案件2.依頼人、原ククリ

 リアフルボムの事件から5日が経った。


 時期は4月上旬、とある町の外れにポツンと立つ一軒家がある。

 ここが黒火手団くろびてだんの事務所であり、彼らの家なのだ。

 屋根に取り付けられた旗には、黒火手団くろびてだんのシンボルである、黒い炎に包まれた手が描かれている。


 事務所の応接間では、黒火手団くろびてだんの三人がヒマを持て余していた。


「おいアゼル、ゲキアツ案件は見つかったか?」


 黒火手団くろびてだんの力自慢、激熱げきあつカネリは、応接間のソファで寝転がっている。

 

「人に聞く余裕があるなら自分で探せ、その方がブラックだ」


 カネリの双子の兄で、黒火手団くろびてだんの頭脳である黒理くろすじアゼルは、スマホを操作している。


「新人のおれたちができそうな案件、中々ないよね」


 黒火手団くろびてだんのリーダー、手差てざしボンゴラもスマホで探していた。


「あ、この案件なんてどう?」

「また家事代行かよ、こんな案件やってて救世主になれるか!」


 異救者イレギュリストは人助けをしてスコアを獲得し、持ち点100億以上で救世主になれる。難易度の高い案件ほど、多くのスコアが得られる。

 救世主になれば『世界を思い通りに救う力』が与えられるため、異救者イレギュリストたちは人助けに尽力するのだ。

 しかし救世主ルニディムが亡くなって以降、彼の後継者は未だ現れていない。


「救世主だと?寝言は寝て言え、ブラックの欠片もないお前がなれるものか」

「何だと!?」

「救世主に相応しいのは、この俺だ!」


 冷徹なアゼルと熱血なカネリがにらみ合う。

 二人は双子の兄妹でありながら、相容れぬ存在なのだ。


「俺は稀代の天才で、お前は単なる馬鹿。なれる理由わけがない」

「勝手に決めんな!絶対なって、オレを捨てた黒理家お前らにゲキアツギャフンと言わせてやる!」


「そもそもお前には、救世主になった後のビジョンが無い」

「俺が救世主になった暁には、ブラックな社会を実現し全人類を救う」

「その時点で勝負はついているんだよ」


「救世主じゃなくて、悪の帝王になるの間違いだろ!」

「オレが救世主になって、お前よりもゲキアツに人を救ってやるぜ!」


「不可能だ」

「絶対なる!」


 相容れぬ存在だが、負けず嫌いなところは一緒のようだ。

 両者の視線は、さらに激しい火花を散らす。


「大体お前がいつも言ってるブラックって何だよ!」

「やれやれ、もう忘れたのか?」


「合理性、安定感、厳格、高貴、その他諸々を一括してブラックという意味になるのだ!わかったか!」

「わかるか!」


「まあまあ二人とも、案件を探そうよ」

「随分余裕だなボンゴラ」

「お前も救世主になるんだろ!」

「そうだけどさ・・・」


 アゼル、カネリ、ボンゴラの三人は、同じ夢を目指す仲間であり好敵手ライバルなのだ。


「こうなったら外で案件を探すぜ!」


 カネリが立ち上がり玄関へ向かった。


「お前に遅れはとらんぞ!」

「二人とも待ってよ!」


 カネリの後をアゼルとボンゴラが追いかける。


 カネリが玄関の扉を勢いよく開けると、目の前に女子高生がいた。

 三つ編みで眼鏡をかけ、大人しそうな雰囲気だ。


「お願いします、助けて下さい!」




 三人は女子高生を応接間へ案内し、ボンゴラは温かいお茶を用意した。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


「わたしははらククリ、と言います」


「案件の内容は?」

「悪い資産家、徳良とくよしヤスエから、家宝のムーンジュエルを取り返してほしいんです。」


「なにぃヤスエだとぉ!?」

「知ってるのカネリ!?」

「知らん!!」

 

 カネリの大げさなリアクションに、ボンゴラとククリはずっこけてしまった。


「紛らわしい反応をするんじゃない」


 アゼルが鋭いツッコミを入れる。


 気を取り直し、ククリは悲しげな表情で話を続けた。


「2週間前にムーンジュエルをだまし取られ、父と母は私を残し自ら命を絶ちました」


「なんて奴だ!」

「・・・辛かったですね」


 怒りに燃えるカネリに対し、ボンゴラはククリに寄り添うように言葉をかけた。


「リアフルボムを倒した、あなたたちを見込んでお願いします」

「あの人から、ムーンジュエルを取り返して下さい!!」


 ククリの心からの依頼を受け、カネリは胸を叩き身を乗り出した。


「よし任せろ!ヤスエをゲキアツにして、取り返してやるぜ!!」


「待て、徳良とくよしヤスエは護衛の異救者イレギュリストたちに守られている。奪還は容易ではないぞ」

「作戦を考えないといけないね」


 アゼルとボンゴラは、スマホで調べながら作戦を考えた。


「まずは情報収集だな」

徳良とくよしヤスエが家事代行を募集してるから、おれとカネリで中の様子見てくるよ」

「俺は外部から調査する」


「その前に原ククリ、一つ聞きたいことがある」

「何故この案件を俺達に依頼した?」


「え!?」


異救者イレギュリスト同士の衝突が想定される場合、難易度は大幅に上昇する」

「俺達のような新人より、経験豊富な異救者イレギュリストに依頼する方がブラックだ」

「貴様が対価を支払う必要は無いからな」


「あ・・・それは・・・」


 アゼルの突然の質問に、ククリは非常に困った様子だ。


「アゼル!ククリはオレ達に助けを求めてんだ!オレ達が行かなくてどうすんだよ!!」


「それともビビって行けないのかな〜?黒モヤシく〜ん」


 カネリのプークスクスと言わんばかりの態度に、アゼルはムッとした表情で反論した。


ブラックな意見を述べただけだ、引き受けないとは一言も言ってない」


 不安を抱くククリを見かねたボンゴラは、再び言葉をかけた。


「ククリさん、心配しなくて大丈夫です」

「必ずあなたを、この手で救ってみせます。それまで待っていてください」


「・・・ありがとうございます、どうかお願いします」


 ククリは不安を拭えずも、案件を引き受けてくれる三人にお辞儀をした。

 さあ黒火手団くろびてだん、人助け開始だ!


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