第4話
会場内に入り、メンバー達と控室までの通路を歩いていると、自販機の前に居る人影に気が付いた。
この時間にこの場所にいるという事は、会場スタッフさんかな?
軽く挨拶する事にした。
「どぉも~、今日はよろしくお願いしま~す」
そう声を掛けると、その人物は何の返事も無く、怪訝そうな表情で俺達を見つめていた。
よく見るとかなり若い。
そこで察しはついた。
「あれ?スタッフの人じゃない?」
念の為、おどけた様子で尋ねてみた。
が、おそらく今日の前座である高校生バンドのメンバーだろう。
「あっっはい!!今日一緒にライブさせていただくコムのベースです。今日はよっ、よろしくお願いします」
やっぱりか。
しかしまぁ、分かりやすく緊張している感じが初々しい。
もっとも、俺が高校生の頃にはこんな場所でライブ出来る機会は無かったが……。
他のメンバー達は特に気に留めるでもなく、俺を置いて控室へ向かっていった。
だが、俺はそこで呆けている少年を見て、少し気になったのだ。
彼等は何者なのか?と……。
「いやいや、そんなに緊張しなくてもいいよ。高校生バンドってのが君達なの?」
「えっ?あっ、はい。そうだと思います……」
”そうだと思います”って、それしかないだろ?
っと、思いながら、相当緊張してるんだな。という事は伝わってきた。
「そうかぁ、やっぱり若いなぁ。見た目ですぐ分かる」
「あっ……どうも有り難うございます」
(ん~~。まぁ、一応は誉め言葉だったのか?)
「でも凄いな、高校生で目を付けられるなんて」
「目を付けられる?って、どういうことですか?」
(そのまんまなんだけど)
「ん?ウチのマネージャーが面白そうだからって……。で、今回呼んだって聞いてるんだけど?」
「えっ?面白そうってどういうことですか?」
「はぁ?……まぁ、商品になりそうって事だろうなぁ?」
なんだか調子が狂う。
もっとガツガツした感じの子達かと思っていたんだけれど……。
この子はどうにも自分の状況が飲み込めていない気がする。
「あっ、やっぱりそういう事ですか……。何で僕等なんかが?」
「知らないって。むしろ俺のほうが知りたいよ。ただ、現役高校生バンドなんて、別段珍しくも無いから、他に何かウリがあるんだろ?」
「ウリ?ですか……何なんですかね?よく分からないです。正直……」
音源を聴いたことも、ライブを観たことも無い俺が言える事は無い。
だが、ここは先輩として何か良さげな事を言わなくてはいけない気もしていた。
「まぁ、自分達だとよく分からないよな。演奏が上手いとか、パフォーマンスが凄いとか、周りが観て決めることだし」
「いえいえ、自分達はそんな大したものじゃないですよ。両方とも……。大体、僕なんて楽器始めて一年経ってないですし」
「そうなの?マジですげーじゃん」
「……はい。だからこそ余計に意味が分からないんです。この状況が……」
正直、驚いた。
楽器歴もさることながら、こういう”フワッ”とした感じで、ここに居る事に。
若干の嫉妬も感じざる負えなかったが、それ以上に彼等がどんな演者なのかを本気で気になり始めた。
「まぁ、良いんじゃねえの?それでも他人が認めてくれたって事は何かあるんじゃん?自分で分かって無くてもさ。多分、考えても分かんねぇよ。他人の考えることなんて」
何も分からない以上、そんな事しか言えなかった。
ただ、そういうものだとも思っていた。
「有り難うございます。結局、よく分からないままですけど、少し気は楽になりました」
彼はそう言って頭を下げた。
大したアドバイスも出来ていないので、なんだか申し訳ない。
せめてライブ映像くらい見せて貰っておけば良かった。
「いいよいいよ、大した事は言ってねぇし。どんなバンドなのかはライブで観せて貰うから……。あっ、俺もそろそろ行かないと」
「はい、全力でやらせて頂きます」
「あっ。そうだ、名前聞いてなかった」
「コムって言います」
バンド名はさっき聞いた。
お礼の意味も兼ねて、俺が聞きたいのは――
「外人かよ?バンド名じゃなくて、君の名前」
「えっと、
「分かった。保科君ね、憶えておくよ。じゃ、また後で」
そう言って俺は控室に向かった。
想像していたキャラクターと大きく違っていた為、逆に興味を持ったのは確かだった。
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