第参幕 伝説の終焉
第23話
灯りなどない幹の中だというのに、そこは仄かに発光していた。
「
年若い十代の少女とは思えぬほど妖艶な笑み。
「やっと手に入れた。やっと太郎兵衛さまが帰ってきた! これで村の連中を見返すことが出来る。気が触れた哀れなおなごと馬鹿にした、あいつらを!」
その笑い声と声には紛れもなく狂気が含まれていた。ここはあの白藤の中ではあるが、時空がねじ曲げられている。普通の人間には視認できない、特殊な空間で少女――お琴は太郎兵衛こと、新藤亘を抱きしめて愉悦に浸っていた。誰にも見付かるはずのない、二人だけの空間。肉体はやがて朽ち果てていくが、魂だけの存在になればこちらのものだ。永遠に二人の魂は、この閉じられた空間で存在する。転生しているとはいえ、魂は同じ。すぐにお琴と共に過ごした時のことを思い出すだろう。
「太郎兵衛さま、ゆるりと思い出させてあげます。ええ、時間は有り余るほどあるのですから……そう、永遠と言えるほどに」
にいいっと口の両端が持ち上がり、
「やっと帰ってきてくれた。……ずっと待っていて良かった。もう、誰にも渡さない、何処へも行かせない」
くっくっくと狂気に満ちた笑い声は、誰の耳にも届かない。
「最近、ちょろちょろと蝿がうろつきだしたようじゃな。鬱陶しい蝿は、早めに追い払わねば」
ここ数日、結界の役目をしている白藤の周りに霊的な目がうろついていることを、敏感に感じ取っている。
「これ以上まとわりつかれるのも、業腹じゃ。ええい、せっかく太郎兵衛さまが帰ってきたというに」
お琴はそっと太郎兵衛から離れると、背後の幹に手を触れる。すると幹に穴が開き、洞が出現した。彼女はそこから外へ出ると、相変わらず風に揺れている白い花房を撫でた。
「邪魔者は容赦なく葬り去れ。私と太郎兵衛さまの邪魔をする輩なぞに、遠慮はいらぬ」
お琴の声に反応するかのように、花房は一斉に動く。満足げにそれを眺めたお琴は、再び洞の中に姿を消した。
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