第三話 『グランドオーダー』が集まって悪巧み
家に帰ると兄ちゃんの部屋から、ガハハと下品な笑いが聞こえた。
『グランドオーダー』のメンバーが久しぶりに来てるんだね。
自分の部屋に入って鞄を机の上に置いた。
兄ちゃんの部屋からは盛りあがっているのか、騒がしい声が聞こえてきた。
僕は机に座ってノートパソコンを立ち上げて、Dチューブを見始めた。
この前のマリエンライブの切り取り動画が多いね。
みのりんも凄かったし、『サザンフルーツ』も可愛かったなあ。
僕もマリエンライブのチケットの抽選に申し込んだんだけど、受からなかったよ。
「おい、リュウジ、ちょっと」
「なによ、兄ちゃん」
「リーダーが話があるって」
うむむ、僕は『グランドオーダー』のリーダーの琴平さんがあまり好きじゃないんだよなあ。
とりあえず、兄ちゃんに付いて部屋へと行った。
六畳の兄ちゃんの部屋では『グランドオーダー』のメンバーが思い思いの格好で座って煙草を吸っていて煙い。
「おおー、来た来た、リュウジちゃーん、会いたかったぜえ、元気にしてたかあ」
「あ、はい……」
「で、リュウイチに聞いたんだけど、リュウジちゃんのクラスにさあ、『Dリンクス』のチアキが転校してきたって、本当?」
「え、ええ、そうですけど……」
なんだろう、凄く嫌な予感がする。
琴平さんの笑い方が下卑た感じになった。
「明日、枯浜の廃工場にチアキを連れて来てくれよ、で、ケロベロスの珠奪ってくれよ、なっ」
何を言ってるんだろう、この人は。
「いや、そんな事できませんよ、チアキさんとは友だちでも無いし、無理です」
琴平さんはニコニコしながら、兄ちゃんの頭を思い切り蹴り上げた。
もの凄い音がした。
「俺さあ、リュウイチに二十万の金、貸してんだよなあ」
そう言って、またニコニコしながら兄ちゃんの頭をサッカーボールのように蹴った。
どばどばと鼻血が出た。
「リュウイチからも頼め、おらっ」
兄ちゃんは畳みに額をこすりつけて土下座をした。
「リュウジ、頼む」
やめろよやめろよやめろよっ。
そんな事するなよ。
知らない女子を廃工場に連れてなんか行けないよ。
なんて言えば良いんだよ。
僕とチアキは友だちでも何でも無いんだよ。
「なあに、大した事はしねえからさ、チアキちゃんを人質に、レア装備を少し貰おうと思ってさあ、知ってるか、タカシの持ってる『暁』なあ、一階ロビーの買い取りカウンターで三億で売れるそうなんだよ。三億だよ三億。金をみんなで分配してよう、幸せになろうよリュウジちゃんよお。上手くいったら、お前にも百万やるからさあ、明日の放課後、チアキを廃工場に連れてこい、それだけで良い」
息が荒くなった。
上手くいくはずがない。
相手は世界の『Dリンクス』だ。
絶対に、失敗する。
失敗するだけなら良いけど、チアキが怪我したり、死んだりしたら?
そんな事になったら僕のせいだ。
「リュウジ、頼む……」
鼻血を出した兄ちゃんがドブに落ちた犬の目で僕をすがるように見る。
なんで。
兄ちゃんは、なんで、こんな馬鹿の一団に参加してたんだ?
僕はどうずればいいんだ。
どうするどうする。
結局、何も決められないまま自分の部屋に戻った。
どうしようどうしよう。
警察に一報入れて動いてもらうか。
でも、そうすると兄ちゃんが……。
だが、チアキを連れて廃工場へ? そしてくつしたの珠を奪う? どうやって?
相手は現在地下三十階台、C級の配信冒険者だぞ。
僕どころか、『グランドオーダー』の誰にも捕まえる事は出来ないと思う。
どうすれば、どうすれば良いんだ。
ドヤドヤと『グランドオーダー』の奴らが家を出て行く音がした。
詰まっていた息が吐ける気がしたが、胸の奥のモヤモヤは取れない。
お父さんかお母さんに言うか?
……、だめだ、二人とも迷宮の事が良くわかって無いし、判断が出来ないだろう。
最悪「お兄ちゃんが困ってるんだからやってお上げ」と言うかもしれない。
計画に穴がありすぎる。
チアキのDスマホで誰か助けを呼ばれたらどうするのか、僕が裏切ったらどうするのか。
そういう失敗のリスクとかを全く考えないで、タカシさんの『暁』を手に入れて売ることしか考えて無い。
その後はどうするつもりなんだ。
タカシさんや、鏡子さん、泥舟さんの怒りをどうやってしのぐつもりなのか。
考えれば考えるほど、琴平さんみたいな馬鹿のやる事に巻き込まれたのが理不尽で悔しい。
ロシアの諜報組織が出来なかった事を出来ると考えるのは誇大妄想狂だろう。
ベットの中で、毛布に潜って終わりの無い思考をぐるぐるぐるぐる考えていた。
「リュウジーごはんよー」
「いらない、具合が悪いだよ」
「あら、ほんと? お兄ちゃんも転んで怪我をするし、嫌ねえ」
兄ちゃんのは転んで出来た傷ではないけど、お母さんは解らないんだろうなあ。
ああ、本当にどうしたら良いんだ……。
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