」

「フガァ!」


 カネリは相当お腹が空いているのか、昼食に目を輝かせている。


「また1時間後によろしくね」

「はい!」


 護衛が来客室を出た後、ボンゴラは部屋を見回した。


「・・・監視カメラとかは、なさそうだな」


「カネリ、もう外していいよ。お互いのご飯を少し交換しようか」


 カネリはボンゴラから肉料理を分けてもらい、おいしさのあまり嬉し泣きしている。


「うんめぇ~!人助けした後のメシは、ゲキアツにウマいぜ!!」

「よかったね」


「でも、おれたちの目的わかってる?」

「もちろん!ヤスエばあちゃんの家事代行だろ!」

「ククリさんのムーンジュエルだよ」


 カネリは当初の目的をすっかり忘れてしまい、ボンゴラはあきれていた。


「ワリィそうだった!でもヤスエばあちゃんは・・・」

「悪い人に見えないよね」

「部屋のあちこちを調べたけど、悪事の証拠は見つからなかった」


 ボンゴラは、ムーンジュエルについて話すヤスエの姿を思い出していた。


「ヤスエさんは多分、うそをついていない」

「護衛の人たちも、悪い人には見えなかった」


「じゃあククリがウソを?でもゲキアツ困ってたよなあ」

「ヤスエさんになりすました人が、奪い取った可能性も―」


 その時、ボンゴラのスマホからバイブレーションが鳴った、アゼルからの着信だ。

 ボンゴラはカネリにも聞こえるよう、スピーカーモードにして通話を始めた。


「もしもし」

『詳細は後で話す!徳良とくよしヤスエから目を離すな!!』




 カネリとボンゴラは、アゼルの説明を受けながらヤスエのもとへ走って行った。


『まず徳良とくよしヤスエはシロで間違いない』

「やっぱり!」


『問題は原ククリだ、彼女の父親はまだ生きているぞ』

「なんだと!?」


『重病を患い危篤状態だが、大金さえあれば助かる見込みがある』

『原ククリは幼い頃に母親を亡くし、父の手一つで育てられた』

『相当慕っていたのだろう、高校を中退しアルバイトに専念する程だ』


「つまり、ムーンジュエルを奪われたのもウソ!」

『ああ、そして俺の推測だが』


『原ククリは父親を治す大金を得るために、俺達を利用してムーンジュエルを奪おうとした』


「そんな・・・!」

「ウソだろククリ!」

『新人の俺達なら、怪しまれないと考え依頼したのだろう。ブラックな女かもしれん』


『さらに彼女は、昼からのシフトに出勤せず行方不明』

『痺れを切らし、ヤスエ邸に向かった可能性が高い!』


『俺は他に調べることがある、そっちは任せたぞ!ブツッ』


「カネリ、二手に分かれてククリさんとヤスエさんを探そう!」

「おう!」


 カネリとボンゴラは、アゼルの推測が外れてほしいと願いながら、ヤスエ邸を駆け抜けた。


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