交錯する使命

第41話

 族長のグゥアグァは頭を悩ませていた。理由は2つ。珍しく現れた外からの来訪者から奪った鞄。強大な力を感じるその鞄はとてつもない宝物だと信じていた。


 しかし、どんな手を使ってもその鞄が開かない。まるで意思を持ち拒絶されているようだ。何も得られないなんて報われない。

 この鞄が開かない事でもう1つの問題がより大きな意味を持ってしまう。


 ゴバ狩りのために戦いへ向かった戦士達の死。ゴバを狩る事も出来ず、それどころか来訪者によって半数近くが瀕死の状態に追い込まれ、撤退しようとしたところへゴバの奇襲。


 隊長をしていたドゥアグは今も目を覚さまずにいる。


 無事に帰ってこられたのは2人程度で残りはほとんどが重傷近い傷を負っていた。ゴバ狩り失敗への落胆を思いつくほどの余裕を持った人間はおらず、ただでさえ厳しい状況の中で戦闘できる人間が減り、ただ色々なものを消耗するだけだったという事実にみんなして肩を落としていた。


 唯一の功績。これも功績というほどのものではないが、来訪者の荷物を手に入れられたことくらい。外套、銀の筒に囲まれた針が動き続ける道具、そして鞄。船もあったらしいがゴバによって破壊されてしまったらしい。


 何人も死人を出してその結果が実質外套のみだなんて言えるわけがない。無事に帰ってきたアググゥからこの話を聞いたときは頭を抱えた。近々祭りが起こる可能性だってある。こんな状態ではこの村はあっという間に奪われてしまうだろう。


 とにかく目の前に置かれた凄まじい力を秘めている鞄を開けなければすべて終わりだろう。グゥアグァは様々な手段を用いて鞄への試行錯誤をするがとんと無駄。


 うんともすんとも言わないだけでなく、いくつかの石器はダメになってしまった。現在負傷者の看護に徹している村民たちになんて説明すればいいのかわからない。旦那、息子たちの死は無駄になったと言えるはずがない。


 怒りに支配され、この村の中で殺し合いが起こってもおかしくない。一つの行動がどのように作用して自分の首を絞めるのか、悪い想像は無限に繰り返され尽きる事はない。万が一のことを常に考えておかなければならないだろう。


 八方塞がりともいえるこの状況が少し変化見せる。

「グゥアグァ、ドゥアグの娘が何か見つけたと報告しに来ている。」

「今はそれどころでは、あっ、おい、」

 

 グゥアグァの状況などお構いなしにドゥアグの娘はやってきた。

 

「そんちょ、カババの方に知らない生き物がいる。」

「また勝手にカババに行ったのか。ゴバに襲われたり厄者に捕まると何度言えば、」

「でも、とうさんの薬足りない。死ぬとご飯無くなる。ゴバに食べられるのも、食べ物無くなってみんなに食べられるのも同じ。」

「そうだけどな、って、その知らない生き物って。」

 

 ドゥアグの娘はカババ、入り江の辺りで見た自分たちと背格好は似ているが、耳や目の色、髪の色が特徴的な未知の生物についてグゥアグァに報告した。


「亡骸がないからもしかしてと思ったが生きていたか。来訪者。」

 吉報でありながら悲報。当面の悪感情は来訪者に向けることが出来るのは幸いだが、来訪者が自分たちを狙っているのだとしたら、恐怖に怯え、仲間内で争うなんて可能性もあり得る。


 来訪者の恐ろしさは生存者アググゥからの話で、ほとんどの村民が知っている。話を聞いていた感じを見ると敵対心よりも恐怖を感じていた割合の方が多いように思えた。


 しかし、そんな事も言っていられない。ゴバを狩れなかったということは食料や肥料、羽毛、薬効の強い嘴などが得られなかったということ。その事実をきちんと理解し始めるのはもう少し後だろうが、その事実に気づいた途端。村全体で抱く感情がどこへ向くかわからない。


 それならば、わかりやすい敵として来訪者の存在を立てるしかないだろう。グゥアグァは覚悟を決める。村民が集まる広場へ向かった。


―――――――――――――――――――――――――――


 サバは祭壇に向かい神からの声に耳を傾ける。村民達はその様子を息を呑んで待っている。


 2度鐘の音が響き、俯いていたサバが顔をあげる。神託を受けたようで振り返ったサバは隣に控える司祭の耳元で囁いた。

 話を聞いた司祭は一度驚いた表情をした後、控えている村民達に向かって話し始めた。


「クァンナバ様からのお告げだ。近々全てを巻き込む争いが起こる。風の妖精と時の王族がその争いを鎮めるが仮面の民によって邪魔される。その争いを鎮めなければ我らは全員この地の贄となる。」


 風の妖精と時の王族。何の話かわからない神のお告げに動揺が走る。それだけではなく、自分たちの身が危険である事も告げられた事で動揺は畏れへと変化する。


 ざわつき出した村民達に向かって司祭は声を荒げて静かにさせる。

 

「静まらんか!クァンナバ様の祭壇の前ぞ!」

「まぁまぁ、シケム。みなの気持ちもわかる。そこまで声を荒げなくていい。」

「サバ様、失礼しました。」

「皆の者、お告げに驚いただろうが、我らのすべきことはクァンナバ様に示された。風の妖精と時の王族がわからなくとも仮面の民はわかる。翌満月までに争いの準備を始める!」


 リオンが島を訪れる前の出来事だった。

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エルフは島風に仰ぐ @mitume14

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