第4話

 あれから十年くらいが経っただろうか。

 僕は現在十三歳で、後二年も経てばムドラ王国に聳え立つ学園の授業を受けられる歳になる。

 

 ムドラ王国――総人口は凡そ一億五千万人。

 世界五大国の一つであり、それを大きく形成しているのが、学園の卒業生達である。


 学園都市とも呼ばれている首都タネットに、その学園は建設されていた。――その名も私立スターダスト学園。

 大陸最高峰の超名門学園と呼ばれ、国内外問わずあらゆる天才が集う学園だと言われている。

 在籍者数は僅か一万人を少し上回る程度。


 名前の由来は、夜空に広がる煌めく星々のように次世代の未来を担う若き天才を集め、育成する意味が込められているらしい。


 一般的には、十五歳から入学できる全寮制度のある学園であり、入学するには学園からのスカウトを受けるか、超難関の入学試験を通過するかの二択であると言われているが、もう一つの選択肢として多額の金銭を支払えば入学できるという裏口入学もあった。


 ――スカウトでは、世界各地にいる特定の分野に特化した天才を集め、早くから世界の未来を担う基盤を作っている。

 スカウトの年齢は零歳から十五歳までであり、常時行われ続けている。

 スカウトを受け入れた者には学費の免除が施され、学園に入る事が許されるのだ。


 授業を受けられるようになるのは十五歳からと決まっているが、十五歳未満でスカウトを受け入れた生徒達には、学費の免除の他にも学園の書物や教室を自由に使用できる権利が与えられていた。


 また、スカウトには仮入学生制度なるものもあり、本当にその人物が学園に相応しいかどうかをある条件を与える事で見極めるという制度だった。




 ◆◆◆




 入学試験では十五歳が対象になる。


 試験の合格率は僅か5%を下回り、

 試験通過からの入学者は毎年1000人を切るとか。


 試験内容は極秘であり、過去問等も存在しない。

 その上、毎年決まった分野が存在せず、大幅な内容変更が施される為、合格者は応用に機転が利くような真の天才しかいないという。


 この入学試験が導入されたのは、入学者を増やす事もそうだが、埋もれた天才達を救う目的があった。


 元々、この学園はスカウトのみで生徒を集めていた。

 その為、全体でどれだけ秀でた能力を持っていたとしても、結局個に特化した人間には勝てず、その才覚が埋もれてしまう事が多かった。


 そのことを懸念した二代目学園長ローガン・ルークが発案した事をきっかけに、現在の入学試験が導入された。


 この入学試験に合格した殆どの卒業生が、現在の政府としてムドラ王国の統治の一端を担っている。


 試験合格者には学費の免除を施す事で、取りこぼした天才達を引き入れるという寸法だった。




 ◆◆◆




 ――今でこそ大陸最高峰とされているスターダスト学園だが、設立当初では主に資金面で酷く困窮していた。


 当時は珍しいとされていた学校教育施設だ。

 設立にかかる金銭の大きさと学園自体の数の少なさから、主に上級国民のような富裕層にしか扱われておらず、賤民との学力の差は歴然だった。


 スターダスト学園を設立した初代学園長スティーブン・レイシルも同じく賤民だったそうで。

 幼少の頃から周りの才能が持て余されている事に憤りを覚えていたスティーブンは、賤民代表として、且つ世界にもっと賤民が活躍するようにという願いを込めて、クラウドファンディングを募った。

 その結果が、才能主義のスターダスト学園の設立だった。


 学園の狙いは功を奏し、国は激動した。初めて下民が設立した教育施設だからだというのは勿論だが、一番の理由はやはり、下民が上級国民と同等かそれ以上に文化を開拓していたからだ。


 洗濯機や冷蔵庫等の家電製品に食文化。

 文明の利器といわれている物の殆どは、スターダスト学園生が生み出したものだった。


 だが現実問題、どれだけ才能を持った人間を集めても、それを補う資金がなければ成長なんて見込めない。


 最初の方こそ順調だった学園だが、その裏で資金は底を尽きようとしていた。

 そんな時にできたのが、この裏口入学だった。


 裏口入学者には入学金として多額の金銭が必要となり、年の学費は数千万以上もかかるのだが、その凄まじいブランド力もあってか入学者は殺到していた。

 勿論、その者達に才覚の有無は必要無い。


 結果、その人間達が資金源となり、成り立っているのがこの学園の実態だった。




 ◆◆◆




 そんな凄い学園に何故か僕は入れていた。


 一応言っておくけど、裏口入学を使ったわけじゃないよ?


 僕は次世代の未来を担うに相応しい天才だと認められたのだ。


 いや、正確にはまだ入れてないし認められてもいない、

 所謂仮入学生という身分なんだけどね。


 でもこれは時間の問題だ。

 スカウトを受けた時点で僕はもう認められたも同然なのだ。


 ――僕の生まれた家は特別血統が凄いとか、そういう物では全くなかった。

 特別金持ちでも無ければ、致命的なまでの貧乏でも無い。

 ごく普通の平凡な家庭。


 ただ、そこらの一般市民と違う所があるとすれば、人よりもちょっと顔が良く、人よりもちょっと違った眼を持って生まれたことだった。

 そう、生まれた時から僕の眼にはオーラが見えていたのだ。


 そんなある日、僕は自身の課題であるオーラの研究をする為、大量の魔獣を集めていた事があった。


 その時僕は、目の前の魔獣に精一杯で周りの事なんて気にしていなかったから分からなかったけど、どうやら僕の実験をスカウトマンが一部始終見ていたらしいのだ。


 当時の僕を俯瞰して見れば、子供でありながら魔獣を従えている奇妙な少年と言った所だろう。

 傍から見れば、近付きたくない人間ナンバーワンにもなりうるが、大陸最高峰の学園を誇るスカウトマンからすれば、それは興味の対象にすぎない。


 そんなスカウトマンは僕に一言。

『NRPへの参加を条件に学園の入学を認めます』と。


 《Newニュー Researchリサーチ Presenプレゼンテtationーション

 通称NRPは、学園が主催する一つのイベントであり、天才が自分の研究成果を教授や機関などに向けて発表する場である。

 文明開花の基本は、このNRPを通して行われる事が多い。


 勿論断る理由もなく、二つ返事で承諾した。

 そういうわけで今は仮入学生として、学園の書庫や実験室といった特定の教室のみ使用が許されているのであった。

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