切り抜き動画その2

 今から数年後、もしくは令和10年。日本は、様々な犯罪から自国を守るために様々な手段を講じてきた。


 その中のひとつに、ARガジェットと言う拡張現実を利用したガジェットがあったのである。


 それこそ古今東西なホビーアニメを思わせるようなギミックは、キッズたちやZ世代にもブレイクし、様々な作品が生まれることとなった。


 一方で、それをビジネスに利用しようという企業も複数いるだろう。


 ゲーム配信系の企業や、ここ最近は国際大会も開催されているイースポーツ分野……そうしたジャンルでもARガジェットは注目されていた。


 しかし、その技術は別の意味でも諸刃の剣であり……その技術を転用し、悪用した世界征服……そうしたことを考えるような人物も少なくない。


 だからこそ、一時期はリリース中止も考えられ、数度の延期があった末の流通だったのだ。


 彼らは願ったのである。このARガジェットが世界平和に利用される、その時を。



【特報】


 やはりというか、男性ナレーションの秋葉原の光景が映し出された後には黒バックに文字と言うテロップ。


 今度は、何が展開されるというのか?



「なるほど、そういう事ね。理解した」


 埼玉県内某所、とある家……そこで今までの速報動画を見ていたひとりの女性がいる。


 自室のデスクに置かれたノートパソコン、周囲は明らかにパソコンとは無関係な雑誌も若干は散乱している様子。


 飲み物は置かれていないので、間違ってこぼすようなことはないだろうが……周囲の光景を見ると、気のせいとは思うだろう。


 本棚に入っているのはスポーツ系の雑誌で、その半数以上はパルクールに関係したものである。


 それだけでなく、ベッド、テレビの置かれたラック以外の家具は置かれていないのでは……と錯覚するかもしれない。


「あのガジェットの正体は気になるけど、今は……」


 彼女の名はシギラリア、いわゆるハンドルネームだ。本名ではない。


 その一方で、リアルパルクールでは有名人でもある。優勝の回数は少ないものの、上位には入るという意味で、だが。


 彼女が次に視線を合わせたカレンダーは7月となっていた。つまり、このタイミングでは忍者構文に関わる事件が発生したタイミングだろうか?


 しばらくして、彼女は何かの準備を行い、そのまま出かけることに。普段はジャージ姿で近場の買い物しかしないような彼女だが……。



「例の物は持ってきたか?」


 草加駅の近辺、ARゲームのフィールドらしき場所で男性グループが、トランクケースを引きずっている人物に対し、何かを要求する。


 もう一人……トランクケースを持ってきた人物の方は、この場所には不釣り合いとも言えるような外見で、ファンタジー世界の黒騎士を連想させるだろう。


 しかし、草加市ではコスプレで街中を歩く行為も一部エリアで認められており、それを踏まえると不釣り合いと言うわけでもなかった。


 男性グループの方は、見た目こそは闇バイトを連想させるような……周囲に知り合いは一切いないという感じではある。


 それに対し、黒騎士の方が取った行動……。


『怪しい人物からトランクケースを奪い取ったら、まさかのこういう展開になるとは……ね』


 黒騎士は即座にトランクケースを開く。


 開き方はリモートキー方式で、トランクケースを回収するグループが所持、それを引き渡し後に開けるという算段だったらしい。


 しかし、黒騎士はリモートキーを持っていないはずだ。それなのに、開けられるのはどういうことか?


「空っぽ? 貴様、ケースの中身を横取りしたな?」


 リモートキーを持っていた別の男性が、黒騎士に近づこうとする。キーを持っていないはずの黒騎士が、どうしてケースを開けられたのか?


 もちろん、この闇バイトグループはトランクケースの中身を知っている。だからこそ、このリアクションなのだが。


 しかし、彼は気づくべきだった。黒騎士の声は男性なのだが、この声は明らかにボイチェンだ。つまり……。


『横取りとは人聞きが悪い……』


 この台詞の次の瞬間、黒騎士の姿は一人の女性に変わっていた。つまり、黒騎士はアバターだったのである。気づかない方も悪いのだが。


 リアルでもアバターを使用している人物もいるという話こそはあったが、まさかの展開でもある。


「この中身は正規に欲しがっているユーザーにこそ、わたるべき物。それが闇バイトや転売ヤーに渡るなんて……言語道断!」


 その正体は、ARゲーム用のインナースーツ姿のシギラリアだった。


 それに加え、彼女はARゲーム用の特殊なヘルメット型バイザーを着用し、そこでボイチェンしていたこととなる。


「貴様が噂のテンバイヤ・ハンターとでもいうのか?」


 彼らは、とある書籍化された小説に登場する転売ヤーを狩る存在、テンバイヤ・ハンターのワードを出した。


 しかし、シギラリアの反応は何もない。むしろ、無反応と言ってもいいので……違うだろう。


「それこそ、フィクションでしょう? 転売ヤーに目を付けているのは警察……それは当たり前の認識じゃない?」


 まさかのセリフがシギラリアから出たことで、一部の闇バイトの人物が周囲を見回すと、まさかの展開が待っていた。


 取り囲んでいるのは、本当に警察だったからだ。パトカーも数台、更に言えば警察の武装も実弾拳銃を持っている警官もいる。


 闇バイトとはいえ、ある程度の武装をしているのは当然と考えた警察は、可能な範囲で武装をして闇バイトの取引場所へ向かっていたのだ。


 何故、ここまで情報が早かった理由は、後述する。



「……警察も、さすがに闇バイト関連だと動くのかな」


 メットを外し、別の場所からメガネを取り出してかけたシギラリアは、警察によって逮捕される闇バイトのメンバーを見て思う。


 場所が場所だけにギャラリーはいないのだが、マスコミらしき人物は散見されるだろう。どこから情報が漏れたのか?


 それは彼女が気にするような案件ではない。しばらくして、何かの着信音が鳴ったからである。


【ミッション完了】


 取り出したのは、スマホではない。ARゲームでガジェットに接続して使うARゲーム用の端末だった。


 そこにはミッション完了を示すメッセージと、報酬が振り込まれたことが記載されている。


(元々はゲームだったはずなのに、ここまでになるとは……)


 彼女は、とあるパルクールを題材としたゲームをプレイしていた、それだけである。


 そのミッションが『転売ヤーのルートを断て』と言うものだった。


 実際、あの中に入っていたのはトレーディングカードゲーム……そういう事なのだろう。


 このカードゲームは、色々な意味でも転売ヤーに狙われ、小説サイトではこの転売ヤーを題材にした作品も発表されている。


 そのうちのひとつが『テンバイヤ・ハンター』と言う作品で、こちらは書籍化もされた様子。アニメ化もされるらしいが……。


(ロードオブパルクール、これが……)


 シギラリアのプレイしていたゲーム、そのタイトルは『ロードオブパルクール』である。


 つまり、一連の事件はゲーム上のフィクションではなく、現実になったという事にもなるだろう。


 しかし、何故にフィクションのゲーム作品の事件が現実で発生するのか、と言う謎はあるかもしれない。



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