第5話

 僕はこの十年間、魔獣グレゴニーを実験体とし、オーラについての研究を進めてきた。

 ちなみに僕がスカウトを受けたのも、この十年間での事である。


 まず最初に、魔獣グレゴニーとは簡単に言うと犬の魔獣だ。

 見た目的にはドーベルマンに近いかな。


 何故このグレゴニーを実験体として選んだのか。

 それはオーラの大きさにあった。

 このグレゴニーは素のオーラ量が他の魔獣と比べても数段大きかったのである。

 ということはつまり、それ相応にオーラに対する適性があるわけで、実験体にピッタリだと考えた。


 でもまぁ正直な所を言えば、ただ単に良い感じの実験体が欲しかっただけだから、オーラの大きさとかどうでもよかったのが本音だ。

 一番分かりやすい比較対象としてオーラがあったというだけの話。


 ――人間は軒並み駄目だったのに対して、魔獣はオーラの感知ができるらしい。

 これは実験中に分かったことだが、僕のオーラを見て困惑の色を見せる魔獣や、怯えて逃げる魔獣、その他には襲ってくる魔獣もいたから恐らく確実だろう。


 やっぱり本能で生きているのか、人間よりもその辺の感覚が優れている所が魔獣の良さと言えるだろう。益々実験体に適している。


 というか僕は魔獣が逃げる程オーラが大きいみたいだ。

 なんか嬉しいね。


 ――そもそもこのオーラ。

 これは一体何を意味しているのか。


 それは、無意識による身体強化を施していた。

 この身体強化は人間だけに限らず魔獣のような生物にも適応しているようで、僕がそれに気付いたのはグレゴニーが獲物を狩る瞬間を捉えたからである。


 最初はただの追いかけっこを続けていたグレゴニーだったが、その脚は徐々に速度を上げていき、獲物を捕らえていた。

 その時のオーラに注目して見ると、獲物を狩る瞬間、その脚にオーラが集中していたのだ。


 ――元来、生物は力を込めようとすると一時的に筋肉が増幅し、通常よりも優れた力を発揮できる傾向にある。

 例えて言うならば腕の筋肉――上腕二頭筋だ。

 肘を曲げて力を込めた時に、多少なりとも力こぶができるだろう。

 このオーラもそれと同じく、力を込めると込めた部分に集約され、膨れ上がるようにオーラが形作っていたのだ。

 上腕二頭筋に作った力こぶを上から被せるように、オーラが大きく纏われるような感じだ。


 そこで僕はこのオーラのような特殊な力を、天が与えてくれた活力と表し『天からの恩恵エナジーギフト』と称した。


 この世界に転生してから気になっていた事の一つ。

 人間や魔獣等の生物は皆等しく、並外れた筋力を発揮するような事象が度々見受けられたが、その理由がこのエナジーギフトにあったのだ。


 これぞ正に無意識による身体強化。

 火事場の馬鹿力とも言えよう。


 ――そしてこれも実験中にたまたま発見した事なのだが、このエナジーギフト――通称エナジーは自らで操作する事が可能であり、放出する事もできたのだ。


 この放出されたエナジーはオーラとは似てるようで違っていた。

 オーラはただその身に纏われているだけで、オーラを使って攻撃や防御などはできない。

 一方放出されたエナジーはそれらを可能とする物だった。


 僕は最初の実験として、その放出したエナジーを利用し、魔獣グレゴニーの体内に流し続けた。エナジーの根源を探る為の実験だ。


 やり方はとても簡単で、手の平でピタッて触れてエナジーを分け与えるような感じ。

 エナジーを流し続けていると、集中して負荷がかかっているからか体全体に纏われているオーラが自然と大きくなってくる。


 そんなオーラを感知したのかグレゴニーは、威嚇されたと勘違いして必死に反抗するように暴れだしたのだ。

 暴れていたグレゴニーを抑えながらの実験は、なかなかに大変だったが、そのままエナジーを流し込み続けたら大人しくなり、動かなくなった。


 恐らく餌でもくれたと勘違いしたのだろう。

 意外と可愛いところもある。


 ――さてエナジーを流し込み続けた結果、グレゴニーは最終的にどうなったか。


 A.爆発した。


 爆発する所は予想通りだった。


 だが木っ端微塵だったかと言われればそうでもなく、腹部だけが貫通していた。

 この時僕はエナジーの根源が心臓にあると推測していた為、心臓から爆発して、跡形も残らず粉々になると思っていた。


 でもその読みは外れた。


 犬の魔獣であるグレゴニーの心臓は犬と同じく前足の膝関節を曲げた位置にあるのだが、心臓よりも後ろにある腎臓付近から爆発していたのだ。


 腎臓ではなく、あくまで腎臓付近だ。

 ここ重要ね。テストなら絶対出るところだからね。


 そこから気になり、学園の書庫にあった解剖学の文献を読みながら実際に解剖を行った所で、エナジーの根源である臓器を発見した。


 だが不思議な事に、その臓器の詳細は解剖学の文献には記載されておらず、どういう機能を持つのかは勿論のこと、その臓器の名前さえも表記されていない……と言うよりかはただの『臓器』として記されているだけの、全てが謎に包まれた臓器となっていた。


