第2話
特徴的な銀の冠と短く切った黒い髪。
整いすぎるその顔は我様と同じく美人だが。表情は固く、氷のように張り詰めている。
首から下は洒落っ気のない旅人の服を来ているが、それでもスタイルの良さは隠せていないようだ。
強さと美しさを兼ね備えた、完璧超人こと勇者リオ。
魔王である我様の天敵が今、目の前にいた。
「どうして、ボクの名前を?」
「え、はっ…!それはぁ、その」
勇者登場に呆けていると、思わぬ問いを投げられ我様は狼狽える。
ずっと魔法の水晶で盗撮してました!とか言えるわけないだろ!
「それはもちろん!あなたが勇者様ですから!」
「へ?」
「勇者様のご活躍は旅の最中に沢山聞きますからねぇ、知ってて当たり前じゃないですか!」
リルキスが我様の前に出ると、作った笑顔で助け舟を出す。
おお、流石は魔王軍の参謀…頭がきれるな!
「ああ、なるほどそうだったんですね」
「しかし、勇者様がこの街にいると聞いてやってきましたが…まさかこんな早くに会えるとは!」
「実を言いますと、わたくしの隣にいる友人が勇者様の根っからのファンでして〜♪」
「へぇ」
「んなっ!?」
な、なにを言い出すんだこの参謀はぁ!?
リルキスはしれっと我様の後ろへまわり、背中を押してリオの方へと押し付けてくる。
こいつ、我様を売ろうとしてるだろ!
「ほら♪自己紹介してくださいよ♪勇者様に恋してるんですよねぇ?」
「は、はぁっ!?お、おま…!」
恋してるわけないだろ!?
勝手なこと言って、勇者が勘違い起こしたらどうすんだお前!!?ニタニタ笑顔で適当なこと言うなぁ!
「こ、恋?君が?」
「あ、あーいやその、ファンとか恋とかそうじゃ………って」
いや、なんだ…我様の見間違いならそれでいいんだが。
リオのやつ、なんか急にもじもじし始めてないか?
ちょっと頬が赤いし…視線が熱っぽいんだが?いや、我様の見間違いの可能性があるんだけどな!見間違いであってほしいけど!
「…その、君の名前を教えてくれないかな?」
「あ、と………アトレアだ」
「アトレア…アトレア!うん、うん…」
勇者に迫られ、我様は名前を小さく吐いた。
だが向こうの耳はしっかりと名前を拾ったようで、リオは我様の名前を反芻するようになんども繰り返すと、すまし顔が少し和らいだ気がした。
「アトレア…しっかりと覚えたよ」
「べ、別に覚えなくてもいいn「ではでは勇者さま!自己紹介は済んだようなのでわたくしは街を探索しようと思ってます!旅の最中申し訳ありませんがぁ…少ぉしの間、アトレアと遊んでてください♪」
「は?お前何言って…!」
「それではサヨナラ〜♪」
バビュンと空気に紛れるみたいにリルキスはこの場から消える。
我様の静止も聞かずに、置いてけぼりになった我様の横にはリオがいた…。
冷や汗が、止まらないんだが…!
やれというのか!?ハニトラを!
我様が誘惑なんかできると思ってるのか!?できるわけないだろうが!
「…っ、あーとリオ…さん?連れがああは言ってたけど、別にリオさんが嫌なら我様は…」
「構わない…」
「へ?」
ひと…と我様の手に優しい感触が添えられる。
グローブを外した勇者の手は、思いのほか綺麗で…ほっそりとした白い指は彫刻のようだ。
そんな指が、優しさがありながらも絶対に離さないと言わんが如く我様の手に絡みついている…。
あのぉ…勇者さん?
リオの目線に我様は合わせる。
身長差はさほどない、黒い瞳は我様を捉えて離さない…。
「構わない…ボクは君と、アトレアと一緒にいたい」
◇
どーしてこうなった。
リルキス逃亡の後、我様とリオは近くにあったカフェにきていた。
際どい踊り子の女と勇者のお二人様セット…店員は困惑しつつも案内したのは四人入れそうな広い席。
突然、この場合は向かい合う形で座るのがセオリーなのだが……。
なぜ…。
「これ、隣に座る必要あった?」
「…その、君と一緒にいたいからかな」
「お、お冷です〜…」
ほらみろ、店員がドン引きしてるだろ!?
ちょっと視線が痛くていたたまれない気持ちになったわ!
…しかし、さっきから勇者はこんな感じでいつものすまし顔をキープしつつも様子が変だ。
やたらひっつきたがろうとするし、我様が見てきたリオが目の前にいるというのに、リオらしくない。
「あの、アトレアはボクのファンってホント?」
「まぁ、ホント…ウン、リオさんの噂はよく届くからね」
部下が悲報として持ってきてくれるからね、うん。
「じゃ、じゃあボクのどんなところがいいの?」
「ど、どんなところって…まぁ、強いていうなら我様よりすごいからかな」
「ボクが、アトレアより?」
「そ、力も知識も誰にも負けないと思ってたけど、上には上がいると思い知らされたというか…逆によくそこまで辿り着いたなって、賞賛と尊敬の念を抱くほどと言うべきかな」
まぁ、我様の率直な賞賛だ。
変に取り繕うより、正直に言ったほうがいい。
だが魔王が勇者を褒めるとは、いかなものだろう…。
「…だが、我様だって負けるつもりはないから努力は怠らないがな!…って、どうかしたのか?」
「…その、あまりない解答だったからつい驚いて」
鳩が豆鉄砲をくらったみたいな顔をしていたリオは、数秒ほど我様を見た後…その唇がわずかに緩んだ気がした。
「あ、あの!もう一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「ん?どんなこと?」
「ボクに恋してるってほんと?」
……これは、どう答えたらいいんだぁ。
否定するのもあれだしさ、いやそもそも我様は勇者を籠絡するために来たわけであるし…肯定するべき……。
いやでも、こいうのは変な回答したら後を引きそうな気がして……いや、だが。
「…うん、我様はリオが好きだ」
我様は…魔王として、ハニトラを成し遂げてみせる。
※
ハニートラップは次回からです。
どうも久々の連続投稿です。
やはりプロットが出来上がってない状況での投稿なので、ややキャラにブレがあり語彙もちょっとおかしいですね。
読者に生半可なものをお出しするのはどうかと思う反面、今は書き続けて以前の勘を取り戻すべきだと思うのでしばしお付き合いください。
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