第13話

 霊能者はよく『視える』というが、これは人によって様々でハッキリと脳内に映像が浮かぶ者もいれば、悪しきモノが黒い影で見えたりと能力の差で変わってくる。久遠家の二人は現実世界のように、視覚でこの世に存在しない者たちを視たりその声を聞いたり出来る。だが、彼らの能力をもってしてもハッキリ掴めない写真に潜む何かは、相当に強い霊力を持っている。


 下手をすれば依頼を受けたはいいが、手に負えなくて逃げることになるかもしれない。そんなことになれば家名は地に落ち、二度と依頼は来ない。歴代当主の顔に泥を塗ることだけは何としても避けたい二人は、掴めそうで掴めない蜃気楼のような何かを見極めようとする。


(あっ!)


 二人が同時に、しかし別々のイメージを視た。ほんの二、三秒ほどで消えてしまった僅かな情報だったが、それでも何らかの手掛かりにはなる。


「視えましたか」

「何か視えたようね」


 霊視を開始して約二時間。火の傍にいたことと、極限まで集中していたために、二人とも全身に汗をかいている。どうやら互いに何か視えたという感覚があったらしく、目を合わせると頷き合った。部屋の電気を母が点け、息子は篝火かがりびを消すと写真を手にし、部屋を出た。二人は交代で風呂に入って汗を流すと、打ち合わせたわけではないのに最初の座敷に戻ってきた。母は 緑青ろくしょう地に桟橋と流水模様、そして芍薬をあしらった浴衣を着て湯上がりの熱を冷ましている。息子は紺色のパジャマを着ており、いつでも寝られるようにしている。母が自分の式神である桔梗ききょう(年格好は小萩と同じだが、着ている着物が明るい紫の桔梗色)を使って茶を運ばせると、視えたことについて話し出した。


「わたくしが視えたのは、白だったわ。一面の白い色。その中に混じって視えたのは、田畑だった」

「僕が視えたのは、十代半ばの少女でした。純朴そうな顔立ちの子で、野良着を着ていましたね。それと、母さんが視た白は、雪と白藤ですよ」

「雪と白藤?」


 季節が合わないではないかと彼女は思い、眉間に皺を寄せて写真を手に取った。駐車場に藤など見当たらない。一体なにを視たのだろうかと、母は息子を見やる。


「ここには写っていませんが、近くにあるような気配がするんですよ。現場に行かないと、判りませんね」


 肩をすくめて馨が言うと、確かにそうねと母も同意した。


 何にせよ現場を見てみないことには、何も判らない。幸い軍資金は既に貰っている。早く解決しないと、今秋の結婚式にも間に合わなくなる。宿が決まり次第、九頭竜湖ダムに行くことを決めた馨は、自室に戻るとネットで宿を検索する。ゴールデンウイークから外れているせいか、すんなりと大野市内の宿で一週間の予約が取れた。しっかりと睡眠を取った馨は翌朝、電車を乗り継いで大野市へ向かい予約した宿に着くとチェックインを済ませ、一週間分の宿代を先払いした。そこまで長逗留するか判らないが、解決したらのんびりと骨休めをするのもいい。母親から離れてひとりの青年として時間を過ごすのも悪くない。

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