第32話
アクバィラウに着いたラパパ率いる数人のティケティス海賊団は、海岸にいる悲壮感に満ちた島民を次から次へと拘束していった。
力の強い鉱夫といえど、戦闘を生業とするラパパ達に敵うはずもなく、人数差などあっという間にひっくり返され、後から来た鉄具を持った増援もあっけなく拘束された。
唯一、若い男が3人相手に立ち回っていたようだが、手の空いたラパパが対応した事で、海岸は完全に占拠することが出来た。
占拠する少し前に、リオンから合図が送られてきており、ラパパ達は急いで準備に取り掛かる。
「シゥ・ラウってやつは今ここにいるか?」
縛られ意識のある島民たちは顔を見合わせて、なんて答えるべきか悩んでいる様子だ。
「シゥ・ラウとは、私の事だ!」
ラパパが踏みつけ身柄を押さえつけている若い彼がそう名乗り上げる。ラパパの中ではどう動こうかプランがあったためまさかの行動に面食らってしまう。
「いや、シゥ・ラウは、」
「私だと言っているだろ、お前たちそうだろ!」
状況を飲み込めずに困惑している島民たちに凄むような圧を向け、是のみしか用意していない質問をぶつけるが誰も理解できずあやふやな返答がちらほら返ってくるだけだった。
「おまえら、」
「もういい、君はシゥ・ラウじゃない。まず年齢も違うし、この反応を見れば一目瞭然だ。」
「それは、」
「君が何を考えてシゥ・ラウを騙っているのか知らないが、よしておけ。身代わりになってやるほど優秀でも、高潔でもない。そんな男だよ。」
「なにを知って、」
つい話過ぎたラパパは、話の流れを無理やり軌道修正し、
「シゥ・ラウとの約束した品物があるはずだ。ここアクバィラウの持つ食料の半分。どこにあるのかさっさと教えてもらおうか!」
「約束?」「半分の食料って、」
島民たちはさきほどまで争っていた、ジ・ラウとバルインの客人が提起した、シゥ・ラウの問題を思い出す。あれは本当だったのだとここで理解し、ジ・ラウと、バルインの客人へ送った態度を反省する。それしか出来ない。
シゥ・ラウの直属の部下であり、次世代のボハマエの民を務めるキロ・ラウも、その事実に動揺は隠せず、大きなショックを受けている。
「おい、早く言わないか。食料さえ渡せば誰の命も取らないって言ってんだ。」
キロ・ラウに視線が集まる。この場で最も権威があるのはおそらく彼だ。彼の決断がアクバィラウの決断であり、島民と総意となる。
キロ・ラウは動揺する頭は落ち着かせ、ここで食料の在処を言うという意味を熟考する。
従順に答えるというのが最も悪手。彼らの海賊団だけでなく多くの略奪者に脅せば食料が手に入ると認識されて、この島は終わる。交渉するほかない。それも出来るだけ対等に感じられる条件に。
反抗的な態度を取るのは慎重さが求められる。やりすぎてはいらない犠牲をうむだけだが、何もしないのはそれもそれで、従順に答える事と同義とされる。
「代表者は君みたいだな。若いの。」
ラパパは押さえつけたキロ・ラウに再び問いかける。
「食料の在処か、シゥ・ラウの居場所を教えろ。君が黙っている時間、そこに転がってる仲間がどうなるかわざわざ説明しなくてもわかるよな。こんな事でいちいち時間をかけたくないんだ。」
「場所は言う。けれど、教えた瞬間殺されるなんて事も、わざわざ注意して言うほど珍しい事でもない。そうだろ。」
「ははは、そんなに睨みながら話すんじゃないよ。殺気が漏れすぎ、交渉するにはもっと慎重に言わなきゃ、」
「ご忠告ありがとう。それで、先に島民を解放して離れた場所に行かせてくれ。そうしたら食料の在処を教えよう。シゥ様ではなく俺の命だってくれてやる。」
「君の命を貰ったところで、ナイフが汚れるくらいで何もいい事は無いが、覚悟は伝わったよ。おい、そこらの奴ら解放してやれ。」
ラパパの指示で縛られていた者たちが解放され、気を失っている者たちを担ぎながら、その場を離れていく。
全員がキロ・ラウの姿を噛み締めるように見つめ、何か言いたげだがその言葉を吐かぬように堪えている。
「さぁ、これで十分かな。」
「あぁ、随分素直なんだな。」
「好きで殺しをやってるやつなんて仲間にはいないよ。それで、食料はどこに?」
「ここから聖堂に向かう途中にある住居に分けてあるらしい。カバの家、山羊を飼っている家にあるはずだ。わからないようなら案内するが。」
「いや、案内は大丈夫。」おい、とラパパは取りに行くよう指示を出し、キロ・ラウの方を向き直す。
「君、名前は?」
「キロ、キロ・ラウだ。」
「キロ君ね、俺はラパパだ。家名はない。ただのラパパ。」
2人は少しだけ他愛もない会話をして、キロ・ラウはラパパへの認識を改めた。それと同時にこんな彼がどうしてこんな強引なやり方をするのか疑問に思った。
「ありました!」
カバ・ラウの言っていた通り、雑だが梱包された食料があったようで、海賊達に運ばれる食料を陰から見ている島民たちの表情は様々。悔しそうだったり怒っていたり悲しそうなどれかである事は確かだった。
「シゥさ、シゥが約束したのはこの食料だけか?」
「いいや、シゥが言うには首長が死にかけてるからそこを襲っちまえって言われてたんだけど、君教える気ないでしょ?」
「当然。」
「それに、俺たちもどうしたもんかなって感じなんだ。」
「というのは?」
タマリとの約束では食料を運ぶくらいのタイミングで、リオンたちが出てきてラパパ達を退散させる手筈になっていた。しかし、彼らの姿は一向に見えない。
「まぁ、しばらく待つかな。キロ君も、島民の元へ戻っていいよ。話し合う事もあるだろうしさ。」
「それはありがたいが、」
「あぁ、俺たちはもう襲う意思はあんまり無いんだけど、その事は黙っといてくれない?それならもう手出しはしないって約束するからさ。」
「それだけで良いのか?もっと食料をとか、女をとか、」
「いらない、いらない、あ、でも1つだけ。シゥの悪行はちゃんと喧伝しておいてよ。この島を売ろうと海賊を呼んで、首長殺害、食料贈賄、余罪はたっぷりあるはずだからさ。」
「それはもちろん。シゥには色々聞かなければならない話が、」
ここで風が凪ぐ。不自然に風の動きがなくなり、周りを見ると海賊のほとんどが地に伏している。気を失っているわけではなく、押さえつけられているようだ。ジタバタと抵抗しているが見えない何かからの攻撃には一切対処できてない。
「来たか。」ラパパはそう呟いて、地下道に現れた人影に視線を送る。
「彼らは、」
ラパパにつられてキロ・ラウの視線も移る。そこにはエルフの戦士が立っていた。
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