 それはその一冊の文献だけではなく、世界中に置かれている全ての書物がその名前と機能を不明としていたのだ。


 ――僕はこの臓器を発見した時、瞬時にそれがエナジーの根源であるという事を確信していた。

 そのエナジーの根源が、心臓や腎臓と比べても一際目立ち、異彩を放っていたのだ。


 誰がどう見てもこれはおかしいと思うはずだが、何故この世界の住人が今まで気づかなかったのか……。


 よっぽど鈍感なのか、それとも別の理由があるのか。

 うーん、分からん!!一旦放置だ。


 とにかく、この謎の臓器の機能はエナジーの生成と貯留を担っていたのだ。


 そこで僕はその臓器の名前を『エナジーコア』と名付け、そう呼ぶ事にした。




 ◆◆◆




 次に課題として浮かび上がったのがこの三つ。

 1.そもそもエナジーとは何なのか。

 2.何故このエナジーがオーラとして放出されているのか。

 3.また、何故僕はそのオーラを視認できるのか。

 これらを、解明するため再び研究に没頭した。


 ――まずこのエナジーとは、この世界特有の特殊能力だろう。

 魔力とかマナとか。あれらと似た類のやつだ。


 エナジーコアをエナジーの源とし、そのエナジーが血液と混在することで発揮される。


 主に身体強化を基本としているようだが、放出できるという事が確認できた以上、まだ別の使い方や力を残している可能性が極めて高い。

 何にしろ、今後も気にかける必要があるのは確かだという事だ。

 



 ◆◆◆

 



 ――二つ目に移ろう。

 エナジーがオーラとして放出されている理由だ。


 これは、所謂ガス抜きだろう。

 僕はこのエナジーが生物に害を成す物であるとして、最終的にそう結論づけていた。


 それはグレゴニーに行ったエナジーによる爆発が証明している。

 あのグレゴニーはエナジーの急激な過剰摂取により、器であるエナジーコアが耐え切れなくなり、爆発を起こしたのだ。

 その時のグレゴ二ーのオーラはというと、次第に破裂するように膨れ上がっていた。


 そこから考えれば、このエナジーは溜め込みすぎると爆発を起こすことは明白であり、その爆発を防ぐ為に、エナジーは全身の穴という穴からオーラとして排出されていた――言わば防衛機能のような役割を担っていたのだった。




 ◆◆◆




 そして三つ目だ。

 このエナジーがオーラとして放出され、そのオーラを僕が視認できる理由だが……いろいろ考え実験してきたけど、僕が転生者だったからだという事意外に思い浮かばなかった。


 いや、そうでないと説明が付かないのだ。

 何故なら、この世界の住人と僕の決定的な相違点。

 それこそが転生者なのだから。 


 僕の考えはこうだ。

 この世界で生まれてくる人間は皆等しくエナジーに対する適性を持っている。オーラの視認が何よりの証明となるだろう。

 だが僕は、前世の記憶を持って生まれた(転生した)ことにより、その適性が排除されていたのだ。


 前世の記憶を持つ意味とは?

 これはつまり、今いるこの世界とは別の世界の存在を知っているということだ。

 別の世界の存在を知るということは当然、エナジーが他世界と比べても極めて異質な存在であると言う事は誰もが理解できるだろう。

 それ故に、僕にはこのエナジーに対する反応が色濃く出ていたのである。


 そう、言うなれば僕にはエナジーに対する適性が無かったのだ。

 エナジーの適性が無い事による弊害。

 この体では際限なくエナジーを溜め込み続けてしまうという事だ。


 この世界の人間はエナジーの耐性がある事により、エナジーの生成とオーラの排出は一定の速度で行われ、余程のことが無い限り、溜め込んで爆発を起こすなんて事はまず有り得ない。


 だが僕はどうだ?

 勿論、エナジーはオーラとして排出されてはいるが、適性が無いことにより、オーラが排出される速度を遥かに超える速さでエナジーが生成され、溜め込み続けているのだ。

 溜め込み続けるともちろん死に至る。

 だからこそ、僕はエナジーを自由に放出できたのかもしれない。


 まるで一刻も早く僕をこの世界から消そうとするようにエナジーの生成は速度を上げている。


 もしかすると、この世界は転生者を望んでいないのかもしれない。

 転生者に対する扱いが極端に激しすぎるのだ。

 力を与えるが死ねと言われているようなものだぞ。

 しかもその力も、僕だけの特別なやつとかでも何でもなく、この世界の住人がまだ気づけていないだけのありふれた力に過ぎない。


 これはもしかすると、未だ明かされぬ歴史の謎に転生者が深く関わっているのかも――なんてね。


 ――ハンデとも言えるこの体だが僕には寧ろ好都合だった。


 この力があれば僕は憧れたあの主人公になる事だってできると確信していた。


 容姿端麗な両親の元に生まれ、生まれながらにして持っていた記憶と才能。

 幾多の年月が経過し、はっきりと容貌も整った。

 今更自分で言うのも少し恥ずかしいが、面はかなり良い方だ。


 そして、生まれてから身に付けた知恵とエナジー


 ……いける!

 これなら絶対なれる……!!


 前世では何も持たずに生まれてきた。

 その結果があのモブだ。


 でも、今世は違う。

 今世では確かに持って生まれてきたのだ。


 主人公に相応しい圧倒的な容姿を!

 主人公に相応しい圧倒的な才能を!!


 僕はある誓いを胸に刻み、ほくそ笑む。


 この世界では――異世界では――、

 誰もが認める理想の主人公になってやる――!!と。

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