第2話


 アルバイトを二つ掛け持ちしながら、空いた時間でバンド活動を行っていた。

 メンバーには学生もいる為、彼等に時間を合わせる事が多かった。


 そして迎えた、上京後初ライブ。

 客などまったく居ない、昼間のオーデションライブ。

 場所は老舗のライブハウス『楽屋裏』。


 このオーディションライブで店の人に認められてから、夜の時間帯のライブをブッキングされる。

 とはいえ、あくまで通過儀礼に近いもの。

 それでも、上京後初となるライブに緊張感と高揚感を抱いていた。



  ◇  ◇  ◇



 当たり障りなくオーディションライブを通過?した俺達には、夜の部のブッキングが入るようになった。

 とはいえ所詮、無名のアマチュアバンド。

 集客はメンバーそれぞれの友人がメイン。

 地元から客を呼べるほどのバンドでは無かったし、それは仕方のない事だった。


 だが、ブッキングされた対バン相手の持っている客を奪うという、地元では味わう事のなかった『バンド』としての戦いが新鮮だった。

 夢へ向かって進んでいるという実感が湧いた――


  ◇  ◇  ◇



 ブッキングされたライブになるべく多く参加し、ライブハウスの人に気に入られ、より多くの集客を持つバンドとのライブを組んで貰う。

 更には、ライバルとはいえ広い視点で見れば音楽仲間ともいえる対バン相手達とも交流を深め、横の繋がりも広めていった。


 徐々に、生活の為に必要な時間と、バンドの為に必要な時間しか取れなくなっていた。

 それで良い。むしろ、それがいいと考えていた――


 しかし、それはあくまで俺だけであり”バンド”としての……いや”メンバー”の総意では無かった。



 振り返ってみれば当たり前の事。

 普通に生活していれば当然、自由に楽しく過ごす同年代を目の当たりにする。

 そうなれば「何故、自分はバンドに縛られているような生活を送っているのか?」という疑問を持つ。


 気が付けば、一人抜け、二人抜け……と、一緒に上京してきたメンバーは誰も残っていなかった。


 要するに、他の皆にとってバンドとはそういうものだったのだ。

 強要は出来ない。


 その事実に憤りと寂しさを覚えながらも、もう、前へ進むしかなかった。

 感傷に浸る時間があるならば一歩でも前に……


 すでにオリジナルメンバーが残っていないこと、更には現メンバーが皆、俺と同じように”頂”を目指していた事もあり新たなバンド名を付けることにした。

 『SUMMIT(頂上)』と――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る