第11話
内容に目を通し
「二通とも署名だけお願いします」
と言われるがまま口頭での契約内容と相違ないことを確認し、茉莉は署名すると馨に差し出した。彼も終えると何故か先代が手を伸ばし、契約書に署名をする。
「万が一にも当主が失敗した場合には、補償としてわたくしが代理で解決に当たらせて頂きます」
契約が無事終了したために、茉莉は先程からずっと気になっていることを、口の端に掛けた。
「失礼ですけれど、親子でお名前が同じなのですね」
一瞬沈黙が下りたが、先代が答えを寄越してくれる。
「
「一旦隠した本名は、終生名乗ることを許されません。だから母も死ぬまで薫さんと呼ぶか、先代と呼ばねばならないのです」
馨は続けて、もし存命の内に本名を他人に呼ばれてしまうと、歴代の当主が封じてきたモノたちが蘇ってしまうと説明した。こうして徹底的に世俗との交流を絶ち、近所付き合いも出来ないような山奥に引っ込みひっそり暮らしている。池園家のように古い付き合いのある家や、政財界の大物などは久遠家の事情を知っているために、何かあれば極秘で依頼をしてくる。
ちなみに住み込みの家政婦をしている
久遠家の人間は当主以外の男は政財界との人脈作り、女は旧知の家との繋がりを絶たぬよう動いている。馨に兄弟姉妹がいないため、次世代の人脈作りは千佐子の家が一時的に請け負っている。彼女の息子夫婦は現在、関西や九州方面で活動している。このように久遠家と住み込みで働く
この時代になっても、生まれたときから
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