第3話

 ――それから約三年ほどの年月が経ち、この世界のことを知るべく僕は数々の書物を読み漁ってきた。


 元々家に置かれていた本は全て読み尽くしたほどに。


 文字が読めない――かと思えばそうでもなく、これも本能から来るものなのか意外にも、特に練習をする必要もなくすんなり読み書きできた。便利。


 なのだが、このオーラについての書物は全く見当たらなかったのである。


 当然、父にオーラの事を尋ねても、返答は『何だそれは?』とか『そんな物は知らん!』とか、不明の一点張りでろくに話が通じなかった。

 母も父と同様、頭にハテナを浮かべてあたふたするだけで得るものは無かった。


 オーラが駄目なら次に気になるのはこの世界の歴史だ。

 過去にどんな事があったのか、差別やら戦争やら……。

 この世界に生まれた以上、当然僕にも知る権利がある。


 という事で家の書架を荒らしまくったが、生憎僕の両親はその手の話に全く興味が無かった為、ろくに調べる事もできなかった。

 一応これに関しても同じく両親に尋ねたけど『知らん知らん』の一つ覚え。


 我が家に置かれていた殆どの書物が図鑑や料理本のような取るに足らない物だった。


 試しに料理本をパラパラと捲ってみると、見た事のある食品が沢山並んでいた。


 食に関しては、どこの世界でも共通なのかな?

 と思いつつ、著者を確認。

 ウォー・ヘディングスと表記されていた。


 勿論、見た事も聞いた事もない。

 凄い人もいたもんだ。


 さてそんな感じだが、一先ず歴史の事は後回しにする。


 今の課題はこのオーラだ。

 オーラのことを調べてれば何かしらの歴史が分かるかもしれないしね。


 あ、そうそう、これは歴史とかオーラとは関係ないんだけど、父の顔面の傷跡に関してだ。


 あの鉤爪の傷跡だが、父が言うには魔獣にやられたらしいのだ。

 魔獣とは……魔獣とは…………うん。魔獣だ。

 角が生えてたり、牙が剥き出てたりしてるような在り来りなやつだ。

 それ以上でも以下でもない。


 魔獣――その言葉が出てきた時、僕の胸は昂っていた。

 当然だ。魔獣なんて普通に生きてたら絶対に聞かないような単語なのだから。

 この『魔』という字が非常に中二心を擽るのだ。


 ウハーッ!


 だが父はこうも言っていた。

 傷をつけたその魔獣は、普段は人に危害を加えないような大人しいやつらしく、父は若気の至りでその魔獣をおちょくってたら攻撃されたんだって。


 何と言うか……情けなくて笑えるね。

 いや笑えねぇか。ハハ。


 それと、この世界の文化は意外にも結構発展していた。

 何でも天才を集めて育成している教育機関が存在するとからしく、その人達のおかげで世界はより良い方向にどんどん発展しているらしい。


 とは言ったものの、テレビとかスマートフォンなどは当然だが存在していなかった。

 でも、電子レンジとか冷蔵庫とかのような家電製品は存在していたので苦労はしなさそうだった。

 他にも電話のような通信機もあるらしいのだが、これらのような物は高価な物とされ、上流階級の者達にしか扱われていないのだそう。


 高価な物に対して母は文句を垂れていたが……。

 まぁ、何はともあれ安心だ。


 俗に言うゆとりと呼ばれていた僕にとって、江戸時代のような環境は耐え難い。

 少しでも生活を楽にできる物が存在しているのはある種の救いと言えるだろう。


 いやー、にしても僕は本当に運が良いよ!!


 娯楽の面に関しては、当分はオーラが楽しませてくれるだろう。

 食も私生活も前世と何ら遜色ない。

 これを運がいいと言わずになんと言おうか。


 前世の時とは大違い!!最高かよ異世界!!




 ◆◆◆




 顔が整い始めて、自力で歩けるようにもなった。


 父と母は生まれた時から分かっていたが、やはり美形だ。


 それはもう、道を通れば誰もが振り返って二度見する程に。

 家族揃って遠出した時なんかは、夫婦だと言うのにも関わらず二人揃ってナンパされてたからね。

 驚きだよほんと。


 そんな親の元に生まれた僕も当然……。

 ムフフ。まだ成長段階だから楽しみはこれからで……。


 でも、何かを持った人間は別の何かで必ず欠点がある。

 天は二物を与えずと云うやつで。


 それは父と母も同様で、二人とも学が浅かった。

 オーラは勿論、歴史の事さえも分からなかったのは完全に予想外だった。


 親が親なら子も子という言葉がある。

 これは親と子は善悪あれ、似てしまうという事だ。


 という事はだ。


 僕も親と似てしまうように、学力の面で怪しくなるのか……と思い俯いていたが、幸運なことに僕には前世で培った知識があった。


 今まで、勉強はして来たものの学生の僕にとってはそれを使う機会なんて試験とかでしか無かったから、あまり意味を感じていなかったのだが、その努力が今この時にして報われたのだ。


 つまりはそういう事なのだ。


 生まれ持った容姿+前世で培った学+よく分からないけどオーラが見えるこの眼を特殊能力と置き換えて導き出される答えは……。


 ズバリ主人公!!

 完璧すぎる式……ッ!!


 そう、この世界でならもしかしたら僕は憧れだった主人公になれるかもしれないのだ。

 トンビが鷹を産むようにね。


 ……何て未来に対する期待を熱く語ったところで、現状この世界が謎のままなのは変わらないんだけど。


 正直オーラが見えたから何だって話だし、そもそもこのオーラが本当に僕だけにしか見えていないのかどうかも分からない。

 もしかしたら、何万分の一とかの確率で見える人がいるかもしれない。


 まだまだ不明な点が多すぎるこの世界の歴史とオーラ。


 生まれてから三年という短い時間しか経っていない僕にとって、謎は深まる一方だった。


 だがしかし、どれだけ謎が増えても、何も行動を起こさない理由にはならない。


 トンビから産まれた子供は紛れもなくトンビだが、鷹に進化する事はできる。

 行動をして経験を積むのだ。

 例えそれが、未知の道だとしても。


 取り敢えず今は、このオーラの研究と解析に力を入れる事にした。

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