チアキの小学生生活

川獺右端

第一話 僕から見たチアキ

 僕の臨海第二小学校の五年二組に峰屋チアキって子が転校してきた。

 テンガロンハットを被って黄色い迷宮ジャージでなんだか中性的で格好がいい。

 クラスの女子がキャーキャー騒いでいた。


「リュウジ、あれって」

「『Dリンクス』のチアキだな」


 彼女は駅前にある大魔王大迷宮で売り出し中の『Dリンクス』の最年少メンバーだ。

 『Dリンクス』は現在迷宮地下三十五階で高校生配信冒険者パーティとしては日本一と並んでいる。

 記録保持者の『たこ焼き一番』は先日、四十階フロアボスまで到達したけど、あえなく破れ全滅して、悪魔神殿に送られて蘇生されたので、その回の記録は更新されていないらしい。

 『たこ焼き一番』はレア装備も失い、借金を負って再起は不能と言われているね。


「峰屋さんは、ご家庭の事情でDチューバーをしてらっしゃいますが、みなさん特別扱いしないで接してあげてくださいね」


 それは無理というものだよ、スミレ先生。

 Dチューバーはみんなの憧れの的で、小学生Dチューバーなんて、たぶん彼女一人だ。


 世界各地に迷宮の門が出来て五年が経った。

 その間に世界は激変したらしい。

 僕らはわりと子供の頃から迷宮がある世代なので解らないけど、川崎駅前は昔はもっとお洒落とか、映画とかの街だったみたいだ。

 今は迷宮の門、地獄門の近くの商業施設に冒険者用品屋が立ち並ぶ冒険者の街になってしまったんだけどね。


 僕の将来の夢もDチューバーだ。

 迷宮に潜って冒険をして、がっぽり稼ぐんだ。

 迷宮にはなんでも埋まっている、富も名誉もだ。


 僕も何度か迷宮には入った事がある。

 地獄門をくぐると、ちょっとひやっとしてマッチみたいな匂いがする。

 ロビーでは角や羽の生えた綺麗な女悪魔さん達が事務とか買い取りとかをしていて、活気がある。

 階段を下りて地下二階はレストラン街だ。

 でも高いので、行った事がある人を僕はしらないな。

 兄ちゃん達でも行った事は無いらしい。


 地下三階まで下りると、見渡す限りの大草原で、ここには大した魔物が居ないので、子供で下りてこれる。

 ここから下はゴブリンが出るので、ちゃんと武装しないと死ぬ。

 よく小学生の死亡事故がある。

 去年、四年生の頃、隣のクラスの佐々木君が四階に入って死んで、悪魔神殿に死体が運ばれたのだけど、蘇生料の三百万を払えなくて、佐々木くんは死んだ。

 迷宮で死んでも誰も保証してくれないし、褒めてもくれない。

 基本的に迷宮四階以下に入るのは中学生になってから。

 と、安達家では決まっている。


 休み時間の女子のチアキへの食いつき具合が怖いぐらいだね。

 なんだか泥舟さんファンの子が居て今度紹介してって懇願しているようだ。

 あとみのりんのサインも欲しいらしい。

 チアキは苦笑しながらやんわりと断っていた。


 二時間目と三時間目の間の長い休み時間に六年生男子が三人やってきて、チアキの席を囲んだ。


「おう、お前、小学生のくせにDチューバーやっていていいのかよっ」

「迷宮に入るのは中学生って決まってんだろ」

「……」

「答えろや、おいっ!!」

「平気っすか兄貴、こいつ高レベルじゃ」

「へへ、迷宮の外では鉄砲持ってこれねえし、怖くねえよ」


 なんというガラの悪さか。

 まあ、川崎という街はこういう所だからなあ。

 チアキは懐から玉を取りだして地面にぶつけた。


 ぼわんと煙が出て、もの凄い大きな犬が現れて六年生三人を踏みつけにした。


「ぎゃー!! ケロベロス!!」

「ひ、ひきょうだぞっ!!」

「ぐえええ、兄貴~~」


 『Dリンクス』の従魔であるくつした号であった。

 そ、そんなポケモンみたいにして持っていられるのか。


「「「「くつしたく~ん!!」」」」


 クラスの女子の目がキラリンと光った。


「ねえ、チアキちゃん、もふっていいもふっていい、いいわねいいわね、じゃあえんりょなく」

「わ、わふう……」

「ふわああ、もっふもふよううっ」

「ああ、お日様の匂い」


 くつしたくんはクラス中の女子にモフられて、激しく困っていた。

 なんで女子ってモフモフな物好きかな。


 くつした号はたまらず、チアキのもっている珠に逃げ込んだ。


「ああ、くつしたくーん」

「これからこれからなのにっ」

「ああ、でもチアキちゃんに頼むといつでもくつしたくんをモフれるのね」

「あ、あはは」


 チアキは引きつった笑顔を女子に向けた。

 そして、僕と目が合った。

 彼女は肩を竦めてニッカリ笑った。


 ああ、可愛いな、って、思ってしまった。

 『Dリンクス』は兄ちゃんの仇なのに。


 僕の兄ちゃんはDチューバーをやっていて、自慢の兄貴だったんだ。

 でも、『Dリンクス』にちょっかいを掛けて反撃されて恥をかいた。

 みのりんの【お休みの歌】で、パーティ全員眠らされて。

 運良く生きていたけど、作業中のガーゴイルさんと戦って敗退するという醜態をさらして、最近元気が無いんだ。


 『グランドオーダー』それが兄ちゃんが所属しているパーティの名前だ。

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