チアキの小学生生活

第二話 『グランドオーダー』が迷宮で何をやったのか

　兄ちゃんが所属する『グランドオーダー』が地下十八階で小休止を取っていると、そこへ『Dリンクス』が降りてきたそうだ。

　で、二十階のフロアボス狙いだと思ったリーダーが『グランドオーダー』先行していたのだから、先を譲れと言ったんだけど、後輩で高校生のくせに『Dリンクス』は「早く着いた者順ですから」って生意気な事を言って、先行して行ったそうなんだ。

　兄ちゃんたちは大学生のパーティで、昨日今日結成された高校生パーティにそんな事を言われて、舐められたって思ったらしいんだ。

　そこで、『Dリンクス』を『露払い』に使い、フロアボス近くで追い越す事にしたんだって。

　『露払い』とは、別パーティの後をつかず離れずにいることで魔物との戦闘無しに階数を稼ぐテクニックの事で、当然の事ながら『露払い』にされたパーティには嫌われる。

　友好パーティのレイドだったら、一戦闘ごとに前後を入れ替えるとかできるんだけど『露払い』の時は相手を利用するだけだ。

　なんでよ、って兄ちゃんに聞いてみたら、年下が凄いレア装備を持ってイキッているのが気にくわなかったそうだよ。

　この時期の『Dリンクス』はチアキが加入したぐらいの頃で、僕も自分と同じ小学生が十階越えてるのかあ、と憧れた事を覚えている。

　『Dリンクス』は『露払い』に使っても、ちっとも弱っていなかった。

　その頃の彼らの装備は、リーダーのタカシ君が『暁』と『浦波』の退魔装備、これは迷宮の物だと、まだでていない伝説級に近い物らしいよ。

　前衛の鏡子さんが『金時の籠手』という『拳闘士（グラップラー）』用の籠手、『吟遊詩人』（バード）』のみのりんはレアリュートとレア楽譜（スコア）の【スローバラード】、そしてチアキは【魔拳銃】を持つという、なんか馬鹿馬鹿しいほどのレア装備の集まり具合だった。

　これに対する『グランドオーダー』のレアなんだけど、無し、綺麗さっぱり何もない、全部コモン装備だった。

　十階の宝箱も木箱でがっかりしていたね。

　でもそんな物だろうと思う。

　パーティに一人一個ずつレア装備やレア楽譜（スコア）、レア呪文があるパーティがおかしいだろう。

　どういう【豪運】キャラが参加していればこんなにレアが集まるのかという感じなんだ。

　で、これは『グランドオーダー』のリーダーが言ってた事で、兄ちゃんは苦い顔をしてたんだけど、『Dリンクス』がオーガーのバックアタックを受けたので加勢しようとしたんだって。

　そう、加勢だよ、後からは斬り掛かって無いよ。

　でも、タカシさんに「必要ない」と断られ、チアキに拳銃で足を撃たれたらしい。

　『グランドオーダー』のリーダーは悪い人じゃないんだけど、なんか調子が良い人で、あまり信用は出来ない感じなんだよね。

　とはいえ、激怒した鏡子さんがやってきて殺される勢いだったので、『グランドオーダー』は撤退、でも、まだ『露払い』を続けて彼らを追っていた。

　そろそろ、本気で嫌がらせをしてやろう、という事になって、みのりんが呪歌の【おやすみの歌】を歌ってリザードマンを眠らせようとした所に、タカシさんを狙って『射手（アーチャー）』の池上さんが矢を撃った。

　ドカーン！

　矢はタカシさんの『浦波』に受け止められたけど、爆発矢だったので、大きな音でリザードマンが目を覚ましてしまった。

　チアキが拳銃を『グランドオーダー』に向けて撃つけど、曲がり角に隠れて当たらなかった。

　僕の兄ちゃんは前衛の戦士だから、すわ、ここで『Dリンクス』と戦いか、と思って武者震いしたらしい。

　でも、聞こえてきたのはみのりんの綺麗な綺麗な歌声だった。

「『ねーむれ～～よいこよ～～♪　おかあさんのむねのなかで～～♪　ゆめをみよ～～よ～～♪』」

「や、やべえ、『吟遊詩人（バード）』やべえっ！」

　兄ちゃんは何とか抵抗しようとするんだけど、なんだか蜂蜜みたいな甘い歌声で脳が痺れたみたいになっていて、いつの間にか寝ていたらしい。

　『Dリンクス』は『グランドオーダー』のとどめも刺さずにフロアボスに向けて降りていった。

　兄ちゃんたちが目を覚ましたら、結構時間が経っていてDスマホで確認すると、『Dリンクス』はもうフロアボスのゴブリン集団を倒していた。

　リーダーが最も怒ったのは、フロアボス報酬の宝箱が金箱、しかも装備箱で、これまで出た事の無い『長銃』だったからだ。

「お、俺達が、俺達が先に行っていたらレアだったのに！！」

　とリーダーは怒ったが、まあ、そう言う人にはレアは当たらないと思うな。

　怒った『グランドオーダー』は急いで階を降りていき、二十階の安全地帯でトイレを作っていたガーゴイルさんたちにを攻撃した。

　なんでそんな事をしたの、と聞いたが、兄ちゃんは肩を竦めて、「腹いせ」とぽつんと答えた。

　兄ちゃん達は解っていなかったが、ガーゴイルさんたちも人畜無害そうに見えて、高位の魔物で、滅茶苦茶強かった。

　階段を駆け上がって逃げたら追っては来なかった。

　フロアボスアタック用の薬品とかを使って怪我を治すハメになり、悲しくなったリーダーはカエル玉を使って一階ロビーまで帰った。

　最悪だったのは、飛ぶ鳥を落とす勢いの『Dリンクス』に喧嘩を売って、負けて、ガーゴイルに八つ当たりをして負けた姿を世界中継されていると、リーダー以下、六人のメンバー全員が解っていなかったという事だった。

　なにしろ『グランドオーダー』の配信なんか誰も見ないし、コメントも入れてくれないからね。

　全世界的に『グランドオーダー』の悪事は皆の知ることとなり、笑われ、まとめ動画が沢山作られた。

　その、まとめ動画配信料でちょっと、メンバーの懐は潤ったが、まあ、基本的に大恥で、兄ちゃんも、『グランドオーダー』のメンバーも狩りにも行かずに家でごろごろしている、今日この頃だったのだ。