第22話
『こっちで視た白藤と雪、そして少女。伝説にも出てくるキーワードと合致する点が多いわね。間違いないと思うわ、わたくしも』
母もそう思うということは、馨の推測にほぼ間違いはないのだろう。ただひとつ問題があるとすれば、茉莉が付いてくることだろう。その懸念も伝えたが、あっさりと「諦めなさい」のひと言で片付けられた。
『何度も言うようだけど、依頼人の中には強引だったり人の話を聞かないケースも多いの。こればかりは場数を踏んで、人あしらいの
「どうしてですか?」
その手があったかと喜んだのも束の間、母の難しい顔に馨は問い返さずにはいられない。己が守護する人間が、危険な目に遭うことを是とする守護霊など、いないと思うからだ。
『守護霊は基本的に見守ることが役目。その人間が危険な目にあったときに力を発揮して、己の霊力が及ぶ範囲内で助けるだけ。池園さんの守護霊は割と力の強い方だけど、婚約者を見つけるんだって息巻いている彼女を、止められるほどの力はないわね』
そんな、と馨は脱力する。いいことを聞いたと思っただけに、落胆も大きい。
『考えてもみなさいな。池園さんや新藤さんの守護霊では太刀打ちできないほどの悪霊が、今回の黒幕なのよ? だから池園家の守護霊たちも、うちに助けを求めるよう動いた。池園さんが付いていくということは、守護霊もそれを望んでいるということね。貴方にも、久遠家代々の守護霊が護っているのだから安心しなさいな。あら、お父さんがお風呂から出てきたわ。それじゃ、しっかりねー』
「ちょっと母さん、母さん!」
相変わらず一方的に念話を切られ、小萩も桔梗も姿を消してしまった。父が家に居ると父が最優先で、他のことは全て後回しになることを失念していたのは、馨の失策だ。溜息を吐きつつ、自分は女難の相でもあるのだろうかと、思わず真剣に鏡に見入ってしまった。
天気予報をチェックすると、晴れマークが出ている。出来れば午前の、陽の力が強い時間帯に白藤を見てみたい。ボストンバッグから更にセカンドバッグを取りだし、中に入っている護符や
「小萩、明日は何が起こるか判らないから、頼むね」
姿を消していた式神の小萩が姿を顕し、鏡越しに頷いた。念のためにもう一体、童子の式神である
家を嗣いだとはいえ、今回が初仕事だ。正直言って己の力が何処まで通用するのか、不安でしかない。だが、代々の当主も初仕事は皆、こうして不安とプレッシャーに押し潰されそうだったのだろう。それをはね除け、築き上げてきた信頼を損なわぬようにしてきた。あの自信に満ち溢れた母親だって、若かりし頃に祖父から家督を譲られたときは、今の自分と同じ境地だったろう。
『場数をこなすしかないのよ』
女だからという理由で、昔は軽視されたことも多々あっただろう。ぐうの音も出せないほどに完璧に仕事をやり遂げてきた母は、やはり偉大なのだと改めて思う。その息子は期待外れだと後ろ指を指されぬよう、気張るしかない。隣の寝室へ移動しようとすると、小萩は部屋を出て行った。式神の動向は追えるので、彼女がどこに行ったのか思念を飛ばしてみると、茉莉の部屋の前にいた。どうやら茉莉の護衛をするらしい。鐡は傍に残り、寝室まで一緒に付いてきた。
(明日は何が起きるか、本当に判らない。少しでも身体を休めて、体力を温存しておこう)
そんなことを考えながら、馨はいつしか深い眠りに落ちていった。
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