僕へ

僕へ

昔読んでいた絵本たちにはいつもヒーローが出てきた。

主人公の良き理解者であり、味方であり、時には叱ってくれるヒーロー。いつも主人公の周りにはヒーローがいた。そんな世界で主人公は生きることが楽しいと、面白いと、希望があると伝えていた気がする。


その影響か僕は僕の周りにもヒーローがいると思い込んでいた。僕のして欲しいことを汲み取り僕のして欲しいとおりに行動をし、欲しい言葉をかけてくれる。そんなヒーローが。そして世界は希望に満ち溢れていると信じていた。


実際はそんな人いるわけが無い。僕の考えていることを全て理解できる人なんていない。それでも僕は求めてしまう。かつて絵本の中で見かけたヒーローたちの存在を。僕の考えを理解し、僕のための行動をしてくれる人を。エスパーを。


ようやく僕は気づいた。僕が求めているヒーローは居ないと。僕が求めている人はいないと。そして、世界が希望で満ち溢れていないことに気づいてしまった。それから僕は閉じこもった。


僕の世界はとても平和だ。たくさんの人が笑い合い、楽しく過ごしている。喧嘩をしても仲直りをする。自分の悪かったことを言い合ってそのあとまた笑い合う。誰かが間違ったことをしてしまっても道を正してくれる人がいる。叱ってくれる人がいる。とても平和な世界。


僕のいる平和な世界は別の世界を知っているからこそ存在している。作られた世界。自覚はしている。


僕がいるのはどの世界?平和な世界?それとも……

わかってる。でもきっと区別はついてない。だって本当の世界でヒーローを探してるから。


僕はいつも他の人に必要以上の期待をしてしまう。僕の考えてくれることを理解してくれるはずだと、僕の望むように行動してくれるだろうと。でもそんなことをできる人がいるはずがない。エスパーでは無いのだから。だから君は僕のヒーローなんかじゃない。僕の思い描く世界の住民じゃない。だから君は僕の人生に必要ない。僕は自分勝手だ。


僕は僕が自分勝手だと自覚している。僕は僕が作った世界に閉じこもっていると自覚している。世の中は僕の思い描いている世界では無いことをわかっている。それでも僕は自分勝手なままだ。これからも僕は僕の世界に閉じ込められたままなのだろうか。


どうやら僕は周りにばかり期待して僕を変えようとはしていないようだ。それもきっと僕の世界にとじこもっているからなのだろう。絵本の世界では主人公が変わるきっかけにはいつもヒーローがいた。だから僕の元にもヒーローが来れば変われるのだろうと。そう思っているのだろう。そんなヒーローが居ないことをわかっているのに。


僕へ

変わろうとしてるなら

ちゃんと見てるから


辛くなったら僕のこと思い出してね

ヒーローにはなれないけど


見届けるから

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